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うちの小隊は通称ハーレム隊とも呼ばれている。でもそれは蔑称とかではなく、単純に俺の伴侶達が所属しているからだ。
それに任務で私情や甘えなど見せないので、わりと他の隊員達からは尊敬の目で見られている。
しかし、宇宙艦については誤解を産みそうだ。
舞さんだって、前任の山本司令の推薦で司令官になったばかりだし、何かと波紋を呼びそうな気がする。
「マスター。眉間に皺が寄ってますよ」
輝夜は少し心配そうな顔でこちらを見ながらビールをテーブルに置いた。
「輝夜、ありがとう。まあ、少し考え事をしてただけだから大丈夫だよ」
「そうですか。でもあの宇宙艦のことですよね。うちの家族は、みたいな」
「なんでもお見通しですな、輝夜は」
「深く考えない方がいいですよ。それにあれ。元々はうちの家族の為に計画されて建造されたものですからね。マスター桜と美緒様の悪ノリの結果ですから気にしなくて良いと思います」
え、そうなの。
という事は何。あれはうちのものなの。
「そうです。所有者はあくまでもマスターです。それを軍に貸与してる形ですね。ですからクルーも皇国から派遣されます。今はそのクルーの研修中でティアマトの周回軌道上にいますよ」
「だから秘密にしてたのか。でも秘密にするような事でもないよね」
「いや、話したらマスターすぐに遊びに行きますよね。だからですよ」
「ならなんで今、輝夜は話したんだよ」
「いくらマスターでも宇宙までは気軽に行けませんからね。話しても問題ないと」
あ、それで美緒がこの前から里帰りしてんのか。
くそっ、やられた。
「そんな悔しがらなくても。本当にしょうがありませんね。これをお見せしますから機嫌を直してください」
輝夜が俺を外のガレージの前まで連れてくると、そのガレージがゆっくりと上にあがる。
そして低高度飛行型陸上用モービルが姿を現す。
「おい、これって。まさか」
「そのまさかです。これは私からマスターへの卒業のお祝いと誕生日プレゼントです。かなり遅くなってしまい申し訳ありません」
俺は輝夜を抱きしめる。
「輝夜、本当にありがとう。しかも新型の高速移動タイプ。ありがとう……」
輝夜を抱きしめながら嬉し泣きをしてしまう。
そんな俺を輝夜が落ち着くように俺の背中をポンポンと軽く叩いてくれた。
「こんなに喜んでもらえて輝夜も嬉しいです。でもミズハ達も少しはお金を出してくれましたから後で彼女達にもお礼を言ってくださいね」
「うん。必ず言うよ」
駄目だ。嬉しすぎて涙が止まらない。
「ねぇ、乗ってみても良いかな」
「どうぞ。許可は取ってありますので公道に出ても大丈夫です」
「え、許可?」
「皇国の方と同じ許可です。でも、ちゃんと信号と速度は守ってくださいね」
「よし。輝夜、ドライブに行くぞ」
「え、輝夜はいいですから。どうぞ、マスターだけで行ってください」
「いいからいいから。ほら、乗った」
「いや、押さないでください。輝夜には他に、」
俺は嫌がる輝夜を無理やり助手席に座らせて、ドライブに出掛けた。
「これは拉致ですよ! 訴えますからね! ひゃっ! スピードだしすぎ! だから嫌なんですよ、マスターが運転するやつは!」
次の日からの通勤はもちろん、輝夜がプレゼントしてくれた陸上用モービルだ。
結がしきりに運転したがるし、私にちょうだいとおねだりしてくるし断るのが本当に大変だった。
そして最近は偉くなったせいか、出動回数が減った俺はいつものように桜さんと部屋で事務仕事をしていた。
「宇宙艦」
桜さんの耳がピクリと動くが何の反応も示さない。
「美緒」
キーボードを叩く手が止まる。
「今はティアマトの周回軌道上か」
「な、なんで知ってんのよ!」
「うちには優秀なメイドがいる事を忘れたのかな」
「ちっ、あの裏切り者め。知ってても黙ってるのがメイドの流儀でしょうが」
いや、そんな流儀はないと思いますが。
「桜さん、」
「ダメよ。私いま生理中だから」
「ちっがうわ! それに仕事場でんなことせんわ!」
駄目だ。このままでは桜さんのペースに引き込まれてしまう。
「あ、そうだ。あと少ししたら凛花の所に行くんだけど一緒に行く?」
「勤務中なんですけど」
「それは残念だね。見せたいものがあったのに。いゃあ、残念残念」
とても気になる。
凛花の所だからたぶん凄い物だよな、きっと。
「適当に私の護衛とか理由つければいいじゃん。もし、一人だと怪しまれるなら八島ちゃんでも誘ったら」
机の上にある。勤務シフトをパラパラとめくる。
りっちゃんも山城もいるし、八島が抜けても平気だな。
「あ、八島。ちょっと俺の部屋まで来て。え、今日生理。……あほか! 勤務中にそんな真似する訳ないだろ!」
内線を切って、荒くなった呼吸を整える。
そして部屋の中をしっかり見渡した。
「盗撮はされてなそうだな。なんで桜さんみたいな事を」
「ただのジョークでしょ」
「人聞き悪いジョークはやめて」
桜さんはクスクス笑いながらキーボードを叩いていた。
「失礼します。速水三佐、お呼びでしょうか」
「ノックぐらいしてくれ」
「ごめん。嬉しくて急いじゃった」
なんだこのかわいい女の子は。
あ、俺の奥さんだった。
「ならしょうがないな」
「それでどうしたの」
「桜さんと凛花の所に行くから一緒に、」
「うん、いくいく!」
軽いな。自分の仕事は。いや、八島ならそんなヘマはしないか。ここに来る前に片付けてるか、誰かに変わってもらってるだろうしな。
「じゃあ一緒にいこう、って、なんで俺の膝の上に乗るんだよ」
「だって最近あんまり顔合わせてなかったし」
そんなかわいい顔で、そんな事を言うのはやめてくれ。色々と不具合が起きる。
「八島ちゃんは本当にかわいいよね。今度さ、一緒にしようよ」
「ええぇ、良いんですか。お願いします!」
「うん。たっぷり洸太くんを可愛がってやろうぜ」
「はい!」
なんてオープンな家族なんだ。でも、勤務中にする会話じゃないよね。
「こうくん。おっきくしちゃダメだよ。仕事中だからね。うちに帰るまでがまんして」
「そう言って、すりすりするのはやめなさい!」
やはり職場結婚は駄目なんじゃないか。
しかも、ほぼ全員同じ職場ってかなりやばいよな。
転職しようかな、マジで。
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