彼女と婚約することにした!?
セーラが帰った後は、まるで「待ってました!」とばかりに次から次へとお客さんがやってきた。
いつものエアポケット的な時間にもお客様が来て、気が付けば閉店時間だった。
「ナタリーお嬢さん、なんでこれだけ混雑したか、分かるか?」
デグランが、まかないのベーコンステーキを焼きながら、私に声をかけた。
私はお皿を用意しながら、「金曜日だからですかね?」と答える。
「違う、違う。紅茶味のパウンドケーキとクッキーの発売、今日からだろう? みんなパンケーキを食べ、パウンドケーキとクッキーを買って帰った。もうソールドアウトだ」
そう言われてみれば、そうだった。
紅茶味を販売すると、店内にポスターを飾って告知するなど、したわけではない。
ただ店に足を運んでくれたお客さんに、紅茶味を今日から販売すると、世間話のノリで、話しただけだった。
「それでもさ、みんなナタリーお嬢さんのファンだから。ちょっと聞いた情報を、ちゃんと覚えていて、買いに来てくれたんだよ」
「よかったですね。ナタリーお嬢さん。固定ファンが増えるって大きいですよ」
ロゼワインを開けるバートンにまで、そう言われると……。
そうか。固定ファン。
嬉しいな。大切にしなきゃ。
でもそのファンはきっと……。
「固定ファンがついてくれたのは、私の力だけではないと思います。デグラン様やバートン様、そしてロゼッタがサポートしてくれたおかげです。それに常連のお客様も、口コミで広めてくれたから……。私は……人に恵まれたと思います。これまで、ありがとうございます! そしてこれからも、よろしくお願いします!」
「なんだ、なんだ、改まって。俺達は、仲間なんだからさ」
「そうですよ。これからも当然、応援しますよ」
そこで店内は、ベーコンの焼けたいい香りで満たされる。
「よし。焼き立て、出来立て、アツアツだ。これはな、もうマスタードと一緒に、とにかく黙って味わえ!だ」
これだけで、他はいらないというサイズのゴロゴロと大きいベーコンが、お皿に盛りつけられる。その傍には、たっぷりの粒々マスタード!
「「「いただきまーす!」」」
ロゼワインを片手に、デグラン自家製ベーコンにかぶりついた。
◇
その日、帰宅した私はまず、アレン様に手紙を書いた。
月曜日、もし時間があったら、精進料理『心』に、みんなで行かないかと。
そして今日の阿闍梨の来店についても書いた。
ウッドハウス侯爵令嬢の件は……割愛する。
ヒロインであるセーラが撃退してくれたし、そこまでヒドイことは言われていな……ううん、言われた。でも思い出したくない。
ということでアレン様の手紙は、完了。
次はドロシーだ。
ドロシーは、これでまとまったお金が手に入る。さらに定期的に阿闍梨は、ドロシーの陶磁器を購入するはずだ。どうしても使っていると、うっかりで落としたり、割ってしまうことは起きるからだ。
というか阿闍梨のお店でも、気に入ったお客様に、食器の販売をしてくれないかしら? 販売は無理でも、ドロシーを紹介するとか……あ、ドロシーの名刺を作ってお店に置いてもらうだけでもいいんじゃない? ショップカードみたいな感じで。よし。阿闍梨に提案し、バートンに相談してみよう。
こうして手紙を書き終え、入浴すると、後はもう、爆睡だった。
爆睡したのに。
体がその時間に起きると、覚えてしまったからか。
やはり早起きできてしまった。
ということでいつも通りに準備し、離れを出る。
今日はラベンダー色のワンピースだ。
お店に着くと、昨日と同じで掃除を始め、そこでふと思い出す。
すっかり忘れていた。
阿闍梨やウッドハウス侯爵令嬢、セーラの来店に加え、お店が混んでいたから……。
あの謎の貴婦人!
デグランとは、どんな関係なのかと思っていたことを、思い出した。
思い出し、窓の外を見て、「え」と固まる。
あの馬車は、昨日も見たのでは?と。
しかも昨日と同じ位置に止まり、そして――。
デジャヴを覚える。
まるで昨日の再現のように。
馬車からいつもの装いのデグランが降りてきた。手にはずた袋。
もしずた袋の中身が食材なら、何か話があると思う。が、昨日のまかないの時にも、特に話題に出ていない。あのずた袋には、何が入っているの……?
「!」
デグランが馬車を降りると、窓にあの貴婦人が顔をのぞかせる。
今日はサーモンピンクのドレスを着ていた。
昨日と同じでデグランが恭しくお辞儀をして――。
私は慌てて座り込む。
二日連続で会っている貴婦人。
二日連続……ううん、違うかもしれない。
これまで気が付かなかっただけで、ずっとあの貴婦人とデグランが会っていた可能性は……ゼロではない。私が早めに出勤するようになり、気づくことになった。もしいつもの時間に出勤していれば、デグランは部屋に戻り、そして何食わぬ顔で、二階から降りて来て、店に顔を出したはずだ。
ロゼッタは、デグランに好きな人がいると、繰り返し言っていた。
もしかしてそれがあの貴婦人なのでは……?
貴婦人は間違いなく、貴族だ。
これまでは、身分の壁もあった。
でもデグランは、既に貴族の仲間入りを果たしている。
その障害はなくなったはず。
もしや近いうちに「みんな聞いてくれ。彼女と婚約することにした」なんて発表があるのではないか。
心臓のバクバクが止まらなかった。















