真面目な近衛騎士の悩み
「自分は現在、二十三歳で、二十歳の時に結婚しています。娘も一人いる身です。ですが……宮殿に出入りしているパン屋の看板娘に……気持ちが傾いてしまい……。自分は騎士です。騎士道精神にも反します。よってこの気持ちは秘めて終わらせないといけないと、よく分かっているんです。ですが、止められない……のです。どうしたらいいでしょう?」
開店一番、まさかの浮気の悩みなんて!
しかも浮気されている――という悩みではなく、浮気しそうなんですけど、どうしたらいいですかという男性からの悩み。
そんなお悩み、答えられるわけが――なくはないのです!
結婚相談所では、真剣交際に至る前の、会員が迷っている期間=熟考期間というものが、場合によっては存在してしまう。
理由はいくつかあるが、例えばお見合い形式(一対一)で会員を紹介するパターンと、イベントで大勢と知り合うパターン、この二つが存在している場合。イベントで出会ったお相手、お見合い形式で対面で会った相手と、真剣交際前(正式交際前)に、同時進行で連絡を取り合う事態が起きるのだ。
さらに限られた時間での婚活となると、複数人とマッチングした上で、日程調整し、対面で会うことも生じる。土日の休みしか婚活できないのに、一人とお見合いし、どうするか考えて……とやっていると、あっという間に時間が過ぎてしまう。費用は月額だったり、年単位で発生する。費用を気にせず、のんびり行きたいというのなら、同時進行を避けることもできた。だがそれを希望する会員は……いなかった。
冷静に考えても、結婚相談所で活動しているからと言って、出会いが完全ゼロにはなりえない。居酒屋で隣の席になった人が、今の旦那さんです、という人もいるわけで……。それはともかくとして。
結婚相談所でどうしても避けられないのが、真剣交際前の熟考期間での同時進行だった。
無論、熟考期間での肉体交渉は厳禁で、外泊や旅行も禁止。真剣に、どのお相手と真剣交際するか、見極めることが目的の期間だからだ。そして交際をお互いが希望し、真剣交際がスタートしたら、同時進行は許されない。
この同時進行で悩む会員さんは、結構いたのだ。その悩みは、浮気と似ている部分がある。例えば一人に絞り切れない、であるとか、ある女性と真剣交際がスタートしたが、同時進行でお断りしたあの女性がやはり気になる……などなど。その辺りのアンサーは、浮気の悩み解決につながるだろう。
だが本題に入る前に、近衛騎士の彼に確認することになる。
アッサムティーを出しながら。
「ちなみに奥様は現在、妊娠されていますか?」
真面目な夫が浮気するきっかけに、奥さんの妊娠は多い。理由はとても分かりやすい。妊娠期間中、夫婦の営みがなくなり、欲求不満になる。もしくは断られたことに不満を抱き、浮気に走ることもある。さらに妊娠中に妻が夫を構うことがなくなり、そこに寂しさを感じ、それを埋めるべく浮気をする場合もあった。
さらに妻からすると盲点になるかもしれないのが、つわりや体調の変化で、メンタルが不安定になった時。夫はいつもと様子が違う妻から逃げるように、浮気へ向かってしまうこともあった。
「! なんで分かるのですか。はい。実は妻は妊娠しています。今、八か月で、間もなく出産で……」
ここにハリセンがあれば、バシッと背中を叩きたくなるぐらいだが……。
妻が身重なのに、浮気を考えるなんて、最低です!というのは、私の個人的な意見。ここは冷静に対処だ。
「……なるほど。では間もなく出産で、奥様は落ち着くのではないですか? 乳母はいらっしゃいますか?」
「います。上の子の乳母に、継続してこれから生まれる子も、見てもらうつもりです。それに自分の両親も孫に弱いですから。喜んでサポートすると思います」
「では奥様も出産後、あなたを構う時間を、もてるようになりますよね? 体調が落ち着けば、あなたとまた夜を過ごすこともできるようになります。もし奥様の感情の起伏が激しく、戸惑いを感じていたとしても、それも解消されていくのでは? 一人目のお子さんの出産の時を、思い出してみてください。一度は乗り越えられたのですから。今回もできませんか? 二人目の子供ができるということは、奥様を愛していらっしゃるのでしょう?」
そこでパンケーキが登場したので、食べながら考えてもらう。
近衛騎士をするくらいだから、真面目なのだ。
大変真剣な表情で、パンケーキを食べている。
これではパンケーキが美味しくないのかと疑ってしまうが……。
「このパンケーキ、とても美味しいです……」
近衛騎士の彼は、涙ぐんでいる。
「妻は男爵家の令嬢ですが、決して裕福というわけではなく。自身が厨房に立つこともあったそうです。長女だったので、弟や妹のために、よく焼き菓子を焼いていて……。結婚後、自分のために焼き菓子を作り、職場にもたせてくれました。でも妊娠が判明してからは……。匂いが耐えられないと、焼き菓子も作らなくなって……。宮殿にパンを届けてくれる看板娘は、いつもおまけしてくれるんです。自分が気に入っているパンを『サービスですよ』と無料でつけてくれて……」
なるほど。完全に餌付けされてしまった気がする。
浮気に走りそうになっている原因も明白だ。
「寂しかった。まさにその通りですね。自分は……子供なんでしょうね。二十三歳になってもまだ」
「もし奥さんが今、会話できる状態なら、『いろいろ落ち着いてからでいい。また時間ができたら、焼き菓子を作って欲しい。君の焼き菓子を食べると、一日頑張れる。二人の子育て、これから大変だと思う。自分もできるだけサポートするから』とぐらいであれば、話してみていいのではないでしょうか」
「そうですね。自分の寂しさばかりに目がいってしまい、妻が大変な時期であることを……失念していました。一人目を乗り切ったのだから、今回も妻は大丈夫だろうと、甘えていた部分もあると思います。ダメですね。これでは夫失格。もうメイドからパンを受け取らず、距離を置くようにします」
ナプキンで口元を拭う近衛騎士の彼の瞳は、真剣そのもの。
これなら問題ないだろう。
その一方で妻の妊娠に関係なく、浮気する結婚相手、恋人にどう対処したらいいのかというと――。














