第3話 綿あめというもの
今日も梨華と住宅街を歩いている。
ご飯とイケメンを探している。
最近はねずみばかりを食べているので、そろそろ鳥が食べたくなって来た。
梨華はイケオジと出会いたいと言っていた。
私たちは幽霊なので、道を歩いてても行き交う人にぶつかる心配をする必要もない。
私はもともと人がたくさん歩いているところを歩くのが好きではなかったので、塀の上を歩いている。
しばらく歩くと、少し大きめの交差点に出た。
私は塀から降り、梨華のそばへと寄って行った。
横断歩道の前、歩行者用信号機の横で立ち止まる。
そこからは車道を挟み反対側の歩道が見える。
もちろんそこには信号待ちの歩行者がいる。
梨華はその中からイケメンを探そうと考えているようだ。
「さあ、クロ! 今日もイケメンを探すよ!」
「……」
「クロ? いい、今日はイケオジを探すわよ!」
「……はいはい」
梨華は胸の前で腕を組んでいる。
今日はいつも以上に張り切っている気がする。
いや、いつもこうだったかも。
「梨華、いつも気になっていたんだが人間の男ってそんなに違うのか?」
「もう、ぜんっぜん違うよ! 見た目とか声とか匂いとか1つ1つの要素が違ってくるから、やっぱりこうやって直接吟味しているってわけよ!」
「そっか。確かにご飯も肉付きが良いのと悪いのでは満足感も違うからな。そんな感じか」
「……う、うん! そうだよ! たぶん……」
「なるほど。梨華の気持ちがわかったよ」
「ほんと?! うれしい!」
梨華は私の頭を撫でてくれた。
「じゃあ、待とうか!」
私と梨華で横断歩道の前で待っていた。
やがて歩行者用の信号が青色になり、数人の人がこっち側に渡ってきた。
「梨華、どうだ」
「うーん、なんかピンと来ないなぁ」
「獲物を見分けることは大切なことだ」
「おおー! やっぱりクロもわかってきてるね」
猫と人間でも分かり合えるところがあるようだ。
しばらく経つとすぐに信号は赤になった。
うるさい音を立てながら走る車が次々通る。
そういえば、過去に私の警告を聞かないで車の事故にあった猫がいた。
あれは夜だった。
その猫は道路に向かって歩いていた。
私は車が来ているのに気がついて「そっちは危ない。うるさい奴が来ている」って。
何度叫んでも、どれだけ大きく言っても、そいつは私の警告を無視した。
いや、無視というよりも私が幽霊だったことが原因だったのだ。
当時はその出来事が一番ショックだったと思うし、それは今でも同じだ。
幽霊だったからしかたないじゃないんだ。
幽霊の私は一体何ができるのか。
これが見つけられなければ、私は消えてしまいそうな気がする。
「クロ! 見て、あっちにいる人イケメンだよ!」
「……ほう、キスするのか?」
「うーん、もうちょっとちゃんと見たいな」
信号が青になる。
向こうの人が歩いてきた。
「はぁあああ……!」
「どうした、梨華?」
梨華が興奮した様子で声を上げた。
「見て、あれすっごい大きな綿あめ!」
「え?」
梨華が指をさした方を見ると、人間の子供がその顔の2、3倍はあるほど大きな雲を持っていた。
「あの雲のことか?」
「そう、あれは綿あめって言う人間のお菓子なんだよ! あんなに大きなの初めて見た!」
「うまいのか?」
「おいしい、と思う」
「でも梨華、イケメンはどうする」
「うー、そうだね、クロ。イケメン優先!」
そういった梨華はイケメンの方に動き出した瞬間だった。
その男からさらに2本の腕が生えてきた。
腕が4本になったのだ。
私は驚いた。
人間は腕が増えるのか。
しかしそのような人間は今まで見たことはない。
よく見ると、その男の後ろにもう1人の人間がくっついていたのだ。
女がくっついていた。
女が男を後ろから抱き着く瞬間を見たのだった。
その男には女がいたのだ。
男と女は幸せそうに梨華と私の横をすれ違い歩いていた。
「う、うう……女がいたなんて」
梨華は泣きながら綿あめを頬張っていた。
しかし綿あめは減らない。
やがてその綿あめも持った女の子も行ってしまった。