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「相変わらず小癪なんだから」
黒竜姫との戦いを観ながら舞さんがポツリとつぶやく。それを拾うように俺を膝の上に乗せた麗子さんが話す。
「そうですね。わざわざ、ブレスの周りを回って突撃するんですから」
「背後から手加減しての不意打ちした後ですからね。それは神様でも腹が立つわよね」
舞さんが麗子さんから俺を奪い、自分の膝の上に乗せてそう答えた。
「毎回思うのだけれど。服を裂かれながらでも、放たれた魔法の周りを回る必要があるの」
今度は律が俺を膝の上に乗せてそう俺に訊ねる。
「洸ちゃんは煽ってるって言いますけど。単に厨二。かっここいいって思ってるだけなんですよ」
山城がサクッと俺を膝の上に乗せながら解説した。
なぜ俺はさっきから彼女達の膝の上をグルグルとまわっているのだろうか。落ち着いてビールも飲めない。
「でもさすがね。大口開けて迫ってくる相手に怯えもしないでギリギリまで引きつけてからの、どーん! さすが私が鍛えただけあるわ」
どーん! と言いながら結が俺を膝の上に乗せた。しかも奪われないようにがっちりホールドもしていた。密着した彼女の体温と柔らかな感触がとても心地いい。
どうやらここが最終到達地点らしい。
「桜さん。私もあの無機質にしゃべる音声アシストをつけて欲しい!」
「ああ、それは輝夜ちゃんだから。輝夜ちゃんに聞いてみなよ」
八島が桜さんに、あのセットアップ。とか言うやつを欲しいとおねだりしていた。そして桜さんの返事に全員が輝夜をみた。
その視線に耐えかねてため息をついたように答えた。
「みなさんのサポートAIに共有しておきます」
パッとこの場に笑顔の花が咲く。
それを不思議そうに黒竜姫は眺めていた。
いつもの日常に。旅行から帰って来たのだと少し残念に思いながらも家族の暖かさに酔いしれる。
陽だまりのような。そんな暖かさに。
次の日。天皇陛下に会いたいとアポを桜さん経由でとると夕方から面会する事ができた。
黒竜姫を連れて、凛花と三人で皇居を訪れた。
俺が話すとややこしくなって誤解が増えるということで、凛花がことの経緯を陛下に説明した。
「なるほどな。それで黒竜姫さまのままとはいくまい。洸太くん、彼女の名前はもう考えたのかい」
「はい。私の最高のネーミングセンスで一発です。琥珀、速水琥珀が彼女の名です」
「こいつ。さらっと嘘をつくのな。なにが一発だ。クロコだの。タツコだの、カネコだの適当なことばかり言ってたくせに」
俺の話に琥珀が異を唱えるも、それを華麗にスルーする。
「それともう一つ陛下にお願いがあります。凛花を俺の秘書官にしてください」
頭を深々と下げて陛下にお願いすると、凛花が慌ててそれを訂正しようとするが、それより先に陛下があっさりと許可してくれた。
「構わんよ。私から後で瀬織津姫に話を通しておこう。洸太くん。彼女を頼むよ」
「はい!」
それから少しの間陛下と雑談してから皇居を後にした。用事があると先に二人をうちに届けて、俺は基地に戻った。
そして駐車場にモービルを停めて、想い人への指輪を使って咲耶の所へ転移した。
俺の目の前には無防備に寝ている咲耶がいる。
しかし、ここは咲耶の部屋ではない。しかも、あまり広くはない。
膝をついて、ベッドに肘をついて彼女のかわいい寝顔を眺めていると、無性に愛おしくなり彼女の唇にキスをしてしまった。
咲耶は寝ぼけているのか、俺の首に腕を絡ませる。俺は布団をめくり、彼女に重なるように覆い被さるとそのまま情事に耽る。
「あれ、コウタ…… 」
「おはよう、咲耶」
急いでいたはずなのに、三時間は二人でこうしていた。
咲耶と愛しあった後、彼女にお願いしてママさん達の所へ連れていってもらった。
「ママさん、お願いします! 俺をハイヒューマンにしてください!」
ママさんとパパさんの前で土下座をしてお願いした。
「別に構わないけど。一体どうしたの」
「絶対に一人にはしたくない人のためです」
土下座をしたままそう答えた。
「そう。コウタさんから申し出てくれたのは、こちらとしても有り難いわ。私達からもいずれあなたにお願いしようと考えていましたからね」
その言葉に顔だけをあげてママさんを見上げると、後ろに人が立つ気配を感じた。
「私がしてやろう」
土下座をしたままくるっと後ろを向くと琥珀が面白そうに笑っていた。
「黒竜姫様!」
「一々騒ぐな、鬱陶しい。それに私の名は琥珀だ。以降はその名で呼ぶように」
「はい。コハク様」
琥珀はしゃがんで俺の顔を見つめた。彼女のその黄金の瞳に吸い込まれそうになるが。それよりも太ももの間から見える白いものに視線が移る。
すると彼女はわざとらしくしゃがんでいた脚を広げた。ますます俺はくぎ付けになる。
「いい、コウタ。ハイヒューマンでは、ハイヒューマンと同等以下の存在しか生み出せないし、変えられないの。あなたでも分かるでしょ。自分以上のものは創造できないってことぐらい理解できるよね。でも私なら彼等以上にできる。凛花を一人にはしたくはないのでしょう」
「な、なんでその事を!」
「あなたの心はとても分かりやすくて、伝わりやすい。その純粋な気持ちに報いてあげたくなったの。だから、私がしてあげるわ」
彼女はそう言うと、俺のおでこに優しくキスをした。
おでこから暖かいものが身体中に広がっていく。
時折り、少しだけ痛みを覚えるも、それ以上に身体に力が漲ってくるような気持ちになる。
「はい、お終い。これであなたの想いが叶うわよ。もっとも。不死ではないからね。間違っても、戦って死んだりしては駄目よ」
ありがとう、といって彼女に抱きついた。
嬉しさから頬に涙が伝う。
これで凛花を一人にすることはないと安心した。
そして琥珀に最上級の感謝を心で伝えた。
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