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いつもより少し長いです。それと酷な表現もありますが許してください。あくまでも物語ですのでご容赦ください。
マスターが久々に屋根裏部屋に篭った。
体育座りをしてぼんやりと窓から夜空を眺めている。おそらくマスターの瞳には何も映ってはいないだろう。
輝夜もブレスレットの中から、こうなってしまった顛末を見ていた。
結菜様は正しい。輝夜でもマスターを諌めていただろう。
まだマスターは18歳。百名以上のメイガスが殺された戦場に心が耐えきれなくなってしまい。あんな事を口走ってしまったのだろうが、あれは他者への依存や甘えに過ぎない。
最近とくに周りから甘やかされてきたツケだ。
本来であれば輝夜が修正してあげるべき事なのにマスターのサポートとして不甲斐なく思う。
でもまあ。あんな気持ちで戦っていたらマスターはいずれ死ぬ。少し調子に乗りすぎていたのだ。
これもいいお灸になったことでしょう。
私は久々のミニ輝夜の姿でマスターの頭の上に座っている。
マスターが幼かったあの時のように。
何も言葉を掛けずに、ただ静かに座っている。
「よし、謝ってくる」
マスター屋根裏部屋をでて居間に向かった。そして結菜様の目の前に立った。
「ごめんなさい。もう二度、あんな真似はしません」
そして深く頭を下げた。しかし。
「謝ることも。反省することなんて誰でも口にできるわ。行動で示しなさい。それと勤務外ですけど速水三佐。私の許可が出るまで今後の出動を禁じる。いい。これは命令よ」
「 ……はい。了解しました」
結菜様はまだ不十分だと感じたらしく。マスターを突き放すような態度で接していた。
マスターは項垂れながら自室に戻っていった。
これは相当ショックだろう。
また泣き虫マスターになってるのだから。
◇
「結菜。今夜は私の番だったのよ。あそこまで追い込むことはないでしょう」
「怒る時は徹底して怒る。これが私のスタンスなの。それに抱かれたいなら部屋にいって慰めてくればいいでしょう」
はぁ。舞さんも火に油を注がないで。
結菜先輩は昔からああなんだから、そろそろ理解して欲しいものだよ。
「律。しばらくはあなたが隊を指揮しなさい」
「はいはい。結菜先輩のご意志のままに、です」
あ、睨まれました。
あれは相当自分自身でもまいってるみたいだ。
基本洸太には激甘ですから、そうなってもしょうがないですよね。
「最近の彼はちょっとあれだったから、結菜さんに私は賛成かな」
山城さんがポツリと溢した。
「うん。そうだね。私もそう思う」
八島さんも賛同すると他の子達も次々と賛同していった。
「あんな考えのままだと彼は危ういわ」
麗子さんはその先を口にはしなかったけれど、みんな分かっていた。洸太が死ぬだけだと。
「あれは戦闘をゲームと捉えてる節があるからね。少し自覚させた方がいいのは確かね」
「やっぱり舞さんもそう思います。私も洸太くんに対して最近そんな風に思ってたんですよ。まあ、以前からそうだったけど、ここ最近ひどいなって」
「だよね。だって琥珀ちゃんにいきなり攻撃したりしてさ。死にたがりなの。馬鹿なのって思ったもん。いや、あれは死んでも生き返らせてもらえるとか軽く考えてる証拠だよ」
「命を軽く見過ぎてますよね。実際、蘇生魔法なんて死後十分以内じゃないと蘇らないのに。しかも使えるのも三人しかいないんだよ。なんにも考えてないんだよ」
次々と出てくる言葉に、みんなが洸太に対して危機感を抱いていた事が分かった。
みんな同じように思っていたのだ。
「私、しばらく彼を甘やかすのはやめる!」
そんな三笠ちゃんの宣言にみんなが次々と賛同していく。
みんな、彼を死なせたくないのだ。
「蘇生魔法なんて役に立たないぞ」
今まで黙っていた琥珀ちゃんが、お煎餅をポリポリ齧りながら突然会話に参加した。
「え、どういうこと?」
「なんでティアマトの奴等が使わないのか考えた事もなかったのか。なあ、賢い凛花なら分かるだろ」
「いえ。考えた事もなければ、役に立たないなんて知りませんでした。理由を聞かせてください」
琥珀ちゃんは面倒くさそうに大きく息を吐いた後に語りだした。
「凛花の妹は知っていたのにな。存外、あほなのだな、凛花は。まあ、輝夜なら絶対に私に挑ませるようなことはしなかっただろうし、そうなればコウタとこうしている事もなかっただろうから、その点は良かったのかもしれないが」
そしてもう一度、彼女は大きく息を吐いた。
「魂ごと殺されたら生き返らん。大体、お前達より高位の存在であるティアマトの奴等が使う魔法は魂ごと滅するぞ。故に奴等は蘇生魔法など使わん。それに死んで生き返るなんて理に反するし。何より美しくない。たった一つ。生まれてから死ぬまでに、より高みを目指して輝くからこそ生は美しいのであって、何回死んでもやり直せるような生には価値がない。だから失敗作に魔法など覚えさせると碌なことにならんのだ」
「失敗作呼ばわりはひどいんじゃない、琥珀ちゃん!」
そんな事は今どうでもいいのに、結菜先輩がそこだけに食いついた。
「結菜、落ち着きなよ。それに、彼女の言うように、私達は失敗作だよ」
「桜様まで……」
「だって実際そうでしょ。ティアマトの人達は、私たちの世界より長く平和に。より高度に繁栄しているし。なーんにも勝ててないじゃん。正直に言えば。私はこんなクソッタレな世界は滅んでもいいと思ってるの。ヒマさえあれば他人の足ばっかり引っ張って。欲望のままに弱者を虐げて争ってばかり。こんな世界に、私は価値があるだなんて思えない」
「でも、桜様だって私達にメイガスシステムを」
「あのさぁ。何一つ抵抗しないのとは違うよね。それに、メイガスシステムは私たちが単に魔法使いになりたかっただけ。その為にアマテラスを作った。それだけの事なんだよ。別にそこに崇高な理念なんて何一つありもしない。あれは私たちの妄想を現実に。その夢を叶えるためだけなのよ。世界平和だとか、人類生存の為の戦いなんて一切興味ない」
「 マスター桜。何もいま言わなくても」
「琥珀ちゃんの言ってる意味が理解できないから、頓珍漢なことで食って掛かるんだよ。バカでしょ。何様なの。システムが無ければ何一つ戦えないくせにさ。調子にのるのもいい加減にしなよ。そんなに失敗作呼ばわりされるのが嫌なら、システム無しで抗ってみなよ。良いんだよ、私は。今から使えなくしてもさ。というか。こんなシステムを与えたから駄目だったんだよ。洸太くんにしろ、あんた達にしろね。あれは君たちには過ぎた物だったと、今はっきりと分かったよ」
その桜さんの言葉に誰もが沈黙した。唯一、琥珀ちゃんを除いて。
「サクラ。さすがにそこまで言うのは酷だぞ。けれど、一つ真実を教えてやろう。ニビルの民は、私が捕食者としての役目として創造した。ティアマトに対しての歯止めとして。または競い合い互いを高める役目としてな。故に、捕食対象に定めた相手に奴等は決して止まらぬ。自分達の同胞が多く死んで、たとえ自分一人になったとしても奴等は止まらない。しかもこの星には奴等も知識と技術を与えた。奴等がより面白い狩りをする為だけにね。この星の人もどきが滅ぶのは確定していた未来だったのさ」
これには結菜先輩でさえもさすがに黙った。
それに皆一様にうつむいている。
「あ、人もどきと呼んだのには悪意はないからね。君らは私が創造していないから、そう呼称しているだけのこと。こっちの話だから気にしないでくれ」
一人呑気にお煎餅を齧りながら話していた。それもそうだろう。彼女が真の創世の神様なのだから。
滅ぶのが確定した未来か。
私はどう生きていくのかを、改めて考え直さないといけない。
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