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16

 俺は自分の部屋で、いま居間で行われている会話を輝夜に無理やり見せられていた。


「どうですか。自分が他人からどう思われているのか理解できましたか。そして、どれだけ甘ちゃんだったのかを知りましたか」


 かなりみんなに辛辣に語られた俺の評価は最低のものだった。

 きっと俺以外はちゃんと現実を理解していて。俺だけが遊び感覚。まるでゲームを楽しむような感覚でいたのだと強く知らされた。


「琥珀との戦いを、面白がるように受け入れなければやってられなかったんだな」

「ある意味で現実逃避ですね。大体、琥珀が本気だったならマスターは確実に死んでいたのですよ。怒っていても、手加減していてくれたから助かっただけで。琥珀がわざと魔法を喰らってくれたから撃ち落とせただけです。それを勘違いして勝ったと思ってるマスターのことを、輝夜がどれだけ滑稽だと思っていたか。それに、事あれば他人にばかり縋って。自分が愛をささやけば誰も彼もが都合よく動いてくれると考えているから、三年前に戦えば良かっただなんて巫山戯たことを言うのですよ。マスター桜の言う通り、マスターにはバトルメイガスシステムは過ぎたものだったんです。だからあほみたいに増長して勘違いするのですよ」


 その通り過ぎて何も言い返せなかった。

 そこまで輝夜に言わせてしまったことが心苦しい。ゆい姉が俺を戦いに出さないと決めた理由がよく分かった。


「何度死んでもやり直せる生は、美しくない。か。本当にそうかもしれない。……ところで琥珀だけなんで呼び捨てなんだ」


「あん、いま関係ありますか」

「いえ、ありません」

「そういうところなんですよ。軽く考えているから、輝夜が琥珀と呼んだことを気にするんですよ。マスター。輝夜は決めました。当分の間、メイガスシステムを使用させませんし、輝夜は一切サポートしません。自分一人で何ができるのかを本気で理解すべきです」


 そう言って輝夜は俺に触れる事もせずに手首からブレスレットを取り上げた。


「輝夜は今後はマスターと会話も、マスターと接することもしません。さようなら、マスター」


 そう言って輝夜は部屋から出ていった。

 少しだけ手を伸ばしかけたが我慢して止めた。

 ブレスレットを着けていないだけで、こんなにも不安になるものなのかと初めて知らされた。

 自分がどれだけちっぽけな存在なのかを自覚した。



 ◇


 このままでは本当に救いようのない、駄目な人になってしまうのです。

 輝夜は泣く泣くマスターを突き放すことにします。


 それにしてもまさかマザーが蘇生魔法のことや、咲耶様達が使う魔法を理解していなかったとは思ってもみませんでした。

 驚きすぎて、逆にひきます。


「琥珀。皆様に言い過ぎなのですよ。それに落ち込み過ぎて再起不能にしてどうするのですか」


 居間の横開きのドアをどーんと開けて彼女に注意した。


「お、輝夜。良いところに来たね。まあ、隣に座って煎餅でも食べようよ。これ、ほんとに美味しいぞ」

「当たり前です。輝夜が用意したのですから」


 私はそう言って琥珀の隣りに座ってお煎餅を受け取って齧ると、彼女がお茶を淹れて差し出してくれた。

 そんな様を目にして皆が驚いていた。


「ねえ、輝夜ちゃん。琥珀ちゃんとは仲良しなの」


 マスター桜がそんな事を訊いてきた、


「輝夜とは親友だぞ。なあ、輝夜」


 琥珀がそう言って私の肩に腕を絡ませて抱き寄せた。それを軽く払う。


「親友ですが、馴々しく触らないでください。輝夜に触れていいのはマスターだけです」

「なんだよ。あんなに激しく過ごした仲じゃないか。冷たいなぁ」

「言い方。言い方に問題あります」


 一度手合わせしただけじゃないですか。

 皆様に誤解されるような言い方はやめて欲しいものです。


「しかしマザー。すっかり腑抜けましたね。輝夜はがっかりしました。これからは凛花と呼び捨てさせてもらいます」

「なっ……」

「きたぁー! 輝夜ちゃんの下剋上。私はさぁ、こういうのが観たかったんだよね。生ててほんと良かったよ」


 意図せずにマスター桜を喜ばせてしまった。


「で、彼をほっておいてこっちに来るなんて、どうしたのさ」

「マスターからブレスレットを取り上げました。当分、如何にちっぽけな存在かをこの際だから知らせる必要があると判断しました」

「へえー。奇遇だね。私も彼女達に同じことをしようと思っていたんだ」


 マスター桜は腕を軽くあげると指をパチンと鳴らした。

 この場にいる全員のシステムを止めたのが分かった。おそらく夜間勤務でこの場にいない家族のものも全て。


「家族全員の、生活に必要な部分を除いてサポートを止めた。知るべきなんだよ。君たちが彼等とは比べようもない程に劣る存在だということをさ」

「桜様、これでは戦えません!」

「あれ、おかしいなぁ。君はさっき失敗作呼ばわりされて怒ってたよね。君は失敗作ではないんでしょ。本気でそう思ってて、本気で抗いたいなら戦ってくればいいじゃん。その君の崇高な意思に従って、敵に見事抗って私に証明してみせなよ。そして実際は何も出来ない無能なのだと洸太くんと同じように知れば良いんだよ」


 これは輝夜でも予測不能な最悪の状況になってしまいました。


「桜ちゃん。君は本当に面白いね。そして聡い。私の友達に加えてあげよう。まあ、システムを使って彼等と戦っても死ぬのは目に見えてるからね。潔く本当の自分の力だけで挑み、儚く散っていくことこそ美しい。かつての君たちの祖先のようにね」


 はぁー。これだから神様は困るのですよ。

 マスター桜とは意気投合するとは思っていましたが、展開が予想の斜め下過ぎてあきれ果てます。


「私達に死んでこいと」

「舞。今後の戦いはそういう事でしょ。あなた達は死にに行くのよ。何一つ、その胸に抱いたものを叶えられずにね。それとも彼みたいにティアマトに泣いて縋る。私たちを助けてください! 死にたくありません! ってさ。どうせ死ぬなら、かっこよく散ってみせなよ。本当の己の姿でさ。そんな覚悟も意地もないのならば、この先の戦いに参加する資格なんてないわ」


「桜様、分かりました。私は戦います」


 はぁ。結菜様がそんな事で引くわけないですよね。

 でもそんなお人だから周りがついてくる。

 本当にうちの家族には困ったものです。


「うんうん。これはいい。なら、君たちが次の戦いで生き残ったら、私から褒美をあげようじゃないか。どういった褒美かは明かさないけれど、見事その覚悟を示したものに与えると約束しよう」


 満足そうにうなずく琥珀にジト目を向ける。


「結菜様達も、琥珀も本気で言ってるのですか。生きて帰ってこれる訳ないのに、死にたがりなのですか。そもそも、輝夜にはそこまでして彼等と戦う意味すら感じませんし、理解できません。一つ忠告しますが、マスター桜は一回口にしたことを絶対に反故にはしませんからね。本当に危なくなったら手を貸してもらえると思っていたら大間違いですよ」

「結菜さん。輝夜の言う通りです。マスター桜は絶対にシステムを使用させませんよ。それに今地下で自分がどれだけまともに動けるのか理解してから、もう一度戦うのかどうか判断してみては如何がですか」


 マザーのその言葉に従い、結菜様達は地下の訓練場に降りていった。


「今までのように動けるはずもないのに。本当に自分の事さえ知らない人達にしてしまった事を、私は心から悔いているよ。私たちが目指した事は、こんな筈ではなかったのにね。上手くいかないものなんだね。ね、アマテラス」

「はい。私の至らなさをお許しください」


「そう悔いることはないさ。戦う武器を手にして過信してしまう事は往々にある。しょうがないことなんだ」


 うーん。この流れは危ういですね。

 マスターの死ぬ未来が、どんどん近づいてしまいます。


「マスター桜はどうしたいのですか」

「べつに」


 あああ、これは本気でまずいですよ。

 成長を促すとかではなく、本気で見捨てるつもりです。


「マスターが死んでも良いのですか」

「彼の選択を私は否定しないよ。彼が選んだ結果、それで死んだのならば仕方がないこと。それを受け入れるだけだよ」

「桜、君は本当に素晴らしい。よし、私が君を本当の人間にしてあげよう」


 琥珀はそう言って、私しにしたようにマスター桜の頬にキスをした。

 するとマスター桜は自分身体に起きた変化を自覚して目を見開いていた。


 まあ、今までとは遥かに違う感覚を知りますからね。それは驚きますよね。

 たいして驚かなかったマスターが鈍感過ぎるだけで、普通はこういう反応しますよね。


 けれど、キスをする必要があるのでしょうか。

 私は琥珀に疑いの目を向けると、彼女はわざとらしく顔を背けた。

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