みんな、まかないは?
「え、ナタリーお嬢さんもロゼッタも、まかないは?」
「ルグス様がね、勤務帰りに画材屋に来てくれるっていうの。絵なんか描いたことないけど、知り合いに画材屋がいるなら、挑戦してみようかと思ったんだって! だから今日はもう帰るわー。でもお兄ちゃんがあたしと入れ替えで来るって!」
「なるほど……。ナタリーお嬢さんは?」
「あ、私はアラン様に昨日の御礼の手紙を書きたいので、今日は真っ直ぐ帰ります」
デグランとロゼッタに、昨晩見たジョアキーノの新作のことや精進料理のことをまかないを食べながら話したい……とも思っていた。でも思いがけず歯軋りマダムとお友達マダムから縁談話を提案され、それを誤魔化すため、ジョアキーノの新作を話題に出すことになった。
今、社交界でも話題持ちきりのジョアキーノの新作だったので、みんな夢中になって聞いてくれた。雨もポツポツと降り出し、お客さんも来ないことから、大幅延長で、イエール氏とセーラも滞在。その中で精進料理についても話題に出すことになり、歯軋りマダムとそのお友達マダムは「後日、そのお店に行くわ」となり、イエール氏とセーラは「イエール先生、新しい食文化について学びたいです!」「そうか。では今から行くか?」「はいっ!」と早速向かうことになった。
イエール氏とセーラの、フットワークの軽さに驚く。
というかイエール氏が人嫌いだったことが、幻に思えてしまう。
一方のロゼッタは「えー、今度ルグス様にそのお店に連れて行ってもらう~」と言い、デグランは「盲点だった。そんなところに東方の店があるなんて! さすがだ、副団長……」と唸っている。しかも醤油について話すと、俄然興味を持ってくれた。
「ナタリーお嬢さん、次の店休の時に、そのお店に連れて行ってくれ」
ということで私としては、まかないタイムで話したいことは、既に話せていた。今はむしろ早くアレン様に、御礼の手紙を書いた方がいいだろうと思っていたのだ。何しろロイヤルボックス席の、しかもジョアキーノの新作のチケット代。ミード、精進料理、すべてアレン様に出していただいていたのだから……。
「そうか……。せっかく今日は自家製ベーコンを用意したのに……」
「えー、それ、明日にとっておいて!」
「私も明日、食べたいです!」
「さあ、明日まで残るかどうか。俺は今、腹ペコだしな。それにバートンも腹を空かしてくれるからな!」
「デグラン、意地悪~っ!」
「デグラン様、お願いします!」
そんなことを言いながらカフェのクローズをして、パブリック・ハウスのオープン準備を終えると、ロゼッタと共に店を後にした。その際の、デグランの寂しそうな表情は……。
また明日、会えるのに。
でも、そうか。
昨日もデグランはお留守番……というか、パブリック・ハウスの営業があったから……。独りぼっちでオープンだった。
しばらくずっと、みんな一緒が当たり前だったから、寂しかったのかな。
なんだか可哀そうなことをしている気がして、胸がキュッと切なくなる。
ステーショナリー・ショップでレターセットを買い、まかないをいただきながら、手紙を書けばよかったかしら? でもスツールはない。立って手紙を書く……? しかもパブリック・ハウスで?
変だわ。後から来るお客さんだって、何をしているのかと思うし、「家で書けば?」だろう。
「あれ! ナタリーお嬢様!」
「どうしたの、ロゼッタ」
「副団長様もいますよ、ルグス様と一緒に」
「!」
顔を上げ、画材屋の前にいるアレン様とルグスの姿を発見し、一気にテンションが上がる。
カフェが閉店する前には、空から雲が消え、夜になってから晴れていた。
そう。既に日が沈み、街灯がともっている。
その街灯の下に、画材屋からの明かりを受け、佇むアレン様とルグスは……。
ザ・騎士という感じで、様になる。何しろ二人とも隊服にマントという姿なのだから!
これこそ画家に、描いて欲しいモチーフだ。
「ルグス様~!」
ロゼッタは貴族ではない。よって「おしとやかに」に基づく礼儀作法教育なんて、当然受けていなかった。ゆえに自身の喜びの感情そのままに、ルグスの方へと駆けて行く。
その姿は、なんだか眩しく感じる。
好きな人がそこにいるのだ。
嬉しくて駆け出すのが、当然ではないだろうか。
そう思うと貴族は……なんてしがらみが多いのかしら!
私だって推しが目の前にいるのだから、駆け寄りたい!
ううん、落ち着いて、私。
「ナタリー嬢!」
「!?」
驚いた。アレン様がこちらへ駆けてきてくれた。
天下の騎士団の副団長を、有事でもないのに走らせてしまうなんて!
「昨晩は本当に、ありがとうございました。ナタリー嬢のおかげで、とても心が満たされたんです。熟睡でき、今日の任務は、実にスムーズにはかどりました」
「そうだったのですね。それは良かったです。あ、あの、すぐに御礼の手紙を書けず、申し訳ありません!」
「気になさらないでください。御礼を言いたいのは、わたしの方ですから。それにカフェの営業もあり、その準備もあり、悠長に手紙など書いている場合ではなかったでしょう。それに今。お会いできたのですから」
アレン様はなんてできた人なのだろう! さすがです、我が推しよ!
ところでなぜここにアレン様が?
並んで歩き出し、尋ねる。
「ルグス様の付き添いですか?」
「そうですね。まあ、それは……そうだということで」
「?」
アレン様は、碧みがかった銀髪を揺らし、秀麗に微笑む。
「ロゼッタ嬢と、いつも帰り道は一緒とお聞きしていたので」
「?」
「ここにいれば、ナタリー嬢とも会えるかと」
「そ、そうですか……?」
アレン様の意図がよく分からないものの、画材屋の前に着くと、流れでそのまま店内に入ることになった。














