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無口で幽霊的な猫  作者: 柿丸
はじまり
2/4

第2話 お団子というもの

 それから、一体どれほどの時間が経ったのだろうか。

 私はつねに梨華と一緒に行動するようになった。


 梨華はすれ違う生きた人間の男のことをすぐに好きになる。

 最終的にはキスができたら成仏するらしい。


 人間の社会では、キス1つするだけでもそこまで大変なのか。


 確かにそのような社会なら、人間の幽霊が一番多いということも納得できなくもない。


 今日も梨華と街を歩いている。


「クロ、今日もイケメンを探そうね!」


「私はご飯を探す」


「んー、じゃあイケメンとご飯を探そう!」


「イケメン食べていいの?」


「ダメに決まっているでしょう!」


 今日は橋の上で立ち止まり、探すことになった。

 その橋はたくさんの人間が通る橋。


 もちろん男もたくさん通る。

 ちなみに、梨華から聞いた話だと人間の男と女の見分け方は服と髪らしい。


 男は大体こんな髪とか、女はこんな服とか聞いたけれど、さっぱり違いがわからない。

 まだ匂いの方が判別できる。


 くんくん、この匂いは。

 男が来た。


「梨華、男だぞ」


「ふむ、あやつか……なし」


「え??」


「タイプじゃない」


「え?」


「うん」


「あっそ」


「というか、女連れ。ほら」


 匂いを嗅ぐと、確かに女の匂いもする。

 よく見てみれば、人間は2人で歩いて来ていた。


「梨華、奪え」


「えー、怒られるよ」


「でも幽霊は見られないんだろ」


「まあ、そうだけど……」


 結局、その人間は私と梨華の前を通って反対側まで行ってしまった。


「もったいないな。これだからずっと成仏できないでいるんだ」


「大丈夫、男なんてそこらじゅうにいるから」


「……それもそうか」


 もしかして、人間が活発に動いているのはこのような出会いを求めているからなのだろうか。


 そこらじゅうにいる人間の中から相手を選ぶことが、人間にとって生きることなのかもしれない。

 でも、こんなに活発でたくさんいるのに人間の幽霊が一番多いとはやっぱり変な話だ。


 人間というものはよくわからない。


「あ、クロ! 川に魚いるよ!?」


「ふーん」


「魚だよ? とってきたら?」


「嫌だよ」


「猫なんでしょ、魚好きじゃないの?」


「食べたことない。それに水はやだ」


「えー。……でも確かに猫って水は嫌いか」


「肉がいい」


「肉?」


「うん」


「牛肉とか?」


「ギュウニク? 鳥とかネズミとか食べたい」


「あー! ねずみね! はいはい! それ、猫っぽい!」


「そう?」


 梨華は生まれて初めての話し相手。

 話していると、変な感覚がするけど嫌ではないな。


「じゃあ、ねずみ探してくる」


「えー、イケメン探そうよ」


「……ご飯食べたら探すから」


 私は橋を下りて、ご飯を探すことにした。


 はじめてくる場所でも草の動きや音を注意深く聞けば、ご飯の場所がわかる。

 これは、母親にご飯をもらえなかった私だからこそ得意になったのかもしれない。


 比べて梨華はご飯をとるのが下手。

 これまで一回もご飯を食べている所を見たことがない。


 いや、ご飯を食べる幽霊が珍しいんだった。

 梨華がそう言っていた。


 普通の幽霊もご飯を食べれるけれど、生きていたころに食べていたものしか味わえないと言っていた。

 だから、生きた人間は死んだ人へのお供え物として好物を与えると梨華は言っていた。


 でも、ずっと食べないのはかわいそうだ。

 今日は梨華にもご飯を持って行ってやろうか。


 私はご飯を2つ捕まえた。

 逃げないから簡単に捕まえられる。


 でも捕まえるときは他の猫もするようにちゃんと狙って一気に仕留める。

 これは本能というものだと梨華は言っていた。


 今日とったご飯のうち1つはすぐに食べ、もう1つは梨華のもとへ持っていくことにした。

 私はご飯を加え、橋へと登って行く。


「見て、あの猫。ねずみ加えてるよ!」


「ほんとだ! ねずみは嫌だけど猫はかわいい。野良猫かな? 追いかけてみようよ」


 2人の人間の女が何か言っていたがわからなかった。



「ただいま、梨華」


「おかえりクロ……。え?! 何くわえてんの?」


「ご飯。梨華はご飯とるの下手でしょ。これあげるよ」


「えー! 食べないよねずみは!」


「せっかくとってきたのに」


「クロがとってきたんだからクロが食べな」


「うん」


 梨華は喜んでくれなかった。


 私はすぐにご飯を食べ終わった。

 こんなにおいしいのに。


 くんくん。人間の匂いだ。


「梨華、また人間が来るぞ。女か?」


「ほんとだ。最近の女の子はかわいい子も多いなぁ」


 梨華はやって来る人間2人を見ている。


「あれ? さっきまでこっちに向かって行ったよね? 猫」


「うん。いたいた。ねずみくわえていたんだけど、もう向こう側まで行ったのかな?」


「さすが猫だね。足早くてすぐ見失っちゃった」


「戻ろうか」


「そうだね」


 生きている人間は何を言っているのかすべて聞き取れたわけではない。

 しかし、梨華としばらく一緒にいたせいか少し生きている人間の言葉もわかるようになった。


 あの人間たちは「ねずみ」と言っていた。


 やっぱり人間はねずみを食べるやつもいるのでは。


「梨華。食べ物は何が好き?」


「私? 私は……」


「ハンバーガー」


「ハンバーガー?」


「あ、やっぱりパンケーキ。パンケーキとパフェが好き。それが主食」


「よくわからない」


「今度見せてあげるよ!」


 梨華は自分の髪を撫でながらそう言っていた。


「あ! お団子だ!」


 すると梨華は橋を歩いてきた人間の方へ駆け寄った。

 その人間は片手に3つの丸が連なった何かを持っている。


「もーらい」


 梨華はそれを食べていた。

 あれがお団子というものなのだろうか。


 梨華が食べてもお団子は減らない。

 これは私と梨華の違いだ。


「おいひぃ。懐かしいなぁ」


 梨華は幸せそうな顔をしている。

 梨華はお団子が好きなのか。


 今度はそれを持ってきてあげようか……。


 くんくん。人間だ。


「梨華、次に来る人間は男だぞ」


「え?! イケメンかなぁ……。どれどれ」


 来た人間は1人だった。


「お! あれは、可愛い系イケメンではないですか……!」


 梨華はその人間のそばまで寄って行く。


「梨華、そいつは1人だ。女はいない。キスしろ」


「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待ってね。どれどれ」


 梨華はその男のことをずっと見ている。


「うーん。良い。良いイケメンだ。匂いもいい」


「じゃあ、キスしな」


「う、うん。するよ……」


 梨華は男の進路の少し前に立ち、男に向かって立っている。


 男は梨華が見えないがまっすぐ梨華に向かって歩いている。


 梨華は目を閉じ、口を少し開けた。

 もう男と梨華はだいぶ近い距離だ。


 あと3歩、2歩、1歩。


 男は、梨華の体をすり抜けて行ってしまった。


「は! キス……したみたい……」


「これで梨華は成仏するのか?」


「何言ってんの、クロ。まだだよ」


「え?」


「キスしてないもん」


「え? じゃあ今は何をしていた?」


 梨華はもじもじしながら話す。


「キスって物理的接触でしょ? 幽霊が実体に触れるには、体全体を実体化しないといけないの」


「うん」


「でも、体全体を実体化すると、相手に見られちゃうでしょ?」


「うん」


「見られるのは恥ずかしいし……今のは実体化してないから練習!」


「え?」


「はい! じゃあ次のイケメン探しますかー!」


 梨華は、ずっと幽霊のままな気がする。

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