18
次の日。
全身の痛みを堪えながら、敷島司令と赤城少将。そして加賀一佐と俺の四人で、天皇陛下と瀬織津姫と面会し、ことの経緯を伝えると二人は既に知っていた。
訓練が終わるまでは自宅での特別訓練に励むよう厳命され、同時に今後の方針を聞かされた。
「メイガス隊はあなた達、特殊部隊を残して解散させます。今後はアンドロイドのみで編成された部隊でニビルと交戦します。また、魔導機甲軍もそれは同じです。全てアンドロイドのみで編成し、人的被害を抑えます」
「部隊を解散したメイガスの処遇はどうなるのでしょうか」
舞さんがそう訊ねると瀬織津姫は一度、陛下を見て了承を得る。
「敷島司令。これは陛下が進めていた極秘のプロジェクトになります。現在、大都市の地下には巨大なシェルター。その地下都市が完成しています。先日の札幌では避難が遅れ、市民に少なからず犠牲が出ましたが概ね住民は地下都市へ避難して難を逃れています。そこに避難した住民はニビルが地球を去るまで暮らしてもらう事になっています。解散したメイガスの方達にはそこで住民の警護を担当してもらいます」
その瀬織津姫の言葉に戸惑いと動揺した。
「まさか地上を捨てるのですか。それに、大都市以外は見捨てるのでしょうか」
「地上を捨ててニビルの目を欺きます。私たちがほぼ滅んだと敵に思わせるのです。そして二つ目の質問にお答えします。彼等は世界的にみても大都市だけを目標にしている傾向があります。したがって、大都市以外は攻撃されないと判断しました。もちろん。その他の都市に住む方々の避難先は地下都市ではありませんが用意してあります。それで充分だと我々は判断しました。尚、この決定は既に天皇陛下と元老会。そしてティアマトとの話し合いで決められた事です」
要は、もう戦わないということだ。
脅威が過ぎ去るまでじっと地下で耐えるということなのだが、一つ疑問が浮かぶ。
「なぜ、特殊部隊は残すのですか」
俺がそう質問すると、瀬織津姫はまた陛下に了承を求める。
「平たく言えば、偽装を見破られないようにする為の捨て石です。つまり、交戦する気はあると思わせる為の部隊です。敵の本隊はあなた達第一小隊の精鋭を最大の攻撃目標に定めていますからね。あなた達まで雲隠れさせる訳にはいかないのです」
なるほど。俺達の生死は問わず、見事役目を果たせということか。
それで多くの国民を生かすことが出来るのなら、甘んじて受け入れよう。
「かしこまりました。そのお役目、しかと果たしてみせます」
俺達はこうして皇居を後にした。
俺以外の三人も悲嘆に暮れてたりはしていない。
寧ろ、訓練に励みがでると息巻いていた。
しかし、その後の訓練ではその励みはまだ実を結ばなかった。
その日も手足も含めて様々な箇所の骨を折られ、ボロ雑巾のように打ちのめされた。
ミズハ達はこんなハードな訓練を幼い頃から積んできたと思うと尊敬する。
全員を相手しても彼女達の息は乱れない。
そんな強者に立ち向かうために必死に立ち上がる。全身からの痛みで悲鳴をあげそうになる。それでも歯を食いしばり悲鳴を堪えて拳を構えた。
訓練を初めて二週間程経った。
だいぶ体を動かせるようになり、始めた頃とは違ってまともに訓練ができていた。
しかし、その間日本は九州の福岡と北九州がニビルの襲撃により壊滅的な被害を受けた。また、先日は東北の仙台も同じように地図から消えた。
「ただいま!」
久方ぶりに美緒が地球に帰ってきた。
それも特大のお土産を持って。
「ん、どうしたの。みんなボロボロじゃない」
事の経緯を山城達が美緒に説明すると、おもいっきり呆れられた。
「ばかなの。ユイナの猪女ぶりは分かるけど無理でしょ。ニビルの女王相手に勝てるわけないって。お母様だって戦うなって、そう陛下に忠告したのよ。たいした信念も持ち合わせてないくせにあきれるわ」
桜さん達と似たようなことを言われた。
そして美緒の後ろから咲耶が現れ、そのまた後ろにはひめワカたん達もいる。
「そうですか。なら、宇宙艦は渡せませんね。その覚悟と決意が本物なら自分達の手で未来を掴み取ってください」
「そうですわ。他人の力を当てにして戦いを挑むなんて卑劣な輩のすること。ご自分達で解決してください」
「ここまで勘違いしているのをみると、愚かで滑稽すぎて哀れに思う。圧倒的な強者相手に戦わないという選択は愚かなことではない。寧ろ、逃げて生き延びる選択こそが正しい。それなのに。他者の力を借りて戦う。自分達の自己満足の為だけに。お姉様、こんな人達と一緒に居たくはありません。帰りましょう」
ワカヒルメがそう言うと咲耶達はさっさとその場から去っていった。特大のお土産を渡すこともなく。
「 ……そんなに愚かなのかな」
「愚かなのですよ。ただの無駄死にですから」
俺の後ろにいたミズハが本気であきれていた。
「私が知る限り。この星のかつての人達は戦士だけではなく女子供も、それこそ老人達も含めた全ての人達が自分達の力だけで命を懸け、その誇りを掛けてこの星の人類の未来のために戦った。私達からの決別を旗印に。今のあなた方には残念ながらそんな気概など感じません。皇太子殿下や皇族の姫様方が、マスター達を突き放したのも当然のことです」
「でも、夫である洸太くんが死んでも構わないって言うの」
大和がミズハに反論した。そして更に彼女をあきれさせた。
「それが彼の、あなた達の選択です。人は何かしらで必ず遅かれ早かれ死ぬもの。その選択を受け入れるだけです。それに。私たちティアマトになんの得もありません。皇族なら私たち以上にあなた方を切り捨てるでしょうね。でなければ皇国の民は皇帝陛下に従い、そして彼等についてこないでしょうから。愛情や情けだけで、自分達の星を犠牲にはできないのです」
ただ不適格の烙印だけが増えていく。
彼女に何も示せずに、悔しさに歯噛みするだけだった。
「そうあまり意地悪なことを言って虐めてやるな。ここのボスザルが一番あほなのだから。なあ、ユイナ。今戦ってるのは機械だ。人の命など失ってはいない。それなのにただユイナは理由をこじつけて戦いだけ。実際は遊び半分、興味半分なのにね。捨て石なら死なない程度に逃げまわっていれば良いだけなのに。かっこつけて自分達に酔ってるだけなのさ。民のため、国の為なんて勝手に口にして正当化してるだけ。未だに誰もその魂に輝きがない。全てが嘘なんだよ。せめて少しでも魂の煌めきを見せてくれたのなら、私が手を貸そうと思っていたけど、それは無理そうだね。だからさ、ミズハ。彼等に何を諭しても無駄なんだよ。もう、悪役なんか演じる必要はない。私から輝夜に言っておくよ」
琥珀が俺たちを畏怖させる圧を放ちながら、これ以上の成長は見込めないと断言した。
何も反論できずに、また項垂れるだけだった。
結局、俺たちは何も持ち合わせてはいないと証明しただけだった。
「洸太。私達は戦わない。命を捨てて戦う捨て石ではなくて。逃げながら、私達自身が生きのびる捨て石になる。これ以上誰にも迷惑は掛けたくはないの。みんなもそれでいいよね」
その結菜の決断に皆がただうなづいて応え、それを琥珀は満足そうに眺めていた。そして。
「そう。それでいい。くだらない意地は捨てろ。常に未来に必要な選択をするんだ。人は明日を夢見て、未来に希望を抱くからこそ、人である証なんだ。ユイナ。君の決断。そして皆の今までの努力に祝福を授けよう」
琥珀は片腕を天に突きあげると手のひらを広げた。そして、こちらに聞こえないくらいの小さな声で囁くと、白くまばゆい光がこの場を満たした。
「力は与えた。君たちの、君たちだけの未来を掴みとってみせろ」
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