表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/6

お馬鹿な王子との婚約を回避します

 さて現在の名前は、カレン・フォルスター。

 転生先の国の政治派閥中立派の公爵家の分家の娘で、三歳の頃に本家に引き取られた元伯爵令嬢。

 体裁を保つ為に引き取られただけだから、本家の人間(特に公爵夫妻の息子二人)からは余り良く思われていない。五歳の頃に『十五歳になったら出て行け』と言われ、即座に了承したら逆に驚かれた。静かに勉強がしたいと希望すれば、一人で領地に送り出された。社交と無縁でいられるから気楽でいいんだけどね。ちなみに十五歳なのは、成人年齢が十六歳で夜会参加可能年齢もこの年齢からになるので、顔が広がる前に出て行けと言う事だ。

 実家伯爵家は、父伯爵が後妻と異母姉の二人と馬鹿をやらかし没落した。自分は何もしていないし、どちらかと言うと被害者だ。転生先のカレンは三歳の頃に母共々、後妻と異母姉に遊び半分で殺された。その時に記憶が戻った。母は男子では無いカレンを嫌っていた。同じ日に殺されてどう思ったかは知らない。

 実家はもう存在しないので、どうでも良いな。

 今の状況で最も大事なのは、本家の公爵家に引き取られた事で不運にも中立派で唯一、王の一人息子と年齢と身分が釣り合う娘、と言う点だろう。

 十歳児が泣いて駄々をこねる様に、本家当主の公爵は失望の色を隠さずに『さっさと第二子を作れよ(意訳)』的な事を国王夫妻に言い出す始末。確かにこんなバカが未来の王だと思うと恐怖しかない。絶対に国が荒れる。そんで婚約者の令嬢に仕事を押し付けて己は遊び、注意されて癇に障ったら『婚約破棄だ』と阿呆な事を言うんだろうね。

 せめてもの救いは、この馬鹿と婚約しても『公爵家に旨味が無い』事、つまり婚約を潰して問題無い事か。王家にしか旨味の無い婚約は流石に嫌がられる。

 元々、王が残りの二つの派閥をコントロール出来ないから、中立派閥トップのフォルスター公爵家に打診しただけ。この馬鹿と婚約しても、やりたくもない仕事が大量に発生し、家単位の嫌がらせを受けるだけだ。

 さてどうしようかと思っていたら、『余は天才なんだ』とか、『天才に人の子は相応しくない』とか、馬鹿を言い出した。ここまで馬鹿ならちょっと持ち上げれば『出来る』と乗りそうだ。

「殿下。天才を自称するのなら、婚約者が何人いても対応出来ますか?」

「当然だ! 余は百年に一度の天才なんだぞ! 五人でも十人でも対応出来るぞ!」

 何となく思った事を口にしたら、馬鹿は馬鹿らしく肯定した。国王夫妻が顔色を変えた。公爵は何も言わない。王に発言の許可を取ってから考えを口にする。

「陛下。中立派閥以外の高位令嬢で、婚約していない御令嬢全員か、代表の二人と、成人の儀を迎えるまで婚約した方が良いかと――」

「待て待て、流石にそれは無理だ! 他の派閥の令嬢は受け入れられん!」

 考えを口にしたら、慌てた王が食い気味に言葉を挟んだ。王妃も顔を引き攣らせている。公爵はどうでも良くなったのか、明後日の方向を向いている。

「何故でしょうか? 平等に中立派閥以外にも打診した方が、陛下の印象が良くなるのではありませんか? 女の数は男の甲斐性と言う言葉も在ります。本当に天才ならば可能だと思います」

「こいつは我が儘しか言わない百年に一度の大馬鹿なんだ!」「父上! 余は馬鹿ではなく、天才です!」

「まぁ、陛下は私に『十歳児の育児をやれ』と命令するおつもりですか? こんなに大きな幼子の相手を務めるのは、私一人では不可能です」

「……」

 そこまで言い切ったら国王は白目を剥いた。王妃はハンカチを目元に当てて『ごめんなさい』と呟いている。どうでも良さげな反応を見せていた公爵はなぜか渋い顔をしている。

 このあと、ギャンギャン喚き始めた馬鹿王子が『無礼者! お前なんかとは婚約破棄だ!』と叫んでくれたお陰で、婚約話は無くなった。



 帰りの馬車の車内。車内に残していた本を読みながら、公爵邸に着くまで時間を潰す。けれども、ずっと渋い顔をしたままだった公爵が口を開いた。

「カレン。『女の数は男の甲斐性』と言う言葉はどこで覚えた?」

「あと五年で出て行く小娘の事を、今になって気にしてどうするつもりですか? 今日中に領地へ出発しますから私の事は気にしないで下さい。何もかも『今更』です。それに、親から大切にされず、情を欠片も与えられなかった子供には『幸せになる資格が無い』から、十五歳になったら出て行けと仰ったのでしょう」

 本から顔を上げずに公爵を拒む。何時もなら『礼儀がなっていない』と怒るのに、公爵は何も言い返さずに黙った。そのまま沈黙が下りる。

 公爵邸に着いたら、借りていたドレスから移動用の軽装に着替えて、領地へ向かう馬車に乗り込み出発する。出発直前に公爵が『泊まって行け』と言い出したが、『これ以上世話になる訳には行きません』と速攻で断った。

 フォルスター公爵領は王都から馬車で一日ほど離れている。今朝公爵邸に着いて、着替えて王城へ出発し、帰って来たら領地へ戻る。一種の強行軍だな。帰りの馬車の車内で、王都を出た事を確認してから横になって休憩する。ドタバタしていたからか、疲れが溜まっているのか、そのまま眠ってしまった。


 後日、他の二つの派閥内で王子と婚約可能な令嬢を全員集めた『集団お見合い』が行われたと聞かされた。

 王子は『こいつが良い』と気に入った令嬢の髪を掴んだり、『どんくさい』と罵りながら令嬢のスカートを捲るなどの悪戯を楽しくやったそうだ。これが原因で、王子は二つの派閥で己の婚約者になれる令嬢から蛇蝎のように嫌われた。その嫌われようは令嬢達の両親にも影響を与えた。

 蔑ろにされてまで王家に己の娘を差し出す家は無く、王子の婚約者は決まらなかった。それだけではなく王家への求心力は低下し、王と王妃に『男でも女でも良いから、早く第二子を作れよ(意訳)』と皆から圧力を掛けられたそうだ。 


 この日以降何度か、公爵と公爵夫人が領地にいる自分を訪ねて来るようになった。今まで交流が全く無かったので、領地の屋敷にいた使用人達も驚いていた。でも、互いに会話の糸口が見えず、共通する話題も無い。公爵夫妻と会話も交流も無く、二人が王都へ帰るのを毎回黙って見送った。何しに来たんだろうね?

 何度か一緒に王都へ行かないかと誘われたが、この二人の息子達から良く思われていないので丁重に断った。

 公爵夫妻の奇行を無視して、自分は独り立ちするに当たって役に立ちそうな事を勉強する。

 特に、この世界には魔法が存在するので、自分が使う魔法との差異を確りと理解しなくてはならない。異世界へ転移した場合、この辺りの情報が得られないので、トラブルが発生する。

 ……多種多様な問題と柵が発生するけど、やっぱり、転生した方が情報を得やすく馴染み易いんだよね。転移して情報を得るには伝手が必要になるし、情報収集の過程で怪しまれて馴染めない時が在ったし。

 無関係な事を思い出して憂鬱になったが、勉強に集中する事で忘れた。

 この時は薬学系を中心に勉強していた。魔法の勉強は実戦を交えてやった方が効率が良いから別の機会にした。

 どうして薬学系なのかと言うと、必要に応じて自前でポーション作る時が在るのだ。作ったポーションのお陰で良い方向に話を持って行けたりもする。薬学系の方が役に立つ――主に毒や変な薬品を警戒しなくてはならない時とか――時が在る。そして意外にも、薬草に関する基礎知識が無いと、ポーション系は作るのが難しかった。漢方薬や生薬とは扱いがまた違うのか、失敗すると『ただの薬草の煮汁』になってしまう。ポーション作製時の失敗を防ぐ為に、調合に必要な知識の習得と発想を得る為に勉強している。

 


 月日は流れて五年後。遂に家を出た。何故か公爵夫妻に引き留められたけど『先に出て行けと仰ったのはそちらでしょう』と拒んだ。

 この五年間、国王から『王子と婚約して欲しい』と言う内容の手紙が何度も直接届いたが、『フォレスター公爵を通して下さい』と遠回しに拒んだ。きっと公爵にも拒まれたんだろうね。

 そうそう、あれから国王夫妻の元に子供が四人も生まれて、家族構成は夫婦三男二女になった。五年で子供四人を出産するのは凄いけど、二人の王女は双子だ。双子の王女が生まれた時、気の早い事に『どちらかを他国の王子と婚約させよう』と言う声が上がっている。

 なお、第一王子はあれから何度も再教育を試みるも、結果は芳しく無い。余りにも役立たずだからか『いないもの』として扱われている。色んな家を敵に回したからこればかりはしょうがない。その内馬鹿をやって王籍を無くしそうだと思っていたら、自分が家を出たあとに本当にやらかして炭鉱送りになったらしい。どこまで馬鹿なんだろうね。親に『百年に一度の大馬鹿』と言われた時点で詰んでいたのかもしれない。真相は知らないが。やらかしの内容は聞いたらため息を吐きたい内容だったので即忘れる事にした。

 家を出た自分が国の行く末に関わる予定は無いし、その気も無い。気に掛けないで現在、気楽な一人旅をしている。

 王家とトラブルが発生したけど、今回のようにちょっと言えば関わらなくても済む状況は『平穏』と言える。王族との関わりをあの一回で断てたのが大きい。

 何時かのような、獣人族と番が絡んだ時の方が大事だ。あの時は上手く逃げ切れたけど、常に上手く行くとは限らない。一人旅をしているけど、期間は半年程度としている。公爵家と王家の都合で振り回されたくないから、期間は半年と短めだ。

 言ってはいけないんだけど、見るものが余り無い世界なんだよね。それから路銀(と言う名の出立費用)は期間を考えて『途中で稼ぐから少なくていい』と言って減らして貰った。公爵夫妻に変な顔をされたけど押し切った。

 そして、予定期間を少し超えたけど、尋ね人はおらず、やりたい事も見つからないので別の世界へ逝く、転生の術を使った。

 始まりがどれ程悪くても、馴染む為に必要な時間と手間を考えると、転生した方がやり易いんだよね。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ