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 その日、咲耶達は戻っては来なかった。

 五人のデータ取りがそんなに早くは終わらない事知っている俺達は夕食後にラウンジで昼間の戦闘映像をみんなで観ることにした。


 全員がラウンジに集まり、立体映像が大きく映しだされる。

 俺はウィスキーの炭酸割りを片手に観ていたが、クラスのみんなも好きなお酒をそれぞれ片手に観ていた。


「人のことは言えないけど、みんな不良になってしまったな。しかも教官の舞さんの前で堂々と」

「構わないでしょ。今の私はプライベートだし」


 厳正なくじ引きの結果、見事俺の隣りをゲットした舞さんがそう口にした。


「そっか。それにしても舞さんの雰囲気ガラリと変わったね。今の方がとても良いと思うよ」

「ん、んんん。そ、そう。ありがとう」

「うん。表情も柔らかくなったしね。でももう少し話し方はくだけた方が好きだな」

「うん。がんばってみる」


 まあ、話し方なんて慣れの問題だからね。

 前の武装ハリネズミよりはずっと良いと思う。


「洸太は舞さんがどうしてあんな風だったのか知らないから、そんなに簡単に言うのです」

「麗子そんなことは教えなくていいから」


 舞さんと同じく見事隣りをゲットした加賀さんの話を舞さんはやんわりと止めた。

 でも気になる。理由があるなら知りたい。


「伝えた方が誤解がなくていいと思いますよ」

「話すことでもないと思うけど、麗子がそう言うなら好きに話せば」


 麗子さんは一度うなづいてから話しだした。


「あのね。これはまだ舞さんが高等部三年生で卒業試験で実戦投入された時の話なの」

「え、前は卒業試験で実戦投入なんてあったの」

「そう。でもそれも舞さんの学年を最後に今は行われてはいないわ。あなたも聞いたことない。東京湾上空で起きた、メイガス候補生壊滅事変のことを」

「あ、知ってます。確か撃墜数欲しさに独断で先行した生徒が多くて統率が、あっ……」


「そう、それよ。あの頃の舞さんはとても物腰も柔らかくて優しくて。でも凛としていて、とても強くて。そんな皆の憧れの生徒会長だったの。当時、中等部の私とゆいも、舞さんに憧れた一人よ。詳しくは話さないけれど、生徒会長である舞さんの指示にも従わずに独断で突っ込んでいった生徒のせいで現場は酷く混乱したそうよ。それこそ、歴戦のメイガスにも止められないくらいに。そこにはフォーメーションも連携も何もない。ただ自分勝手な生徒達のせいで、地球外生命体に襲われ、バラバラとなって逃げ惑う多くの生徒達がそこにいるだけ。そんな悲惨な現場を生き残ったメイガスの人が言ってたわ。まさに地獄絵図だった、てね。舞さんはそんな中でも一人でも多く助けようと他の生徒を逃し、敵と交戦した。戦いが終わった時には舞さんの全身は血まみれで満身創痍だったと人伝に聞いたわ。そこから舞さんは変わってしまったの。規律なんかにも厳しくなって口調も振る舞いも今までとは百八十度変わった。私とゆいも遠目で見ていて、まるでバリア張ってるみたいだって。だって誰も近寄らせないし、人前で一切笑わなくなったから。あの時の舞さんの気持ちも、そんな凄惨な現場も、私なんかには理解しようとしても出来ない。だってまだ17歳の女の子が、そんな場所でたった一人孤独に初めて遭遇した情報でしか知らない地球外生命体と奮戦して友人を救い。そして逃すなんて。私にはとてもじゃないけど出来ない。想像もつかないわ」


 何も言えなかった。

 馬鹿にするように武装ハリネズミだなんて思ったことを後悔した。


「そんなたいしたものではないわ。死にたくなかった。死なせたくなかった。ただ、それだけだったわ。でもね。戦い続けている内に、そんな事すら思わなくなるの。目の前でさっきまで話していた仲の良かった友人が敵に喰われて、その血が私の顔に飛んで。友人を取り返そうとその敵を殺し、そして噛まれたままの友人を取り返すために必死に口をこじ開けようと足掻いてみたり。そんな私を殺そうと襲ってくる敵と戦って。そんな繰り返し。そのうち何も考えられなくなったの。いえ。考えることを頭が勝手にやめさせたんだと思う。私の心が壊れないように。それからは何も覚えていないわ」


 舞さんは、ぼんやりと映し出された映像を眺めていた。


「舞さん先生!」


 後ろのクラスメイト全員が大泣きしながら舞さんに抱きつき、密にして囲んでいた。


「舞さん先生、ごめんなさい」

「何も知らないのに、あんなことを」


 舞さんが一瞬だけ笑顔をみせて話しだした。


「あなた達が泣いて謝ることじゃないわ。あなた達に厳しく当たった私のせいだからね。それと、私は三年前の洸太の闘技大会を観て救われたの。最初は命令でつまらない大会の警備に行かされて腹が立ってたんだけどね。一年生のくせに馬鹿みたいに強くて、桁外れの連携をみせて快進撃を続ける三人を夢中になって観てたわ。それまでの私も赤城のことをみていて、戦場で一番大事な事は規律やルールではない事は薄々感じてたの。それをはっきり分からせてくれたのが洸太だった。一見リーダーらしくもないし、目立って指示を飛ばす訳でもない。ただ仲間の良さを最大限に引き出して、信頼なのか友情なのかはその時は分からなかったのだけれど、アイコンタクトだけで連携して素早く無駄なく三人で相手を次々と倒していく。これが中等部一年生のやる事なのって衝撃と驚きでいっぱいになったわ。

 あああ、私は今まで自分の心を守るためだけに殻に閉じこもっていたんだって。それも、外側がトゲだらけの殻にね。そして私は教官を目指した。洸太達に教える為だけに。私も彼等から学ぼうと、教官の資格を得るために努力したの。だからね。初日は浮かれすぎて、あんな事になってかなり反省したわ。長門学園長に平手もされたしね。まあ、私なんて所詮こんなものなの。だから、気にしないで」


「ぶぇん、ましぇん、まいぜんぶぁい!」


 ゆい姉が大泣きして舞さんの後ろから、おんぶさるように抱きついた。


「まったく。いつまでも経っても、泣き虫なのは変わらないわね」


 ゆい姉の頭を優しく撫でていた。

 そして隣りの加賀さんも声も出さずに泣いている。


 でも、泣いているのは俺も同じだった。

 

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