11
黒い布を纏う少女の黄金の瞳が真っ直ぐに向けられている。
「甘くみて油断していたとはいえ、初めて私を負かしたのは事実。これより私はお前のものだ。好きにするが良い」
「え、要りませんけど」
俺の答えに彼女の目が点になった。
「は? 私を要らない? お前は何を言ったのか理解してるのか。この世界の万物を創造した私に対して自分がなんと言ったのか分かっているのか」
二回も似たような事を言わなくても自分が言ったことくらい分かってるっつうの。
俺はまだ18歳だぞ。ボケるには早いっての。
「はい。必要ないし。そもそも俺には二十人以上の奥さんがいますからね。これ以上増えても金銭的にキツくなるので要らないです」
「こいつ、飄々としたあほなところだけはイザナギによく似よってからに。本当にあいつといい、お前といい。私はお前らの遊び相手ではないわ!」
グッと間合いを詰められて胸ぐらを掴まれた。
その怒りの気迫に冷や汗がでる。
「あの、俺の身内にイザナギさんなんて方はいませんけど、人違いでは」
「いる訳あるまい! お前の血筋の始祖なんだからな。生きていたらびっくりするわ!」
「はあ。それはすみません。始祖様がとんだご迷惑を」
「おい、アマテラーズ。こいつはいつもこんななのか」
「はい、黒竜姫様。コウタは……こんなですね」
ママさんがかなり動揺して焦ってるんですが。これは本当にまずいかも。
どうにかならないかと凛花に視線を送るが、彼女はただ微笑むだけだった。
「孤立無援か」
「はっ? 何を言っている」
「いえ。独り言です」
「 ……私を番にしなければ、お前の住む蒼い星を粉々にするぞ」
ひえっ、脅しにでたんですけど。
この人本当に神様なんですかね!
「あの、拒否権は」
「ない」
「ですよねー」
なんで俺が地球の命運を握らなきゃいけないんだよ!
しかもなんで倒しただけで嫁に迎えなきゃいけないんだよ!
「お前は頭の中で考えてることがそのまま口にでる馬鹿なのか。あまりにも似すぎてて頭が痛くなる」
「そうなんです、馬鹿なんです。だから違う人の、方……」
こわい! マジでこわい。
俺はなんて馬鹿な真似を……
「ちなみに今までお付き合いした方は」
「いない。いる訳あるまい。私は創世の神だぞ」
「でも、さっき始祖様がどうのと」
「あやつは私にしつこく挑んできただけだ。それにあの馬鹿にはイザナミという激しい嫉妬持ちの双子の妹がな」
え、近親婚ですか。
まあ、昔はよくあったみたいだし普通か。
「それでどうする」
「一旦保留で」
「できる訳あるまい」
この理不尽さは結に通ずるものがあるな。
この手はほんと人の話し聞かないからなぁ。
「うちの奥さん達と喧嘩しないで仲良く出来るなら良いですよ。あと威張らなければ」
「よかろう」
彼女は俺の胸ぐらから手を離した。
「それではさようなら」
俺はさっさと帰ろうと凛花の所へいこうとしたところ手を掴まれた。
「何がさよならだ。私も連れていけ」
「拒否権は」
「ない」
「ですよねー」
こうして一人の奥さんを増やして、うちに帰ることになった。
あの時の自分を厳しく叱ってやりたい。
しかも、やらなければないけない事が山積みなのに。
ピンクの髪でうちにかえると全員が仕事を終えて珍しく家に揃っていた。
「あれ、みんな夜勤なしだったの珍しいね」
「そういう洸太こそ。ん、その子は」
「あ、紹介するね。俺の新しい奥さん。名前は知らない」
「なにノラネコ拾ってきたみたいに言ってんのよ」
さすがは結。驚くことも騒ぐこともなく普段通りだ。
「だって知らないもん。知ってるのは黒竜姫様といってティアマトの創世の神様ということだけ」
「で、なんでその神様がお嫁さんになるのよ。話が見えなさ過ぎて話にならない。凛花、説明して」
そして凛花の説明を聞いて、結は腹を抱えて転げまわっていた。
それにはさすがの創世の神様もどん引きしていた。
「あなたと同じで、番も変わってるのね」
「いや、君も相当ヘンだけど」
「なんか言った」
「いえ、なにも」
「ならいいわ」
金色の瞳で睨まれるとマジでこわいな。こわさ百倍だよ。
「洸太。ちゃんと名前をつけてあげなよ。それと明日陛下に二人で挨拶してきなさいよ。じゃあ黒竜ちゃん、うちを案内してあげるね」
結は有無を言わさずに手を握り黒竜姫を連れていった。
「なあ凛花。似た者どうしって、すぐ仲良くなるんだな」
「自然と馬が合うんでしょうね」
「マスター。旅行中に何やってるのですか。輝夜はどん引きですよ」
久々に会ったのに開口一番怒られた。
「輝夜。これも魔法少女コウちゃんが強くてかわいいせいなの。こうなるのも仕方がない事なのよ」
凛花の言葉に色々と察したのだろう。輝夜はこめかみを手で抑えてため息をついた。
「ねえねえ、凛花さん。ちゃんとあるんでしょうね」
「あるわ。迫力満載の最高の映像が」
「さすが! じゃあ、今すぐ上映会しましょう!」
朝日に連れられて凛花もいなくなり、玄関にいるのは俺と輝夜だけになった。
「マスター。先にお風呂にしますか。それとも食事にしますか」
「あ、輝夜で」
「そんな選択肢、示してません」
靴を脱いで靴箱にしまっていると背中を叩かれた。
今夜も輝夜はキレッキレだった。
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