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26

 お台場でニビルを迎え打つ事にした俺たち特殊部隊は彼らに発見されやすいように大きな天幕を張ってお台場で野営していた。


「桜様が用意してくれた自動展開式防御シールドの性能は段違いなんだけどさ。全身を包んでいるのに見えないから、なんか裸の王様になった気分だよ」


 天幕の中で椅子に座り、手を頭の後ろに組んで足をバタつかせている結が、暇を持て余してそんな事を口にした。


「言い得て妙だね。ただ奴等にどれだけ通用するのかは未知数だから油断しないでよ」

「わかってるわよ、そんなこと。要は当たらなければいいんでしょ。簡単じゃない」

「さよですか」


 洸太のくせに生意気だとか怒っているが無視する事にした。これ以上相手にするのも面倒だ。


「来たよ! 西の上空から一直線にこちらに向かってきてる!」


 周囲を警戒していた朧が敵の発見を知らせにきた。

 俺と結は一度顔を見合わせて天幕からでた。


「全員フォームチェンジし、戦闘態勢に移行せよ!」


 結からの号令により、全員がフォームチェンジする。そして予め決めていた通りにチーム毎に散会して布陣した。


 俺と結、そして麗子さんと三人で天幕の前で敵を待つ。

 西の空から敵が地面に落ちるように降り立つと、辺りに土煙が視界を塞ぐように舞い上がった。

 土煙が収まると一歩前に出ている女王を中心にして楔のように八人の鳥や獣頭の亜人が並んでいた。

 その彼等の強さの波動に生唾を飲んだ。


「ようやく出てきたか。脅した甲斐があるな」


 俺たちより三倍は背丈が高い女王が俺を指差しながらそう言った。そして言葉を続ける。


「あのオスは私の獲物に決めた。お前らは他の奴等に邪魔されないように適当に痛ぶってやれ」

「御身の意のままに」


「いやあ、持てる男は辛いな。でも、感謝する。あなた達の崇高な精神に敬意を捧げるよ」


 後頭部を軽く片手で掻きながら歩きだした。


「洸太。死ぬんじゃないわよ」

「ご武運を」


 結と麗子さんは左右に散会してこの場から離れると、俺は女王様の張った結界の中に女王様と二人だけ取り残された。


「邪魔されたくないからな。だが、今回はメスの姿にならなくてもいいのか。ティアマトで我が艦隊を一人で壊滅させたあの時のように」


 はぁ。最初から俺は目をつけられていたという訳ですか。まいるよな、ほんと。


「あの姿は近接戦闘には不向きなんだよね。期待に応えられなくて悪かった」


 そう言いながら周りの状況を確認すると、仲間達が苦戦している姿が映る。


「別に強ければどんな姿だろうと構わんさ。おや、仲間が痛ぶられているのが気になるのか」

「そりゃあ、気にしない方がおかしいだろ」


 相手の気の高まりを感じて、俺も刀を右手に持つ。


『マスター、相手に集中してください。周りを気にして勝てる相手ではありませんよ』


 分かっていると、ブレスレットを一度軽く指で叩いた。


「見せてみろ。貴様の煌めきを」


 女王の全身から圧倒的な量の魔力の輝きが放たれ、その身を包んだ。

 その輝きは紅。燃え盛る焔のように大きく揺らめいている。


「敵じゃなきゃ、つい見入っちまうな」


 外套を脱ぎ捨てて、体勢を低くして相手に向かって駆けだした。

 女王が手にしている武器は薙刀によく似ているが刀身部分はそんなに大きくはない。敵の間合いに入った瞬間に瞬間移動で女王の眼前に移動すると、彼女がニヤリと笑った刹那に左から激しい痛みと衝撃が全身を駆け抜ける。そのまま吹き飛ばされて地面を転がった。


「高位の者に対し、それは悪手だ。出現場所などお前か現れる前に容易く察知できる。だが、背後を狙わなかったその意気はよしとしよう」


 片手をついて身体をお越し、口から僅かに流れでる血を腕で雑に拭う。


「そういうのは早く言って欲しいよな」


 女王から視線を外さずにゆっくりと立ち上がる。

 たった一発もらっただけで膝が笑う。それを悟られないように踏ん張った。


「さあ、来い。もっと我を楽しませよ」


 もう一度、身体を低く沈ませて走る。

 横から払われる薙刀をバーを超えるように跳ねて躱す。着地しても足を止めずに女王の懐に潜り込んで魔力を纏わせた刀で逆袈裟斬りを試みるが半歩右にズレられ、器用に持ち手をスライドするとそのまま薙刀の柄で横っ腹を強打されて大きく飛ばされ、また地面を無様に転がる。


「ほう、咄嗟に跳んで威力を殺したか。器用な真似をする」

「器用なのはそっちだろ」


 輝夜から回復魔法を施されるもダメージが残る。


『マスター、威力を消しきれなくてすみません』

「いや、あれだけ殺してくれれば文句はないさ」


 ブレスレットから輝夜は謝罪するが、十二分に彼女は支援してくれている。刃が届かないのも、相手の攻撃を避けられないのも全部自分の力が及ばないせいだ。

 少しだけ周りの状況を確かめると、七つに班を分けていたのだが、それぞれの班が分断される形で敵一人と戦闘している。それを小柄な女王と同じ姿をした女性がやや離れた場所から眺めていた。


「どこもかしこも大苦戦すぎて逆に笑うな」


 立ち上がり、視線を女王に戻す。

 今度はゆっくり歩いて間合いを詰めていった。


『打ち合うつもりですか。無茶です!』

「デカいの狙っても当たらねぇ。真っ向勝負するしか手がないだろ」

『距離を取って魔法を、』

「絡められるとは思えない。だが、近距離なら話は別だ」


 不敵に笑う女王を見上げる。元から大きいが、女王が放つ強大なオーラせいでより大きくみえる。

 刀を両手で握り、霞に構える。


「ここからが本番だ。いくぞ、輝夜!」


 連続して素早く振るわれる丸太並の太さの薙刀をいなしたり、躱したりしながら、僅かにできる隙間を見つける度にそこに素早く飛び込んで何度か斬りつけ、捕まらないように素早くまた距離をとる。

 それの繰り返しを何度も行うが、薙刀が掠っただけでも信じられない程の痛みが全身を駆ける。


 額を切ったのか、血が片眼をふさぐ。

 徐々に蓄積されていくダメージで身体が重くなる。

 周りの気配を読んでみれば、結菜以外は死んではいないが地面に倒れている。


 一度大きく距離をとって、目で周りの状況を確認する。

 敵はとどめも刺さずに倒れている彼女達を放置して、こちらの戦いを見つめていた。唯一、まだ戦闘中の結菜をのぞいて。しかし彼女も、俺と同じでボロボロだ。偶然彼女と視線が合う。二人同時に微かに笑った。


 勝てないな。ゆい姉でも勝てない相手に、俺が勝てる訳ないか。

 でもここで諦める訳にいかないよな。


「輝夜、リミットを解除しろ」

『駄目です。危険過ぎます!』

「いいから。命令だ輝夜」

『無茶です! 身体が持ちません、死ぬつもりですか!』


 死ぬつもりも何も。全てを懸けなきゃ、届かないだろ。まあ、それでも届くのかは分からないけれど。


「輝夜、ごめんな」

『マスター何を、まさか! 駄目です、それだけは絶対に駄目!』

「使用者権限により輝夜をパージ。オートモードに移行しろ」

『イエス、マスター』


 無機質な声が答えて、すぐに輝夜だけを切り離した。


「リミットオフ」

『イエス、マスター』


 桜さん趣味の派手なエフェクトと共に髪の色がピンクゴールド、咲耶と同じ色に染まり輝く。

 残された魔力が全て余すことなく全身を駆けめぐり、俺を強化していく。


 そして刀も白銀に眩く煌めく。


「ほう。それが貴様の全力か」

「ああ。そんなに長くは持たないけどな」


 一振り。たった一振りしかできないだろう。

 けど、その一振りできれば充分だ。

 俺はやや離れた場所の女王を、真っ直ぐ見つめた。



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