表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/6

異世界に召喚されたけど、罵倒されたから逃亡した ③

  西門から出て、街を回るように移動する。空を飛んでの移動ではない。徒歩での移動だ。

 どうやら諜報員らしき二人は振り切れなかったらしい。

 気付かない振りをして無言で歩く。気付いているアピールとして一度振り返って見るか。

 足を止めて振り返る。そこには、宿で出会った銀髪と金髪の二人組がいた。荷馬車も馬も無く徒歩だ。商人を名乗っていたのに、普通に怪しいな。

 警戒しながら近づいて話し掛けると、銀髪の手が素早く動いた。反射的に飛んで来た何かに対して左手で顔を庇って後ろに跳んだが、襲って来た強烈な眠気により、着地の際によろけて片膝を着いてしまった。

「やっぱり効果が出るのか。悪いな。召喚者は国で管理するのが決まりなんだ。巻き込まれたと思って諦めてくれ」

 左手を顔前に翳したままなので、相手の顔は見えなかったが、判った事が在る。

 この二人はジジイの尻拭いで自分を連れ戻しに来た奴だった。非常に腹の立つ展開だ。空いている右手でコートの内ポケットからポーション瓶を取り出し、一気に飲み干した。困惑の声が正面から聞こえたが無視する。飲み干すと同時に眠気が完全に消える。左手を見ると透明な液体で濡れていた。魔法で作った水で洗い流し、服に飛び散った分も魔法で除去する。

「魔法が使えるって事は、まさか、本当に転生者なのか!?」

 驚愕の声を無視して立ち上がる。素性がバレているみたいなので、これ以上隠しても無駄と判断。髪と瞳の色を変える魔法を解除する。今度は重力魔法を使い真上に飛ぶ。制止の声が聞こえたけど無視。途中で下から見えないように幻術を使う。下を見ると、さっきの二人が狼狽えていた。

 空中で三日前と同じように空中移動用のバイクを宝物庫から取り出し乗る。東に向かう予定だったが、変更して南へ向かう。南には王都が在るみたいだけど、手持ちの資金で食料を買い込むのなら、種類が多いに越した事は無い。

 王都で食料を買い込んだら、どこぞの山奥に引き籠ろう。

 面倒事には巻き込まれたくない。何としても、逃げ切るぞ。

 こうして、予期せぬ逃亡劇が始まった。グダグダだけどしょうがない。平穏に静かに過ごせればいいのに、どうしてこうなるんだろう。



 予期せぬ逃亡劇は、途中で王子が混ざった事により、更に変な方向へ転がった。

 どちらかがギブアップするまで続くと思ったが、逃走劇にクラスメイトが絡んで来た為、一ヶ月後に急遽王子と面会した。勿論クラスメイトを遠ざける為だ。

 自分は帰還する為の準備をしている真っ最中なのだ。それがクラスメイトにバレたら『一緒に帰らせろ』としつこく絡んで来るのが目に見えている。それに、帰還は帰還でも、自分とクラスメイトでは意味が変わる。

 彼らは文字通り『家族の元へ帰る』為で、自分は『必要なものを手に入れる』為だ。目的が違う。一緒に行動する程に仲が良い訳でもない。

 トラブルの元となるクラスメイトからも逃げる為に、王子と一度だけ接触した。要求は『ほっといて欲しい』しかない。意外な事にオズワルドと名乗った王子はこれを受け入れた。代わりに不定期面会する事になったけど、顔を出す程度なので我慢した。

 去る前に王子に紹介して貰った山奥に向かい、魔法で斜面を刳り貫いて生活拠点となる簡素な家を作る。

 暫くの間はここで生活する事になる。何時までいるかは分からないけどね。

 拠点が出来たら次にやる事は沢山ある。

 混乱を防ぐ為に紙に書き出す作業が最初のやる事だった。

 


 全ての荷物を道具入れに収納し、一年間使用した拠点を更地に戻し、背を向けて歩き出す。

 ここ数年、一年毎に生活拠点を変えている。半年に一度の時も在ったが、大体は一年単位だ。

 異世界召喚などと言うイベントに巻き込まれたが、今の自分は当ても無くフラフラと彷徨っている。別の異世界に転移しようかと一時期考えたが、また一から馴染む作業が面倒に感じられたので止めた。

 


 逃亡を重ねた結果、召喚から二ヶ月後にペネロペ王国(の一部重鎮)が計画していたウエストランド連邦国への侵攻に手を貸す事態は避けられた。

 代わりに、自分と一緒に召喚されたクラスメイトは戦闘訓練後に侵攻に参加し――幾つかの戦果を叩き出したが、数人の戦死者が出た。それでも、勝てなかったが――敗戦後、生き残りは賠償金と共に奴隷として差し出された。自分達を召喚した神殿関係者も纏めて奴隷として差し出された。

 そもそも、大陸の半分を占める国に戦争を吹っ掛けて勝てる勝算が有る筈もない。どうして三十人ちょっとを召喚しただけで勝てると思ったのか。謎だ。

 今回の侵攻で神殿側で行われていた汚職が大量に発覚した結果、神殿は解体となった。

 解体を決めたのはあのオズワルドと言う王子だ。自分達の召喚は『無許可で行われた違法』だったらしく、早々に離れた自分は神殿に一切協力しなかったと言う事から無罪放免となった。クラスメイトは煽られて自ら協力した馬鹿一同と言う扱いだ。

 元居た世界で問題児扱いされていた連中が、奴隷に落とされた。文面にすると『何が起きた!?』と言った感じだ。

 彼らには今後一切関わらない事を条件に、自分は召喚者と言う枠から外れた。故に、彼らが今どうなっているかも分からない。奴隷落ちと言う時点で、保護者も真っ青な状況なのは確かだろう。

 そうそう。保護者で一つ語る事が有る。

 彼らの保護者は、所謂『モンペ』と呼ばれるものが多い。単身帰還したら『独りで帰って来て恥ずかしいと思わないのか』と糾弾大会を始めるだろう。これはこの世界に召喚されて、二日目当たりで気付いた事。

 帰還は諦めたが、一度日本に帰った。向こうのホテルで一泊してこちらの世界に戻ったので半ば旅行気分だ。

 さて、日本に戻り判明した事は、『自分達の扱い』と『時間の流れの差』についてだ。

 まず、自分達の扱いについて。

 真昼の集団失踪は大騒ぎになったが、手掛かりがない事も在り、一年が過ぎる頃には捜索は打ち切られた。元より、半年が経過した辺りで注目度が下がり、生存も絶望的と見做されていた。捜索の打ち切りは保護者一同がゴネ倒して二ヶ月程度伸びたらしいが、手掛かりが一切ない事で打ち切られた。

 本当は異世界に召喚され、戦争に加担した事で数名死に、奴隷にされていると知ったら……世間は『保護者達』をどう見るのだろうか。ちょっと気になった。

 もう一つ、時間の流れの差。

 距離が在り、必要な魔力量の計算ですっかり忘れていたが、『世界単位で時間の流れるスピードが違う』のだ。

 これは複数の世界を行き来しなければ分からない事で、今回のように世界間を往復する事は滅多にない。大体は移動して終わりなので、いざ移動して時間の流れの差を体感し、『そう言えば』と思い出したのだ。

 ちなみに時差は約三倍。この世界で一年過ごすと、日本では三年も時間が経ってしまう。

 いざ日本に行ったら数年も経過していて、昔話の浦島太郎のような事をリアルに体験した。買い物をして世界間を移動すると、こちらでは殆ど時間が経過していなかった。非常に貴重な体験をしたよ。

 お金は次の世界に持ち越しても利用不可能。手元の日本円は使い切る予定だ。

 使い切り目的で、日本で観光地巡りもした。シーズン中の観光だったから結構色んなものが見れた。のんびりと過ごした。久しぶりの日本と言う事も在り、羽を伸ばし過ぎている感は否めない。だが、転生先は中世のヨーロッパじみたところが多く、現代の日本の見識が役に立つ事が非常に多い。農業とか、食事とか。

 今回出来なかった知識のアップデートは、本を購入する事で妥協した。久しぶりの古本屋巡りで漫画を立ち読みした。楽しかったよ。買えなかったけど。

 あとは、パソコンの購入も考えた。魔力を電気に変換する魔法具を作ったは良いが、余り使用していないのを思い出したからだ。まっ、パソコンを購入してもフリーWi-Fiが在るところじゃないとネットは出来ないし、持っていても何に使うんだ? って状況だからこれも買わなかった。

 購入したのは、本と食料と、衣類や布製品、裁縫用品だ。

 所有のクローゼットにカジュアルな服が余り入っていない。ドレス類と違って着倒してしまう。着れなくなったら端切れとして再使用しているので、捨ててはいない。日本で購入する衣類は着心地が良いので、今回を機に予備として多く購入。下着なども大量に購入した。女性用の下着は世界によっては生地が薄過ぎて駄目になり易く、再利用も難しい。女の日に使い捨てとして利用する以外に再利用法もなかった。ブラやパットがない世界が圧倒的に多く、即席ブラが作れるように布とパットも結構な量を購入した。レジの店員からは不審者を見るような目で見られたが、縫製の練習用を連呼して誤魔化した。嘘は言っていない。

 そう言えば、毛布とクッションも購入したな。大きく寝心地の良い『賢者も駄目にするビーズクッション』と中に詰めるビーズも購入した。へたった時用だ。普通のクッションも買ったよ。毛布は良い奴を何枚か購入した。布団よりも毛布の方が嵩張らないんだよね。枕は普通のクッションで代用。

 日本で簡単に購入出来るものを大量に購入。次の世界がまた日本だとは限らないし、経験上、中世レベルのヨーロッパレベルの世界に転生する事が多いから、大量に購入しても損はない。現代のものが使えるだけで気が楽になる事も多いしね。

 所持金が底を着いたあと、こちらの世界でのんびり静かに――暮らせなかった。

 無罪放免になったとは言え、自分が召喚者だと言う事実は消えない。

 奴隷に落とされたとは言え、クラスメイト達は戦争で幾つかの戦果を叩き出している。これを知ったペネロペ王国以外の重鎮が何度か接触して来たのだ。押さえて貰おうと、王子に連絡を取った。その結果接触回数は減った。一国の王子では接触回数を減らすのが限界らしい。

 ウエストランド連邦国が接触して来ないだけまだマシだが、あそこも何時接触して来るか分からない。

 そんな訳で大陸各地を放浪しながら、次の準備を進めていた。揉め事回避に集中していたら、結構な時間が過ぎてしまったけどね。



「おお~、綺麗……」

 只今、大陸最高峰と言われる山の中腹でキャンプ中。外気温調整用のペンダント型魔法具を身に着けているので寒さは感じない。

 夕食後に見上げる夜空には満天の星が輝く。酸素がやや薄いからか、山麓よりも綺麗に見えた。

 知っている星座や星はないが、夜空で輝く星は美しい。珍しい事に、天の川に似たものまで見える。

 最後のインスタントコーヒー(砂糖ミルク入り)を飲みながら見上げる。焚火で残ったマシュマロを焼いて食べる。うん、美味しい。

 ――このあと、山頂付近に移動してこの世界から去る。

 転移による移動ではない。転生魔法による退去だ。

 現在山の中腹にいるのは、人気のない場所で去るのなら最期に美しいと思うものを見てからにしようと、思い立ったからである。

 どうせなら、御来光も拝んで『次の世界で良い事が有るように』と祈って置くのも悪くはなさそう。

 衝動的な思い付きである。

 ちなみに、王子達にも退去を知らせた。驚いていたけど『自己都合だから気にするな』と言って、一方的な通達をしたあとに去った。

 彼らが受け取った『世界から去る』意味は違うだろうが、『もう二度と会えない』と言う意味では同じなので訂正はしなかった。

 空がやや白み始めた頃にコーヒーを飲み終え、マシュマロも食べ終えた。片付けてから装備をチェックし、山頂目指して出発する。

 歩いて移動する訳ではない。魔法で空を飛んで移動する。時間にして数分程度で山頂に着いた。

 空はまだ暗い。しかし、日が昇る東の空は少し白んでいた。

 次の世界で良い事が有るようにと祈って、他に何か祈る事は有るだろうかと思う。

 最近会えていない他のパーティメンバーに会いたいと祈って置こう。男衆女衆で分かれているので、可能なら混成で再会したい。

 日の端が見えた。同時に空が明るくなり、満天の星もその輝きを失くして行く。

 徐々に昇る日の出を眺めながら、先程思った事を願う。ついでに、いつもと違うスタートが有れば良いなと祈る。

 専用の魔法具を取り出し、宝物庫に仕舞うものは仕舞う。ペンダントも外して仕舞う。外気の寒さが身に染みる。

 魔法具を起動させ、己の魔法光に包まれながら、ふと思う。

 ――そう言えばこれもロザリオ型だよね。

 マルタの希望でこの形にしたが、もしかしたら、今みたいに祈る日が来るかもしれないからこの形を希望したのかな?

 本人に聞かねば分からないが、覚えていて会えたら聞いてみよう。

 そんな事を思い、意識が途切れた。

 


 祝福なき旅の門出。

 終わりは、まだ見えない。



 Fin

ここまでお読み頂きありがとうございます。

これにて完結となります。お付き合いいただきありがとうございました。

菊理から見て平穏だと思う人生三選です。元々、バラバラの作品だったのに、パズルのように考えたら、奇跡的に見事に嵌まり出来上がった作品です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ