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「なんだこれ……」


 結に無理やり地下の訓練場に連れてこられて模擬格闘戦をすると体が思ったように動かない。

 それは相手をしている結も同じでお互いにお粗末な動きをしていた。


 踏ん張りも効かなければ、バランスもすぐに崩してまともな攻撃も防御もできなかった。


「今まで如何にメイガスシステムにアシストしてもらったのかが痛いほど思い知らされた。そして、私たちの未熟さも」


 荒くなった呼吸。そして両手を床について項垂れている結がそうつぶやいた。


「ゆい。これでは何もできない。とてもではないけど戦場に立つ以前の問題過ぎて、どう対処していいのかさえも分からないわ」


 麗子さんが腕を組んだまま心底悔しそうな表情を見せていた。

 周りにいるみんなも同じような表情をしている。


 メイガスシステムは少ない魔力の効率化をアシストして、その少ない魔力で最大の効果を発揮してくれる。それは身体に関しても同じだ。

 知らず知らずのうちに俺たちは自分の身体をシステムなしでは上手く動かせなくなっていたのだ。

 初等部の頃に一番最初に習ったことをいつしか忘れて疎かにしていた。


 システムなしで鍛えよ。肉体の使い方を忘れるなと、あれだけ口煩く言われてきた事をだ。


「一からやるしかないわ」

「無理よ。時間が掛かりすぎる」

「ええ。とてもじゃないけど間に合わない」


 結のそんな意見に、麗子さんと舞さんが否定した。


「それしかないじゃない。なら、どうしろって言うのよ!」


 結のその叫んだ言葉に誰も答えなかった。

 いや。答えられなかった。


「失礼します、マスター。輝夜様に命じられて皆様を鍛えにきました。ただ、最初に断っておきますが、私たち海女族の訓練はとても厳しいものです。毎回、骨の二、三本は折れるものと覚悟してください。もちろん。私も常の訓練の時と同じようにメイガスシステムは使いません」


 訓練場に突然入ってきたミズハ達五人。その五人を代表してミズハが訓練をつけてくれると言ってきた。

 それを断る者は誰もいなかった。


「やり方は至ってシンプルです。私たちと戦って動きを盗んでください。それと、大変申し訳ありませんが、面倒なので一度に挑んできてください。正直、輝夜様のご命令でなければ断っています。私たちは自分の身体をまともに扱えないような弱者を相手にはしたくないので。それがたとえマスターであってもです。見誤ってました。あなた達が真の戦士だと思っていたのですが、とんだハリボテでしたね。戦士になる以前に心構えが足りてなさすぎて、同じ空間で息をするのも嫌になります。さあ、クズども。その心も、身体も、叩きのめしてあげますから掛かってきなさい」


 彼女の目はとても冷たく。そして険悪な感情を隠すことなく、俺たちを見下していた。

 そんな彼女達に負けまいと立ち向かっていく。

 けれど、相手にさえしてもらえない。

 悉く、一発で叩き飛ばされる。


 何度も、何度も手足が折れようと立ち向かっていくが、その日は最後まで彼女達の体に触れることさえ叶わなかった。


 そして本当のミズハ達との実力差を知った。

 高位の存在でありながら、弛まない努力と研鑽を積み続ける彼女たちとの差も。


 何もかもが、俺たちには足りなかった。



 ◇


「輝夜。お主も悪じゃのう」

「どこでそんな言葉を覚えたのですか。順応が早すぎてどん引きしますよ」

「昼にテレビでやっていたぞ。中々に痛快で面白くてな。私も黄門様になりたくなったよ」


 つい、こめかみを抑えた。


「輝夜ちゃん。ミズハ達に任せたら、戦場に出る前に殺されるんじゃない」

「しかも徹底的に煽れって指示まで出して。そこまで追い込む必要ないでしょう」

「マザーは本当に腑抜けになりましたね。短期間で済ませるのならば当然の方法です。マスターの秘書官としては失格ですよ、マザー」


 甘すぎるんですよ。常日頃からマスターを支えてきたのはこの私、輝夜なんですよ。これだから色恋が絡むと碌なことにならないんですよ。


「まあ、私もそう思うね。凛花は色恋を絡めすぎ。それじゃあ、彼は成長しないよ」


 マスター桜の言葉がダメ押しとなって、マザーは沈黙した。実際、その事はマザーも分かっている。


「うーん。凛花ちゃんはこのままじゃ駄目だね。せっかくコウタの子が宿っているのにさ。本当のハイヒューマンにしてあげた事を後悔しそうだよ」


「 ……あの琥珀。今なんと言いましたか」

「私に洸太さんの子が……」

「え、なに。めでた過ぎて舞い上がりそうなんだけど」


「うん、子を宿してるよ。ちゃんと心からコウタが望んだからだね。それを君もきちんと受け入れた結果だね」


「ま、マザー! 今すぐ安静にするのです!」

「そうだよ。まだ安心していい時じゃないからね!」


 私はマザー横向きに抱き抱えて、マザーをなるべく揺らさないようにしながら走った。


「一人で歩けますよ、輝夜!」

「駄目です! 絶対に安静にしなければ駄目なのです! はあぁ、なんて名前にしますか。色々と楽しみすぎて妄想が捗ります」

「だねっ! 一番最初が私の生みだしたアマテラス。凛花だよ。これ以上ない喜びだよ!」


 なぜか琥珀もついてきたのが気になりますが、神様がいれば安産間違いなしでしょう。


「まだ産まれませんよ!」


 私たち三人はマザーを甲斐甲斐しくお世話をする。それはマザーに邪魔に思われようが関係ない。ちゃんと無事に出産するまでお世話をする事が三人の中で決定した。


 ちなみにマザーがマスターに打ち明けるまでは誰にも内緒にする事にして、打ち明ける時期は訓練が終わり次第という事まで密かに決定した。


 どんな子供なのか。今からとても楽しみなのです。



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