13
琥珀の手によって無事に進化した俺は、咲耶とママさん夫妻、そして琥珀を交えてお茶をする事にした。
「まさかの本当にあの黒竜。琥珀様を伴侶にするなんて」
「様はいらん。あっちでは私のことを琥珀ちゃんとか、琥珀とか気軽に呼んでいるぞ。それに今はコウタの同じ伴侶であろう。そんなに畏まるな」
咲耶は遠慮がちにはい、とだけ答えた。
「あの琥珀さん。先日イザナギという名を出されましたが、それはあの禁じられた名ですよね。コウタさんとは何か関係があるのでしょうか」
それが叛逆者の忌々しい男の名ではないの。
なんで今更ママさんは琥珀に聞いているんだ。
「そうだったわね。お前達には正確には伝わっていなかったのを忘れていたわ。彼の名を奪い、その名を封じて伏せられた真実を」
「あの彼は初代様の御兄弟では無かったのですか」
優雅にお茶を一口飲んだ後に琥珀は静かに話しだした。
「お前達の云う初代アマテラスの父親だ。それに本来はアマテラーズではなく、アマテラスだ。それが初代の真名で、王の名となった。あれは父親っ子でな。いつもあの男に引っ付いていたをのを覚えている。まあ、まだあの頃は。この星をあの二人が初めて種族を超えて統一したばかりで、色々と忙しく動いておった。そんな中でもあれはいつも彼の背中に乗っていたな」
琥珀から静かに語られるその話を、ママさん達も静かに聞いていた。
「その関係って日本神話と同じですよね」
「そう。あれはアマテラスが母親と、その他の一族の長老達に嫌味を込めて地球に残したお話しだ。元々はあの星の世界中に伝えられた話だが、奇跡的にコウタの国に残った。何度もあの星の文明が滅びても奇跡的に。まるで、あの子の呪いのように」
淡々と話す琥珀だが、俺には少しだけ彼女が寂しそうな感じがした。
「話を戻すわ。ハイヒューマンで初めてこの星を統一したのが双子の姉妹であり、夫婦のイザナギとイザナミだ。やつらは何もかもが正反対な双子だった。けれど。とても仲が良く、常に互いを支え合ってこの星の安寧の礎を築きあげた。二人が統一してまもなくして食糧問題が起きる。戦争で荒れた土地に実りは少なく。それに対して人類が多すぎたのだ。そんな時にたまたまこの星に似た蒼い星を見つけた。それをイザナギは僥倖と捉え、全員ではないが、その星に増えすぎた人類を移住させる事を決めたの。そしてイザナギ自らがが先頭に立ち、その蒼い星を開拓した。また、自分達だけでは手が足りないと、その時に人を創造して彼等の為に働かせた。それが地球の人類の始まり」
やや遠くの上を見つめながら琥珀は語る。どこか懐かしむように。
「イザナミはこの星に残り、統一を万全なものに。イザナギは地球で開拓と共に励んでいた。それらが落ち着くと、イザナギはこの星に戻って暮らした。時折り、ふらっと三人で地球を視察などもしながら穏やかに幸せに暮らしていた。だがそんな時に地球で自分達が創り出した人間が、同じ人間同士で争いだした。それは徐々に苛烈なものへと変化していった。当初はその星の民自身の問題だと静観していたが、一族の中でこのままでは星を荒らされる。人間を滅ぼすべきだという意見が大きくなっていった。滅ぼすのは忍びないと二人は一族の者達を宥めるが、それも次第に叶わなくなる。もはやこれ以上の説得は無理だとイザナギは多くの兵を連れて地球に侵攻した。それは戦いでもなんでもない。ただの一方的な虐殺だ。その事に。まっすぐ直向きな事だけが取り柄な、あの大馬鹿は胸を痛めて悩んだ。元々、やつは誰よりも嘘が下手で、お人好し。上に立って統治していく者としては不適格な性格だった。それをイザナミが今まで上手く隠してきただけ。そのイザナミがいないあの場でイザナギがどうするのかなんて火を見るより明らかだった。案の定、あの男は同胞に対して剣を向けた。あれは幼い頃から私と遊んでいただけあって他者を圧倒的に凌ぐ強さを持っていた。実際にあれを力で止められるのは力が互角のイザナミだけだった。まあ、そんな大馬鹿が暴れ出したのだ。七日で一緒に来た同胞を壊滅させた。やつも満身創痍でただ立っているのが精一杯な状態だったけどね。そしてやつは助けた人間達によって手厚く治療され介抱されていた。幾年かの月日を掛けて、なんとか一族を説得してイザナギを連れて帰ろうとしたイザナミがイザナギのもとに現れる。しかし、あの嫉妬狂いのたわけ者は、自分の夫を介抱している女、子供と仲良さそうに話すイザナギを見て、あろう事か新しい愛人とその子供だと勘違いすると、その場にいた者達を全て殺し、そしてついにイザナギに刃を突き立てた。でもあの大馬鹿者は何一つ抵抗もせずに微笑むと、ごめんと一言だけイザナミにつぶやくように謝った。このまま彼女が誤解したままでいられるように。真実を知って彼女が悲しまないようにね」
「 ……あれ。そこで死んだのになんで子孫が」
「イザナミも殺せなかったのよ。直前で急所を外し、刃を突き刺したままその場を去った。この手で叛逆者は討伐されたとな。そして地球から同胞全員を引き上げさせてこの一件は終わった。そのおかげで今も地球に人間が残っているわけ。後のことは話さなくても想像がつくでしょう。それともう一つだけ教えておくわ。この星の初代の王はイザナギよ」
話疲れたのか、琥珀は喉を潤すようにお茶を飲んだ。
「それで後に真実は秘されたのですね。皇位が女性のみになったのも、二代目が初代とされたのも全てその事が原因だったと」
咲耶は隠れ叛逆者好きもあって、かなり美化して都合よく想像しているようで、そのまま歴史を書き換えないか少し心配になる。
「だからコウタ。そこの一族には気をつけなさい。嫉妬狂いの血を濃く受け継いだ一族だからね。刺されないようにしなさいよ」
それを聞いて、俺とパパさんの顔が一気に青ざめた。互いに恐る恐るパートナーの顔をみる。
「そんな事はしませんよね。ね、お母様」
「ええ。何をそんなに恐れているのか理解できませんわ」
言葉は穏やかで柔らかい。けれど、視線に圧が込められていて恐ろしくこわい。
「なんか面白い事になってきたから、もう一つだけ教えてあげる。その後、イザナギは沢山の子に恵まれるの。時折り、誰にも内緒でイザナミはイザナギのもとを訪れるとその子供達をとても可愛がったわ。まるで我が子のようにね。また同じようにアマテラスもゲートの魔法を編み出して父親のもとへ足繁く通うの。彼女もまた自分の弟や妹をとても大切にしていたわ。なんだかんだで、とても仲のいい家族だったのよ。あの三人はね」
そう嬉しそうに話す琥珀は何故こんなに詳しく知っているのだろう。
それに琥珀なら止めようと思えば止められた筈なのに。どうしてそれをしなかったのだろうか。
そんな事を考えていると、琥珀が耳元でささやいた。
「私は生みだした世界には干渉しないと決めてるの。あくまでも観察者よ。あなた以外にはね」
そして言い終えると、俺の耳たぶを軽く噛む。思わず声が漏れる。
彼女は顔を向き合わせると、金の瞳が愉しげに揺れる。その美しい瞳の輝きに俺は目を奪われた。
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