なぜかデグランが
「ですよね。私も最近知って、今、夢中になっている柄なんです。東方から戻った交易船が、タンモノと呼ばれる生地を、積んでいたそうなんですよ。上質なシルク生地で、この模様が織り込まれていて。これ、鳥ですよね。可愛らしい。そしてこれは、矢のヴェインみたいな模様ですよね。こっちは独特の幾何学模様で」
そうか。昨晩のアレン様もそうだけど、少しずつ、この世界に大陸外の文化も入ってきているのね。いまだ、武器は剣・槍・弓が主流で、爆弾はあるものの、銃はまだない。その爆弾も採掘での利用がメイン。でも確実に新しい文化は、大陸に広がっていくのだろう。
そうなると和柄に目をつけたドロシーは、先見の明があるわね。前世の歴史を考えると、東方の文化は貴族が珍しがり、流行るはずだ。
「そうね。とてもユニークで、素敵だと思うわ。それに珍しい物が好きな貴族が、喜んで飛びつきそう。ぜひ、お店で使ってみましょう」
私の言葉にドロシーの瞳が輝く。
「本当ですか! 良かった! ではこの三つは今日、置いていきますね!」
「ええ、そうしてください」
「良かったねー、ドロシー!」
ドロシーはロゼッタと同じ、十九歳。
二人は顔を合わせた時から、意気投合している。
「そうだ、ドロシー! 今度さ、宮殿にお兄ちゃんと一緒に行かない?」
「!? き、宮殿!? そんなところ、私、む、無理ですよ」
「大丈夫、大丈夫。私だって初めてだし。でもね、招待されたの。宮殿で開催されるパーティーに。しかも、ドレスもプレゼントしてくれるって。お兄ちゃんの同伴者になれば、ドレスも無料で手に入るんだよ。パーティーでは美味しい料理も食べられるし、貴族とも知り合える。宮殿で使われている高価なお皿とかも見られるから、勉強になるんじゃない?」
どうやらロゼッタは、バートンの同伴者にドロシーをスカウトするようだ。
バートンに相談せず、勝手に決めて大丈夫?と思うものの。
なんだかんだでバートンは、ロゼッタに甘い。きっと許してしまうのだろう。
「わ、分かりました。検討します。それでそのパーティーは、いつなんですか?」
「えーとね、それは……」
カラン、コロンのベルの音に「!?」と顔を入口に向ける。
今日は開店前に尋ねてくる人が多いと思ったら……。
「デグラン……?」
なぜかデグランが二階からではなく、店の入口から入って来た。
「おはようー。あ、ドロシー来ていたんだ。元気にしてたか?」
デグランが気さくに声をかけ、ドロシーも「おはようございます、デグラン様!」と応じている。
料理人にとって、自身の作った料理を盛り付ける陶磁器は、とても重要。デグランもまた、ドロシーの作品を気に入っており、よく「こんな皿が欲しい。作れるか?」と、個人的にリクエストしていた。
ということで、ドロシーとデグランがフレンドリーに話しているのはさておき。
なんで店の出入口から、デグランは登場したの?
服装はいつもの装いだが、よく見ると、なんだか荷物を持っている。いわゆるずだ袋だ。
何が入っているのかしら? 何か食材でも買いに行ったの……?
以前、デグランが初めて店休をとった時。
休みを使い、何をしているのかなんて、気にならなかったのに。
今は……とても気になってしまう。
本人に聞けばいいのだろうが、詮索しているとは思われたくない。
疑問は残るが、まずは開店準備だ。
この後、ドロシーも手伝ってくれて、開店準備はスムーズに終わる。
さらにデグランがガレットを焼いてくれて、開店前の腹ごしらえも完了。
ドロシーも満腹となり、笑顔で帰って行く。
「キャンディタフト」に自身の作品を卸すようになり、ドロシーはアルバイトでやっていた皿洗いの仕事からは、解放された。それでもまだまだ陶芸家の卵という立ち位置で、生活はカツカツ。こうやってお店に顔を出してくれた時は、まかないを出すようにしているし、お土産でパウンドケーキやクッキーももたせている。
芸術家の卵というのは、本当に大変だと思う。
微力ながらでも支援できればというのが、私の想いだった。
ということでドロシーが帰るのと同時で、お店をオープンする。
午前中は晴れていたのに、今、空を見上げると曇り空。
ドレスが汚れるのを嫌うので、今日は女性のお客さんは少ないだろうと思っていたら……。
早速、お客さんがやってきた。
男性客お一人様からのスタートだ。
しかもこの方は……。
一人で来店。そしてこの体躯の良さ。髪色はブラウンにヘーゼル色の瞳。そこは安牌のモブ同盟だが、間違いなく、騎士だ。でもこの地味な苔色のマント、赤にゴールドの宝飾たっぷりの隊服――って、近衛騎士!!!
私は素早く窓から店舗の外を確認する。
「ナタリーお嬢さん、どうしたんだ……?」
お客様を案内せず、窓に向かった私に仰天しながら、デグランが声をかける。
ロゼッタは私の代わりに、接客してくれていた。
私はまず、通りや近隣のどこかに、ゴージャスな馬車が止まっていないかを確認。さらに苔色のマントの男性が、他にもいないか確認し――。
改めてスツールに座る近衛騎士に近づき、尋ねる。
「お客様、いらっしゃいませ。……そのお姿から察するに、近衛騎士の方ですよね。今日は……何用で?」
「あ、失礼しました。本日は完全なるオフでの来店です。厳密にはこの後、夜間勤務で、その前に立ち寄りました」
なんだ、そうだったのね……。
そこでようやく緊張し、強張った全身から力が抜ける。
またもやお忍びで、王族の誰かが来店したのかと思った。
デグランもロゼッタも「近衛騎士」というワードで、私のさっきの行動を理解したようで、「なるほど」という顔をしていた。
「わざわざ勤務前の来店、ありがとうございます。……恋愛相談、ですか?」
私が問いかけると、近衛騎士は照れたように頷く。
「もしや王妃殿下がいらした時、いらっしゃいました?」
「はい。その通りです。裏口の見張りについていました。その間、なんとも甘い香りをかいでしまい……。看板メニューの『マシュマロサンドパンケーキ黄金パウダーの蜂蜜かけ』を食べたくなったのと、恋愛相談で、来店した次第です」
「了解しました。ではオーダーは、看板メニューと、紅茶はアッサムティーでいいですよね?」
近衛騎士はコクコクと頷き、ロゼッタが出していたグラスの水を口に運ぶ。
私はカウンター内に戻り、恋愛相談とティーフリーについて説明し、そして声をかける。
「では、あなたの悩み、お聞かせください」














