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ファム・ファタール

作者: 欄干に縋る禿鷲
掲載日:2024/07/17

毒虫はきっと幸せ者だ。

何故なら。

自分がヒトを傷つける為に産み墜ちた生き物だって。

そう気付かずに済むのだから。

羨ましい。妬ましい。悔しい。

切なくて。憎たらしくて。

()()()()()()()()()()()()()()()

よく晴れた休日の朝。

公園で。

楽しそうに遊ぶヒト。ヒト。ヒト。

ああ。いいなぁ。

どうして。

()()()()()()()()()()()()()()()

しかしながら、世間での私の評判は、必ずしも悪くはない。

博学才穎とまではいかないが、頭の出来も悪くない。

容姿が整っていて、愛嬌があって。

()()()()()()()()()()()()

そう。

誰が見ても。

誰もが、私を見る。

()()()()()()()

彼らが私にそう在れと望むナニカを。

私は、そうやってイイコのレッテルを貼られて、社会に出荷される積み荷だ。

()()()()()()()()()

だが。

それだって、私のせいなのだ。

ヒトに、よく思われたい。

よく見られたい。

褒められたい。

褒められたい。

褒められたい。

()()()()()()()()()()

渇望している。

憎悪している。

私は、私に騙されてくれるヒトに救われ、私に騙されるヒトを蔑んでいる。

見下している。

或いは。

恐れている。

畏れている。

()()()()()()()()()()()()()()()()

誰でも。

都合よくニコニコ笑って。

愛想よくして。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()

悔しい。悔しい。悔しい。

彼らによって、私はいつも傷つけられる。

心が膿んで、グズグズになって、瘀血がジクジクと溢れ出る。

そして。

()()()()()()()()()()()

私は、私が嫌いだ。

私だけが悪くて、私以外のヒトは全て正しい。

()()()()()()()()()()()()()()()()()

だからこそ。

私は私を憎み、愛する。

この世でたった一人、私だけは、私から逃げられないのだから。

でも。

それは私にとって幸せなことではない。

私が私を愛することが、私を蝕む毒なのだ。

そう。

毒。毒。毒。

()()()()()()()()

私が出来損ないの欠陥品だと明らかになってから、私は無駄な努力を沢山した。

なんとか良い大学に入って。

友達をいっぱい作って。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

私は乞い願っている。

赦されるのを。

或いは。

()()()()()()()()

多くのヒトが、私に期待する。

私に希望する。

()()()()


岸野(きしの)さんって」


岸野(キシノ)さんのおかげで」


岸野(■▲●)さんにしか頼めないことなんだけど」


現実として、私はイイコのふりをしているだけだ。

どれだけ頑張っても。

()()()()()()()()()

ヒトは勝手に期待をして、勝手に失望する。

私を裏切る。

いや。

()()()()()()()()()

誰も私を見ない。

本当の私は、気持ち悪くて、最悪だ。

ヒトに執着している。

()()()()()()()

でも。

()()()()()()

酸っぱい葡萄だ。

手が届かないから、蔑んでいる。

冷笑して。貶めて。

夜になって。

独りぼっちで泣き濡れる時だけ。

()()()()()()()()()()()

社会の歪な優しさが凝り固まったような。

地を這う虫を焼き殺す太陽の光。

朝の木漏れ日を浴びて。

私は、私がヒトじゃないことに。

失望し、安堵するのだ。


大学で、彼を見かけた。

依田(いだ)(たまき)

彼もまた、()()()()()()


きっと。

きっと。きっと。きっと。

私のことなんか、分かってくれない。

そんなことはわかっていた。

だが。

彼は賢い。優しい。そしてかっこいい。

見た目が良い。外面が良い。

私は毒虫だ。愛すべき奇形児だ。

この大学で、この清流で。

()()()()()()()()()()()

高望みだったのだろうか?

また。

蔑まれて。

ヒトを傷つける。ヒトに傷つけられる。

()()()()()()

()()()()

そんなのは、不平等だ。

私は、蔑まれるべきじゃない。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

見下されて、客体化される。

容認せらるるものではない。

良く見せたい。良く見られたい。

ヒトは、私にイイコであれと望む。

期待する。利用する。

()()()()

同じことをして、なにが悪いのか。

私は依田環に近寄った。

誘惑して、言い寄って。

()()()()()()()()()()()()

仕方がないじゃないか。

依田環。私にとってのイイコ。

そうだ。イイコ。イイコ。イイコ。

()()()()()()()()()()()

ずるいとか、卑怯だとか。

誰に言われる筋合いもない。

王子の寵愛を望んだシンデレラの姉達は、金の靴に自身の足を合わせようとした。

ある姉は踵を削ぎ。

ある姉は爪先を切り落とした。

彼女らは。

あの毒虫らの物語は。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

ヒトに捉えられ、客体化される。

権利が、自我が。

()()()()()()()()()()

余りにも馬鹿馬鹿しく。愚かしい。

だが。

何をしようとしたのかは分かる。

()()()()()()()()()()()()()()()

私は騙されてあげるつもりはない。

私の人生に王子様は要らない。

依田環。

あなたには。

()()()()()()()()()()()()()()

私を引き立て。私を認めさせる。

私に媚び諂い。私の爪先に口づけをさせる。

()()()()()

私は、あなたを愛玩する。

弄び。悦びに身悶えし。奪い尽くす。

私はあなたを喰らい尽くす。

世にも悍ましい。

()()()()()


私は。


私は。


私は。


私は愚かしい。

愚かしいほどに寄り掛かっている。

依田環は、良いヒトだった。

私に寄り添い。

私を蔑まず。

私を見ていてくれた。

肯定せず。

否定せず。

色眼鏡で私を見ない。

()()()()()()

彼は、鏡のようなヒトだった。

彼は、しかし、あっという間に私にのめり込んだ。

のめり込んで、私に近付いてきた。

目の前まで来て。

私に口づけをする。

()()()()

彼は腰を屈めて。

()()()()()()()()()()

近付くほど、残酷なまでに浮き彫りになる。

彼は、決して私のところまで降りてこない。

彼はいつも耳元で囁く。

お前は間違ってる。お前は醜い毒虫だ。

そして。

私を愛する。

否定も肯定もない。

私にただ。

事実のみを告げる。

審判されていた。

弄ばれていたのは、私だった。

彼は、()()()()()()()()

必死になって、私を止めようとする。

救おうとする。

()()()()()()()()()

だが、自身の忌まわしき性を。

どうして隠し通すことなど出来ようか?

私は曝け出した。

自身の身体を。

そのグズグズに膿んだ、傷だらけの肢体を。

醜い。醜い。

毒虫の。

ブクブクと肥え太った。

()()()()()()()

愛されて。愛されて。愛されて。

めちゃくちゃになりたい。

堕ちていきたい。

そうして瘀血に塗れて。

それでも着いてきてくれる()だけを。

()()()()()()()()()

求め合い。貪る。

淫らに身を捩り。

涎を垂らして。

悦びに身悶えする。

()()()()()()

猥雑なネオンに心を重ねて。

奪い合う。愛し合う。

世にも痛ましい。

()()()()()


()()()()()()


そう気付いた時、既に私は取り返しのつかないところまで来ていた。

私は、彼を毒し。

彼に降りてきて欲しかった。

堕ちてきて欲しかった。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

依田環。

愛している。憎らしいほどに。

拒んでいる。淫らなまでに。

彼の前では。

私は()()()だ。

客体化される。

私は、淫らに媚び諂う、頭を捥がれた蝿だ。

匂い立つ死に体の生魚に群がる。

卑小な銀蝿。

彼は決して共感しない。

私を払いのけることすらしてくれない。

彼に集り、彼から奪おうと。

彼を殺そうと。

私は毒を刺す。

毒。毒。毒。


()()()()()()()


それでも彼は。

上から見下ろすだけだ。

心配そうな貌をして。

()()()()()()()()()()

恐ろしいことだ。

忌まわしいことだ。

彼がこんなにも愛そうとしてくれているのに。

嗚呼。自家中毒だ。

()()()()()()()()()()()()()

照らされる。

暴かれる。

曝される。

彼の愛が尽きた時。

()()()()()()()()()()()()

断罪される。糾弾される。

否。否。否。

彼はきっと。

哀しげな貌をして。

()()()()()()()()()()()()

悍ましい。

痛ましい。

私だけが。

いつだって私だけが取り残される。

独りぼっち。

私は、いや、毒虫は。

()()()()()()()()()()()

誰からも奪われないためには。

誰とも関わらなければ良い。

私の毒を。

ヒトは嫌う。

だからこそ。

隠してきた。

騙してきた。

私を殺して。


岸野(きしの)唯愛(ゆあ)を喰わせてきた。


可愛いとか。可哀そうとか。

心配だとか。甘えてるとか。

いい加減にしてよ。

()()()()()()()()

分かったふりをして。

私を何かに当て嵌めて。

結局なにもしてくれない。

なにも。

罰する事も。付き添う事も。

堕ちてきてよ。

私と同じところまで。


シャワーを浴びる。

私は私の身体を撫ぜる。

目を瞑って。


()()()()姿()()()()


グズグズに膿み爛れた傷跡。

身体を捩る度に、ケロイド状に引き攣れた蛞蝓の這いずった跡が、ブチブチと音を立てて毒を出す。

ブクブクと膨れ。今にも弾けんと怒張する。


涙を流したことを認めたくないから、目は潰した。

言い訳や弱音を聞かれたくないから、舌を噛み切った。

そして。

ヒトの罵声ばかり聞こえてきて、()()()()()()()()()()()()()


身体を支えるには足らない、未熟児のようなぷるぷるした手足が。

痣が出来るのにも。

指が千切れるのにもお構いなく。

狂ったように床を。壁を。

世界を叩いている。


私を見てよ。私を見てよ。

でも見ないでよ。怒るなら見ないで。

私の生を。私の性を。

否定しないでよ。

そして、何か言おうとして、私は舌を噛み切ったことを思い出す。


全身の傷口は化膿し。

びっちりと銀蝿が群がっている。

奴らは私の体液に歓喜の涎を垂らして。

私を奪っていく。

私は全身を掻き毟ろうとして。

指が千切れたことに気づく。


私に群がる虫共の顔ぐらい見てやろう。

憎たらしい。悍ましい。忌まわしい。

そして。私はなにも見えないことに気づく。


ブチブチと引き攣れた肌が音を立てて。

ブクブクと膨れ上がる。


()()()()()()()()()


シャワーを浴び終わると、彼が待っていた。

私はまた。彼を毒する言葉を吐く。

願いを。望みを。救いを。

彼の爪先に口づけをして。

涎を垂らして赦しを乞う。


「私のこと、愛してる?」


違う。本当は。こう言いたかった。


私のこと、愛して。


「え、うん。好きだよ。ずっと言ってるじゃん。」


依田環。

わかりきったことを。

再確認したのだ。

私のことを、好きだって?

嘘ばっかり。

それとも。

()()()()()()()()()()

お前は。

私のことを面白がっていただけだった。

賢しげに見下ろして。見下している。

()()()()()()()

お前はいつから私の先生になったんだ?

ふざけんなよ。

私は。

私は。

私は。

お前に堕ちてきて欲しかったんだよ。

お前に駄目になって欲しかったの。

最低な。膿血に塗れた。

毒虫に成り下がれよ。お前も。

そうじゃなかったら。

そうじゃなかったら。

()()()()()()()()()()()

クソ。クソ。クソ。

何だか泣けてきて。

自分がひどく滑稽な存在に思えた。

目の前の。

オトコの貌をして。

酷く盛り上がって。怒張している。

憎たらしい。

こいつも。

それに悦んでしまう自分も。

頭がぐちゃぐちゃになる。

気持ち悪い。

全部。全部。私の自己満足だ。

自涜。自涜。自涜。

気持ち悪くて、吐き気がする。

私は腕の生傷を掻き毟って。

裸のままでしゃがみこんだ。

彼が近寄って。何か優しい事をいう。

私に寄り添おうとして。抱き上げようとして。

彼の手より先に。


()()()()()()()()()()()


「あっ。ごめん。」


私は身体に溜った瘀血を吐き出そうとして。

お腹に何も入ってないことに気付いた。


「……お腹減った。」


今はただ。

()()()()()()()()()()()()()

或いはクレオパトラのように。

()()()()()()()()()()()()


夏にして。彼を離れた。

同じなのだ。

()()()()()

同仕様もないほど、決定的に。明らかに。

私を見捨てず。私を赦さず。

生殺しにして。賢しげに見下ろしてくる。

()()()()()()()()

わかったことは、やはり私が悪かったのだ。

私は未来を見ていない。

必ず恨まれ、嫉まれ、蔑まれる。

弄ばれて。苦しみ抜いて。

果てには道端の野菜屑と混ぜられて。

私はひっそりと死に絶える。

当然だ。

()()()()()()()

私はいつも乞うている。

生まれ変わって、美しい蝶になりたい。

これまでのことは何かの間違いだったって。

悪い夢だって。そう思いたい。

()()()()()()()()()()

でも本当はわかっている。

とどの詰まり、自傷行為なのだ。

自家中毒。

自身の毒に悶えているだけだ。

私は、これまでの生を蔑んでいる。

突然にして。世の中の真理と出会い。

私が悩んでいたことなんて大したことじゃなかったんだって。

悟った気になりたいだけだ。

私は。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()

私は、私を否定している。

いつも。最新の私がやってきて。

古い私は無造作に投げ捨てられる。

そんな気持ちの悪い妄想に体を震わせて。

私は独りで毒に酔っている。


依田環は、泣いていた。


彼は、泣いて。泣いて。

泣いて私に赦しを乞うた。


離れてください。別れてください。

()()()()()()()()()()

()()()()()()()()()()()()()


泣いて赦しを乞うたのは、私の方だ。

彼の足を舐め。媚び諂い。

彼を脅し。彼を畏れさせた。

傲慢に。全てを懸けて。

私は惨めに彼に追い縋った。

見捨てないで。

見捨てないで。

見捨てないで。

嗚呼。失うと、途端に惜しくなる。

見ていてくれるだけでも。

救われるものがあったなぁ。

何度も死を仄めかしては。

この上なく生きている自分に嗚咽する。

死ぬ気があるか?

違うのだ。

()()()()()()()()()()()()

張り詰めて。張り詰めて。

引き攣れた傷が体液を滲ませて膨れ上がる。

しかし。

なんという刑罰なのだろう。

私は、私を引き裂くことが出来ない。

怖い。怖い。怖い。

()()()()()()()()

いや違う。

これは言い訳だ。

誰への?

彼、依田環への?

それとも、中学の親友だろうか?

精神的に追い詰められた私を気遣ってくれた、大学のヒト達か?

きっと、どれもその通りなのだろう。

だが。だが。だが。

ずうっと。私を見てくれた。

私を見捨てず。私を赦さず。

遠くからじっと見ているだけ。

そうだ。

私は罰されたかった。

或いは。

おかしくなって欲しかった。

見捨てて欲しかった。

なのに。

一緒に来て欲しかったの。

私は大人じゃない。

私は子供なの。

私は幼くて、また悪いことしちゃったの。

私を叱って。私を赦して。

私に触れてよ。

私だけを助けてよ。

こっちへ来てよ。


()()()()


大学から駅までの上り坂。

私は半ば立ち直り、大学のヒト達と帰路についていた。

道の端。夏の濃い影が、タイルを蒼色に染めている。

どろりと、濃い草の匂いが立ち込める、ささくれだったタイルの縁に。

()()()()()()()()()()()()()()

頭が潰れ。

躰は何やら、まごまごと身動ぎして居る。

蟻が、狂ったように群がって。

のたうち回る毒虫を、巣へとぐいぐい運んでいく。

地面に縋りついた、節だった足が。

千切れて跡を残していった。


「え…気持ち悪い。」


ヒトが、それを蔑む。

私も、毒虫を蔑んだ。

そして密かに。

()()()()()()()()()()


経験には貴賎がない。

詭弁だ。私は独りごつ。

私は。

貪られることにした。

私を分け与え、彼らが望む部位を分け与える。

私はどんどん引き千切られ。

グズグズに膿み爛れ。

()()()()()()()()()()()

望むことを、望まれた私を、切り分ける。

イイコであれと望まれた。

ワルイコであれと望まれた。

だが、本当は分かっている。

()鹿()()()()()()()()()()()()()

味見をし。口に合えば、舌鼓を打つ。

私を振り回して、弄んで。

最後にはそっぽを向いて去っていく。

「そこで寝転んでよ。」

「色々してやったのに。」

「苦しい?」

「誰にも言うなよ。」

「もっと強く握ってみてよ。」

「変わってくれないなら、もう終わりだよ。」

「こんなことしたことある?」

「生理はもう来た?」

「上手だね。」

「いい加減にしてくれないか?」

「これ履いてみて。」

「こっちに突き出してよ。」

「出会わなきゃよかったな。」

「飲み込んでよ。」

「初めてしたの、いつ?」

「意外と大丈夫そう。」

「感じる?」

「ゴム取って。」

「ちょっと落ち着け。」

「内緒だよ。」

「やべ、出ちゃった。」

「おい。口答えすんなよ。」

奪われて。殺される。

毒虫の死骸。

こんなの。自己陶酔だ。

気持ち悪いのは。

()()()()

何者でもなく。

何者にもなれない。ならない。

怠惰で。臆病。

傷ついて。傷つける。

ヒトを振り回して。甘えて。

追い縋って。駄々をこねる。

そして最後には、泣いて赦しを乞う。

()()()()()()()()()()()()()

私はまた。

独りで鼻息を荒くして。

艶めいた吐息を吐き。

興奮冷めやらぬままに。

私の芯に触れ。

弄くり。

愛撫し。

ますます悦びに身を捩らせ。

歓喜の波に包まれんとするその瞬間。

()()()()()

私は。

特別じゃない。

ヒト並に落ち零れ。ヒト並に性格が悪く。

ヒト並に他人を疑い。ヒト並に打たれ弱い。

自分を特別な殻で守って。

柔らかい部分に触れられる事を畏れている。

毒虫だなんて。

なんという愚かしさなのだろう。

ヒト並に人生に向き合うことすら出来ない。


()()()()()


なんの絵にもならない。

なんの悲劇も、喜劇もない。

ただの。

ありふれた負け犬。


自分を傷つけて。加工して。

おかしくなれば。

何者かに生まれ変われるとでも思っていたのか?

私は。

ずうっと私だった。

これからもそうだ。

ヒトより少し生き辛くて。

ヒトより少し幸せが少ない。

ヒトのことが妬ましくて堪らないくせに。

意地を張って冷笑した。

なんの努力もしなかった分際で。

甘い果実だけを乞い願った。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


()()()()()()()()()()()()()


きっと。私は大人になることができないだろう。

畏れている。怯えている。

誰も責任を取ってくれなくなって。

本当にヒトから見放される。

放逐されて。

いずれ見向きもされなくなって。

それでも死んだように生き続ける。

ヒトを羨んで。

()()()()()()()

本当の。

本当の。

本当のところ。

私が本当に望んでいたのは。

乞うていたのは。

私は。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


それが。それだけが。

私の、たった一つの高望みだった。


逃げて。怯えて。傷つける。

今までそうしてきた。

これからもそうするだろう。

私は。

小手先であれこれと策を弄する。

必死になって自分を騙して。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

だが。だが。だが。

実のところは。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

投薬。

行動認知科学。

カウンセリング。

支援制度。

本当に変わりたければ、変わる方法はいくらでもある。

そうか。

依田環は。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

彼の手を。

私は取れなかった。

私は。

()()()()()()()()()()()

キイキイと甲高い虫の鳴き声が。

夏の薄明かりに溶けて消えていった。


夜になって。

独りぼっちで泣き濡れる時だけ。

()()()()()()()()()()()


アパートの一室。

雑多な家具と、散らかった部屋。

生活感に溢れ、ぬるい室温に汗ばむ。

要領よく家事をこなせない私のせいで、洗濯物も洗い物も溜まりっぱなしだ。

娘を連れてスーパーで買い物することもままならない。

そもそも。目を離せない。

簡単に死ぬ生き物。

弱いくせに。厚かましい。

ぎゃあぎゃあと喚き。

私を呼びつける。

苗字を奪われ。

■■ちゃんのママと言われるようになった。

名前で呼ばれることすらなくなった。

自分のアイデンティティーが完全に失われる。

扇風機が、ギリギリと狂ったように回っている。

ポットに沸かしたお湯が、ゴポゴポと音を立てた。

ゴミ箱ははちきれんばかりにゴミが詰め込まれ、横に倒れてしまっていた。

そのゴミに塗れて。

一匹の毒虫が姿を出す。

嗚呼。ニュースで見た。

最近、急に繁殖しているとか。

噛まれたら。

()()()()()()()()()()()()()

私は半狂乱になって、殆ど反射的に子供を抱き上げた。

言葉の習得が遅く。

意思疎通も出来ているのか分からない。

ヒトの出来損ない。

なのに。

生物の本能によるものなのだろうか。

()()()()()()()()()()()()()

その時。


やぁう、やゆ。


なにか、言葉を喋ろうとした?

私は半ばぎょっとして、半ば狂喜した。

()()()()()()()()()

この奇跡の瞬間に。

さぁ。なんて言うんだ。なんて。


あ、あぷ。


急がなくていいのよ。

ゆっくり。落ち着いて。

幸せだ。こんなにも報われる。

()()()()()()()()


ぱ。ぱぱ。


は?

パパって言ったのか?()()()

瞬間。

腸が煮えくり返り。

私の心が憎悪に染まる。

()()()()()()()()()()()

狂おしいほどに。

ポットの音が大きく聞こえて、もう頭が変になりそうだった。


ぱぱ。ぱぱ。


そう言って。無邪気に嗤う。


ゴポゴポ。ゴポゴポ。


私は。

()()()()()()()()()


目が覚める。

夏の日差しは強く。

私は嫌に汗ばんでいた。


そうか。

恐ろしいほどに。

私は冷静だった。


私は。同じ円の上を。

ずうっと行き来しているだけなのだ。


かんたんなことだった。


私は賢しいが、決して大人には成れない。

私はオンナだが、決して女性には成れない。

私は卑しい虫だが、決してヒトには成れない。


私の生き方がわかってしまった。

私の役割は。


()()()()()()()()()()()()()()()



      「ファム・ファタール」完




























大学の友人、依田くんと呑んでいた時のことだ。

彼がくだを巻いて言う話が、殊の外面白かった為か、僕はその岸野さんに少し興味が湧いた。

とは言っても、僕は実のところ、岸野さんが苦手で、あまり好き好んで話したい相手ではない。

ただ。

こう言う、つまらない輩の、孤独を拗らせた自家中毒が、僕は三度の飯より大好きなのだ。

その夜。

僕は家に帰って、夜通し一枚の絵を描いた。

薄闇の中で、惨たらしく身を捩り。

膿み爛れた傷口を殊更に広げて見せつける。

淫蕩に身悶えする一匹の毒虫の痴態を。

思うに。

自ずから見た悲劇は、人から見た喜劇だ。

実に愉快。痛快。

本当に愚かしくて、味が濃くて良い。

こういう手合が、僕の人生に愉しみをくれる。

いやはや。全く持って岸野さん。

馬鹿でいてくれて、ありがとう。

君は本当に、最高に最低だな。












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