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 ぼんやりと天井を眺めていた。

 自分だけがみんなから取り残されて、一人だけ失格の烙印を押された。

 正直に言って自分ではどうすれば認めてもらえるのか分からない。彼女達と何が違うのだろうか。


「王よ、失礼します」


 そんな事を考えているとミズハが部屋にやってきた。いつものなら五人一緒なのだが今日は一人だ。


「どうした」

「明日、宇宙艦に乗艦する事が決まりました。そのお知らせと持ち込む着替えなどの荷造りのお手伝いにきました」


 宇宙艦の乗艦と聞いて大喜びしそうになるが必死に堪えた。遊びだとまた思われそうだったからだ。


「そっか。荷物は着替えだけでいいのかな」

「持ち込みたいものがあればお好きに。との事でした」


 そう聞いて取り敢えず二人で着替えをたたみ直してバッグに詰め込んでいく。

 会話のあまりない状態が続いていた時に、ミズハが服を畳みながら話しかけてきた。


「王は何故、戦うのですか」

「大切な人を守るためかな。ミズハだってそうだろう」


 互いに服を畳む手を止めずに会話を続けた。


「違います。私たちは生きる為に戦うのです。オスを狩るのも。獲物を狩るのも、部族の為に戦うのも全て、私たちが生きるためです。王が戦う理由には自分の事は入っていませんか」

「まあ、国と国民を守るのが仕事だし、含まれていないかな」


 ミズハはその答えを聞いて手を止めて、こちらを向いた。


「そこが王と奥方様達との決定的な違いです。この国のオスどもは恋仲や婚姻を結んだらそれでお終いと思っている節があります。しかし女性は違います。恋仲になってからが始まりなのです。婚姻を結んでからが本当のスタートなのです。愛する人と幸せな未来をこれからつくり、共に歩むと。それはティアマトの民も同じ。ですから。戦う一番の理由が、愛する人と共に歩む未来のため、なのです。それが王には欠けているのです。だから、琥珀様にも輝夜様にも認められないのですよ」


 その言葉を聞いてしっくりきた。

 たしかに俺にはそんな想いはなかった。

 自分の命を犠牲にしても大切な人を守れればいいとだけ思っていた。それが間違いなのだと気付きもせずに。


「愛する人と共に歩む未来のため。……そうだよな。戦って死んでしまったら、残された愛する人を悲しませてしまうよな。しかも、その命を懸けた戦いに意味も何もない戦いの末に命を落としたら、自分を慰める理由もなく悲しみに暮れてしまう。俺は一番大切なことを分かっていなかったんだな。ごめんな、ミズハ。愚かな男で」

「王が謝る必要なんてありません。今、ちゃんとご自身で気付けたのですから」


 自分の愚かさに項垂れていると、ミズハがそう言って俺を抱きしめてくれた。

 その彼女のぬくもりと優しさに、つい涙が溢れる。


「 ……今から俺はちゃんと変われるのかな」

「はい。私達が王を立派な戦士になれるようお支えします」

「 ……うん。ありがとう」


 そこからは自分の至らなさに耐えきれなくなってミズハに抱かれたまま大泣きした。



 ◇


「ねえ。ミズハってあんなに女子力高かったの」


 輝夜ちゃんが映す洸太の部屋の隠し撮り映像を観てそんな感想を溢した。


「でもこんなストレートで良かったの。あれなら私も言えたよ」


 いや。それは違うね、律。あの絶妙なタイミングと話の振り方。あれは見事なものだよ。そんな事も分からないようじゃ、律。君はまだまだだよ。


「そうなんだよね。私たちは洸太くんと共に歩む未来のために戦うんだからさ。そっか、素直に本音で語るのが一番なんだね」


 さすがは八島ちゃん。今や私の一番の妹分だからねぇ。ほんと、よく出来た子だよ。


「ですが。その想いを確実なものにしなければなりません。コウタの意識改革はまだ最初の一歩。まだまだ気を抜けませんよ」

「セオたんの言う通りだね。みんなもまだ気を緩めちゃダメだよ」


 大泣きしている洸太の映像に目を戻すと、後ろからコソコソ話す声が聞こえた。


「ねえ、このままやってしまう方に一万円」

「ええぇ、しないと思うよ、さすがに」

「私もしない方に一万円賭けるよ」

「いやいや。流され上手の速水くんだよ。する方に私は一万円ね」

「たしかに。あの世界一の流され上手の速水くんだからね。私もしてしまう方に賭けるよ」


 この子達は本当になにしてんのよ。

 毎回毎回、遊びに変換しないと死んじゃう病気なの。しかも何よ。流され上手の速水くんって、最高に上手いことを言わないでよね。思わず噴きだしそうになったじゃない!


「私も流され上手な速水くんに賭けるわ」

「うーん、なら私は本命を捨てて、やらないに賭けるよ」


 舞さんと桜様まで何してるんですか!

 そんな事を思ってると居間の壁に特大の賭け表が貼られた。


「さあ、今ならやらないに賭けると大勝ちだよ!」

「私は流され上手の速水くんに三万円!」


 桜様の声に反し、セオたんが大金を賭けた。すると、れーこが桜様にのっかると三万円を賭けた。


「ちょっと真剣に観なさいよ!」


 一人だけ正気の私がみんなを諌めてみる。


「輝夜は流され上手の速水くんに一万円ですね」


 その私の声を無視した輝夜ちゃんの一言は絶大な影響を及ぼした。みんな次々と流され上手の速水くんに賭けはじめる。思わずつい私もそれにのっかった。それに合わせて桜様達も賭け金を積み上げると互いにどんどんと金額が膨れあがる。


 全員が固唾を飲んで映像を見つめる。見つめるが何も変化は起きない。

 なんとなく輝夜ちゃんの方に視線を移すと桜様と目を合わせてニヤニヤしていた。それを不思議に思いながらまた映像に視線を戻す。


 結局、何事もなくミズハは洸太の部屋から出ていった。

 賭けの結果は何もしない、だった。


 ふと、輝夜ちゃんが視界に入ると、桜様とこっそり握手をしていて、そこで気付く。


「あああぁ、騙された! 桜様と輝夜ちゃんにしてやられたっ!」


 私の指摘に二人は両手を上げて飄々と否定した。


「証拠はあるのかい、結菜くん」

「そうです。輝夜を疑うなんて酷いですよ、およよよ」

「 ……無駄に迫真の名演技するな!」


 やられた。たぶん後から桜様の大勝ち分を二人で山分けするのだろう。


「やられたわ。流し上手の輝夜ちゃんと桜様に……」


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