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 別荘を前にして、あの三年前の懐かしい記憶が蘇る。少しだけ立ち止まってその外観を眺める。

 別荘の管理人が外に出てきて、俺達に挨拶をすると、ボートのカードキーを手渡してくれた。

 既にボートの中に必要な物は積んでおいてくれたらしく、すぐに出発しても構わないと胸を張って言われた。

 そんな陽気な管理人にお礼を言って、二人でボートの止めてある桟橋に向かう。


「あの時は知らなかったけど、ここって一年中暖かいらしいよ」

「そうなんですね。以前訪れた時よりは少し暑さも和らいで過ごしやすく感じます」


 肩に掛けている白のトートバッグが風で揺れる。麦わら帽子と裾丈の長い真っ白のワンピース姿の凛花が、風で飛ばされそうな麦わら帽子を片手で抑えていた。


「なんか絵になるな」


 不思議そうにこちらを向いたので、なんでもないよと笑って答えた。

 彼女はその答えが不満だったようで、少しだけ拗ねるように頬を膨らませた。


 そして桟橋について先に俺がボートに乗り込み、彼女の手を取ってボートに乗せた。

 そして操縦席に座り、凛花を手招きして俺の膝の上に横向きに座らせた。

 ボートを起動してスロットルレバーを全開で倒す。


「洸太さん、もう少しゆっくり!」


 ボートがその加速と波によって船首が浮く。

 波を切って進むその風の心地良さに目を細める。


「まさか凛花までスピード恐怖症なの」

「違います! 洸太さんの操縦に不安を感じているだけです!」


 まったく輝夜といい、凛花といい素直じゃないなあ。速くて怖いならそう言えば良いのに。

 麦わら帽子を片手で抑えながら、俺の体に必死にしがみつく彼女をみて、そんな風に思う。


 そして何のトラブルもなく、あの無人島に着いた。


「これは美しい。目を奪われます」


 岩のドームを抜けた先の光景を凛花は初めて目にすると、そんな感想を漏らす。


 ゆっくりと桟橋に近づいてボートを止める。そしてロープでボートを固定した。

 彼女に手を差し出して、ボートから降ろすと、また俺はボートに乗ってパラソルやシートなどの荷物を降ろした。

 そして最後に管理人から貰った昼食の入った籠を凛花に手渡すと、ボートから降りてパラソルなどの荷物を両手に抱えた。


「さっ、行こうか」

「はい。でも私も荷物を待ちますよ」

「ありがとう。でも二人の初めての旅行なんだ。今回くらいは格好つけさせて」


 そう言ってあの白い浜辺を目指して歩きだした。

 途中、前回と同じように色とりどりの小魚達に気を惹かれ、立ち止まって眺めたりしながら、ゆっくりと歩を進めた。

 そして浜辺でシートを敷いてパラソルを立てる。

 凛花に水着に着替えて待っててと言って、テントなどのキャンプ道具を取りに走ってボートに向かい。それを二往復した。

 取り敢えず荷物に背を預けて休憩すると、凛花が腰を折って水を手渡してくれた。

 目の前の程よい二つの膨らみに目を奪われる。その彼女の笑顔にも同じように。

 テレ臭くなって水を一口で飲んで、テントを先に設置した。


「さすがに手慣れてますね」

「総司令官殿。自分。特殊防衛学園出身でありますから、この程度の事は当然であります」


 魔導防衛軍では敬礼など一切しないのだが、演技がてらやってみた。


「そう。これからも変わらずに励みなさい。あなたの今後に期待しています」

「総司令官殿……」


 一兵士が声を掛けられて、感動で目に涙を浮かばせる。そんなシーンを再現してみた。


 そのおかしさに耐えきれなくなって二人同時にお腹を抱えながら笑って吹き出した。


「もう、何をやらせるんですか」

「いやぁ、綺麗な水着姿の凛花にやらせたらギャップがあって面白いかなって」


 そんな話をしながら凛花の目の前で堂々と着替えを始めると凛花は気恥ずかしそうにこちらに背を向けた。

 もう恥ずかしがるような関係でもないと思うのだが、聞いたことがある。変わらずにそんな気持ちを持っていた方がラブラブだと。


「もう、凛花。恥ずかしいよ」

「恥ずかしいのはこっちです!」

「あ、もう終わったよ」


 そして凛花の細い腰に抱きついた。


「ひゃっ! な、な、なにをとつぜん」


 そのまま頬をすりすりした。


「すべすべで気持ちいい。極上の肌触りだねぇ」

「あ、ありがとうございます」


 こうして凛花リウムを完全補充をして二人で手を繋いで海に入った。


「見てて。こうして立ってると魚が群がってくるんだよ。こいつら警戒心無さすぎなんだ」


 二人の脚の間を縫うように青や黄色の小魚達が舞い踊る。


「かわいい。そして綺麗」


 凛花が腰を曲げてその小魚達に手を伸ばす。そして恐る恐る指で小魚をつついた。


「あ、さわれました!」

「お、いいねぇ。なら俺も」


 俺が小魚を手で撫でると、凛花もそれを見て真似をした。


「あああ、なんか少しザラザラしているのに、不思議と感触いいです」

「ねっ。なんかクセになるよね」

 

 しゃがんで小魚達としばらく遊びながら二人で会話も楽しむ。


「ねぇ。凛花は俺をどうやって見つけたの」

「洸太さんは覚えていないと思いますが。二歳のあなたがご両親に連れられてハル社の社員パーティーに訪れた時に、私の前までちょこちょこと歩いてきたんです。そしてプロポーズをしてくれました」


 息をおもいっきり吹き出した。

 二歳の俺に驚愕する。


「冗談だよね」


 凛花は口に手を当ててクスクスと笑って答えた。


「あなたは口を開けて私を見上げて、白く光ってきれい。とポツリと言った後に、私の両脚に抱きついてきたんです」

「まあ、凛花の魔力のオーラは白銀の輝きで誰よりも綺麗だからそれは分かる。さすがは俺と褒めてやりたい。それでまさか、だよね」

「そのまさかです。大きな声で、ぼく、お姉さんと結婚する。大好き! って言ってくれたんです」


 やるってくれるな、二歳のおれ。無邪気ってのは時におそろしい事を引き起こすものだが、何も大勢の前で言わなくてもいいじゃないか。


「その後も私から離れなくて、困り果てたご両親が泣きそうな顔をしていましたね。私に抱っこを迫って、抱っこをすると顔にたくさんキスをされました。それを大勢の社員が笑って見てたのをよく覚えています。そして疲れ果てて眠ったあなたをご両親に返したのです。それが、洸太さんとの初めての出会いでした」

「それはとんだご迷惑をお掛けしました」

「いえ。迷惑だなんて思いもしなかったです。私にあんな風に傍に来てくれたのはあなたが初めてでしたし。逆にとても嬉しかったのですよ」


 まあ、日本の頭脳であり。ハル社の会長だもんな。そりゃあ、気軽に人は寄ってこないよね。


「それに誰にも見えない、私の魔力を見て。初めて綺麗だと褒めてくれたのはあなたでしたから。これが運命的な出会いなのかもと柄にもなく浮かれてしまいました」

「二歳の男の子なのに」

「ええ。かわいいその男の子を。そして成長したあなたを思い浮かべながら、一人で気持ち悪くニヤニヤしていたのを覚えています。ああいうのが黒歴史と言うのでしょうね」

「俺にとっては嬉しいことだけど。そうだね。黒歴史だよね」


 おかしくてまた二人で笑う。

 たぶん世界中の誰もが、凛花がそんなおかしなことをするとは思わないだろう。

 あまりのギャップに笑いが止まらなかった。


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