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琥珀が祝福すると、俺以外の全員が自分の両手を広げて見つめながら驚いていた。
「君たちは真のハイヒューマンに進化した。その上で更に力を授けた。その強大な力を正しく振るうと信じてる。けれどコウタ。君には与えない。理由は分かるだろ。その資格すらないと自分で。いや。それが理解出来てるのならばまだましか。そうだろ。輝夜」
「はい。残念なことに彼に与えても、その力を自分自身が楽しむことにしか使いません。彼にはメイガスシステムも戦う力も不要です。悪戯に周りを混乱させるだけです」
「そうだね。私もそう思っている。なあ、君たちはどう思うかな」
琥珀に訊ねられ、去ったはずの咲耶達が戻ってきた。
「輝夜ちゃんに同意します。彼は未だに宇宙艦なども自分の遊び道具としか見ていませんからね」
「な、なんでそんな事を決めつけるんだよ!」
「コウタ。私には人の嘘も。人の魂の正邪も判別できるのです。今のあなたは、私が出会った頃より遥かに精神も魂も劣化してます。これも私たちが甘やかしてきたせいなのかもしれません。本当に申し訳ありませんでした」
「嘘だ、そんな事が分かるはずない!」
「彼女の話した事は真実だよ。そして皆にも彼の魂が如何に曇っていて、その精神が未熟かを見せてあげるよ。セオリツヒメが見ているようにね」
琥珀は指をパチンと鳴らした。
すると皆の表情が驚きに染まり、そして俺を見て落胆していた。
「そしてこれが以前、セオリツヒメが見た彼の魂の色だよ」
そしてまた琥珀は指を鳴らすと、皆が俺の頭の上を見つめていた。そして更に彼女達は落胆した。
「ごめんね、洸太くん」
「私達がちゃんと言わなかったから」
「洸太。すまない……」
皆が口々に謝ってくる。とても辛そうに……
「君のその心では、とてもではないが戦う力など与えられない。まあ、人としては普通に合格なのだけれどね」
「コウタ様。そんなに悲嘆する事ではありませんわ。私達ハイヒューマンの寿命は長いのです。ゆっくり取り戻していけばいいのですわ。私が毎晩慰めてあげますの。だから、」
「待って、ちい姉様! なに自分だけ得するような事をサラッと言うのですか! お姉様からも何か言ってやってください!」
この二人のせいでシリアスな空気は見事に破壊され、この場が一斉に笑いに包まれた。
まあ、俺と輝夜以外は。
「コウタ。宇宙艦には乗せてあげるから、そんなに落ち込まないで。もっとも、乗せてあげるだけだけど」
「そうね。全てコウタには使用出来ないようにロックして。だけどね」
美緒と咲耶がそう話すが、その内容でいかに俺の信用がないのかを実感した。
俺は彼女達にありがとうと言って、この場から立ち去り、自分の部屋に戻った。
「これより家族会議を始めまーす。の、前に。ちゃっかり抜け駆けしようとした者の粛清裁判を行いたいと思います」
「既に行われてるのだわ! やめて、こんな事は真っ昼間からする事ではないの、あーあんっ」
私の背後。みんなの目の前で、ひめたんはふしだらな声をあげた。
「お前たち。よくこんな真似をして平気でいられるな。人の心を失ったのか……」
琥珀ちゃんが白い蔦に絡まれて妖艶に喘ぐ、ひめたんを見て戸惑っていた。
しかしそれよりも気になる事があった。
「ミズハちゃん。床を拭いてちょうだい。このままではシミになって残っちゃう」
「はい」
「三笠ちゃんとワカたん並にすごいよね。よっぽど大勢に見られて興奮してるんだね」
「「 一緒にしないで! 」」
朝日ちゃんの言葉に二人はすかさず否定した。けれども私達は知っている。二人はそんなものではないと。
「本題に移りましょう。洸太を今回の戦いには参加させない。これはみんなの総意なのは間違いないわね」
私はみんなの顔を見渡した。
「どうやら反対はないようね。ではどうするか。なのだけれど。厳しさだけでは駄目。やはり飴と鞭よね」
「はい! 結菜さん、私が飴をやりまーす!」
「はい! 私も!」
次々と挙手して飴役の立候補が後を経たない。
ちゃっかり挙手しているセオたんを睨むと彼女はそそくさと手をおろした。
「私は無理だぞ。揶揄うのは得意でも甘やかすのはなぁ」
「その前に琥珀ちゃんはまだしてないでしょ」
「桜。それは関係ないだろう」
琥珀ちゃんと桜様の脱線した会話が繰り広げられた。わりとこうなると収拾がつかないのはいつもの事ではあるが、ここは輝夜ちゃんに期待してみる。
「輝夜ちゃん。何か良い案ない」
「マスターの事はミズハ達に任せておけばいいのです。厳しい訓練後に甘やかしながら調教すれば良いだけです。但し、彼女達がハメを外さないよう監視する必要はあります」
調教? なにを調教させるの。まさか海女族流の手練手管じゃないわよね。
「危険ですわ! あん、あああぁあ……」
喋るのか喘ぐのか、どっちかにして!
「そうね。海女族の秘伝を継承した私としては少し危険を感じる」
ワカたんがそう危惧した。
「輝夜ちゃん。まさかミズハ達に夜伽をさせるつもりかい」
「マスター桜。マスターが伴侶に選ぶとは思えませんが。そろそろ彼女達にも褒美を与えてもいいのではありませんか。未だにミズハは処女ですし、最初はミズハがするまで彼女一人に飴役をやらせて、それから五人で甘やかして、戦士たる気構えを教えていけばいいかと思います」
チラッとミズハちゃんを見ると彼女は顔を真っ赤にして恥ずかしがっていた。
「それしかないわね。私たちが甘やかしたら元の木阿弥だもの」
その舞さんの一言が決定打となり、この件はミズハ達に飴役をしてもらう事が決まった。
「それで私たちはいつ宙へあがるの」
「既に宇宙艦は光学迷彩で隠して府中基地に。あなた達の準備さえ整えばいつでも可能よ」
「艦内での生活品か。どのくらい着替えがあればいいの」
「自室の壁に設置しているランドリーに放り込んでもらえれば自動で一時間程で皺もなくキレイに折り畳んだ状態で出てくるわ。それに部屋にはクローゼットもちゃんと備えられているからお好きに、としか言えないわね」
なんて素敵なの。至れり尽くせりじゃない。
「それに娯楽室もあるからね。みんなで遊べるよ」
まるで豪華客船みたいじゃない。一度も乗ったことはないけれど。
そんなセオたんと美緒の話を聞いて、全員が目を輝かせていた。
「明日には乗艦しましょう。それがいい、洸太も喜ぶし。うん、みんな急いで準備を整えましょう!」
「赤城。私が艦長なのを忘れないで。あ、な、た、は、ただの、メイガス隊の隊長よ」
……そうだった。すっかり立場を奪われていたのを忘れていたよ。
「そして、広域特殊作戦司令部の司令官は凛花ですからね。つまりあなたは上から三番目なの。乗艦したら私たちにちゃんと従いなさいよ」
「うん。でも桜様を含めたら四番目じゃないの」
「桜様は別枠よ! 私たちと一緒にしたら失礼でしょ!」
いや、別枠扱いも失礼だと思うけどなぁ。
でもそんな口ごたえしたら更に怒られるだけだし黙っておこう。
とにかく、今は準備が先ね!
はああぁ、ほんと楽しみだよ。
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