第4話 焼き鳥というもの
「クロ、私気がついたんだ」
梨華は唐突にそう言った。
今、私たちはバス停にいる。
バスを使うためにはたくさんの人が行き来するから、イケメンを見つけやすいと梨華が言ったから。
私は最初反対していた。
車が多いところはご飯が少ないからだ。
多くの生き物は車と人間が危ないということを知っている。
でも梨華が「ご飯とってあげるから!」と、あまりも積極的に言ってきたから私が妥協することになった。
「何が?」
「私、イケメンにこだわりすぎていたんだ」
「ふーん……」
私はあくびをした。
最初からイケメンにこだわる必要があるのか疑問に思っていた私からすると、今更かと思っている。
「ちょっと、私は真面目に話しているんだよ!」
「ふーん……」
「クロ?!」
「聞いてる聞いてる」
「そう……。で、よくあるでしょ。最初は好きじゃなくても人柄を知っていくと好きになった、みたいな」
「へ~」
「で、今回はそれを試してみようと思うの!」
「へ~……」
私は体を横にした。
こうするとお腹に陽の光が当たって気持ちいいから。
「まあ、クロにはわからないだろうね!」
梨華はバス停の列に並ぶ人、バスから降りてくる人を一人ひとり見ている。
けれども誰かについて行ったりはしなかった。
私は陽の心地よさに目を瞑った。
そういえば、私と梨華には違うところがある。
食事、睡眠。
梨華はこれらを一切しない。
一方で私はしている。
これは人間と猫の違いではないだろう。
もしかして、幽霊にもいくつかの種類があるのではないか。
私は小さいころから無視をされていた。
梨華は死んで幽霊になるまでは人と話すことができたらしい。
うーむ……。
「……ロ? クロ?」
梨華に顔をのぞき込まれる。
「あ、起きた。ねえクロ、あの人ちょうど良さそうじゃない?」
梨華が指をさした先には二人組の男がいた。
「別にイケメンってわけでもなくて、でも優しそうな顔しているよ?」
「そうか。じゃあそいつについていくのか?」
「うん!」
「……いってらっしゃい」
「クロも行くんだよ」
梨華は当然のようにそう言ってくる。
動きたくないなぁ。
「ほら!」
梨華に抱っこされた。
これまで抱っこされたことのない私にとっては不思議な感覚がした。
本来地面の上に立つために足があるというのに、抱っこされると足は空の方を向いてしまう。
それは違和感だったが、包み込まれる感覚は温かかった。
梨華が歩きだすと揺れも感じて眠くなって来た。
まあ、いいか。
梨華の早歩きで男二人に追いついた。
男たちが何か言っているようだ。
「今日は二人とも休みでよかったね!」
「ああ、久しぶりに会えてうれしいよ。話したいこともいっぱいあるしな」
男二人は楽しそうに話していた。
「ね? 優しそうでしょ? 特に右側の人! 手に持っているあれ、焼き鳥かなぁ。ここら辺で食べ歩きできるところあったんだ……」
「うーん。まあ梨華がそう思うのならいいんじゃないか?」
私は少しずつ生きている人間の言葉も理解できるようになってきた。
「私は生き物が好きだから、水族館とか動物園とかこの後行ってくれないかなぁ。そしたら好きになるんだけれどなぁ」
男二人についていくと、やがて公園についた。
ここは道路よりも静かで安全だ。
ご飯もいる。
「あ! 見て、ハトが集まってる」
「おお、すごい量だな」
大量のご飯だ。
そういえば梨華はご飯を取ってくると言っていたな。
今回は梨華に任せようか。
「見てクロ! あの人達生き物が好きみたいだよ!」
「うん」
「いやー、なんか好きになってきたなぁ……」
梨華がそう言った瞬間、右側の男は思い切り手を叩いて鳴らした。
その音にハトたちは驚いて逃げて行った。
当然、私も驚いて眠気はなくなってしまった。
男たちは変わらない様子で歩いて行ったが、梨華はもう後をついては行かなかった。
「……無理だわ」
心地よさを奪われていらだった私は梨華の腕から飛び降りた。
そこら辺に落ちていた小石を拾って、男の靴にこっそり入れてきた。
男が小石に気を取られている間に、手に持っていた「焼き鳥」と梨華が読んでいたものも奪ってきた。
私は梨華の元に戻り、それを差し出した。
「梨華、二人で食べよう」
「ありがとう、クロ」
梨華は半分だけ私にくれた。
それにかじりつくと甘じょっぱい味がした。
すこし味が濃かった。