変なフラグ、立ちませんよね!?
もし店主に会えるなら、挨拶をしたい。そう伝えると、「では食後に頼んでみましょう」と、アレン様が応じてくれた。この世界では、料理を美味しいと感じたら、食後にシェフを呼び、感動を伝える。これが一般的だった。
「ナタリー嬢、これはテンプラと呼ぶそうです。衣をつけ、オリーブオイルで揚げたもの。こちらの塩を少しふりかけ、召し上がってみてください」
「はい! では遠慮なく」
サクッとした衣に、柔らかいナスの歯応え。塩味が、衣とナスと、口の中で混じり合う。オリーブオイルで揚げられた天ぷらは、初めて食べた。うん、美味しい!
「そちらのテンプラは、サツマイモです。とても土の中で栽培されたものとは思えないぐらい、甘くておいしいですよ」
知っています、知っていますよ、アレン様!
私、サツマイモの天ぷらは、大好物でしたから!
「甘みを感じるのでしたら、塩はなしで頂いてみます!」
「! なるほど。その食べ方でも、美味しいと思います」
早速いただくと、想像通り!
オリーブオイルが染み込んだ衣と、サツマイモの自然な甘みが、とてもよく合っている。しかもホクホクと湯気が出る美味しさ!
続いてのがんもどき、一緒にいただく麦ごはん。キノコ汁で、麦ごはんがさらに進む。
「そちらはムギメシというそうですが、このスープ、ミソシルと合いますよね?」
「合います。これはお代わりしたくなる組み合わせだと思います。それに麦飯は、噛みしめる度に旨味を感じ、そこにこれを食べると……。いけますね!」
「ええ、それはツケモノです」
結局、全部、残すことなくペロリと平らげてしまう。オレンジのゼリー……寒天ゼリーも、どこかに海藻の風味を感じるが、ちゃんと食べることができた。
「満喫できました。大満足です!」
「それは良かったです。ムギメシを食べるのに、しっかり噛むでしょう。おかげでお腹がいっぱいになるんですよ」
アレン様の言いたいことはよく分かる。ゆっくりよく噛んで食べることで、満腹感につながるのよね。
ああ、感動。
転生して和食を楽しめるなんて。
「では店主であり、シェフの僧侶に話を聞けるか、聞いてみましょう」
そこでアレン様が店員さんに声をかけると、彼はすぐに厨房へ向かってくれた。
だがすぐに戻ってきて、頭を下げる。
「大変申し訳ないのですが、このお店、料理人は阿闍梨一人で回しているのです。お待ちになっているお客様もいるので、何か伝言があれば、自分が賜ります」
30代ぐらいの男性の店員さんは、汗をかきながら、必死に弁明している。アレン様がどう見ても貴族と分かるので、困っている様子が伝わって来た。
「なんと。こちら、お一人で料理されているのですか! それは大変です。ご無理を言ってしまい、申し訳なかったです」
アレン様がそう言ったところで、私はすかさずクラッチバッグから、ショップカードを取り出す。
「実は私、カフェをやっています。こちらのお店なのですが……。きな粉と黒蜜を使っているので、よろしければ、お店へ来てみてくださいと、お伝えいただけますか?」
「! なるほど。そういうことですか。勿論です。お伝えします。キナコとクロミツ……」
店員さんにショップカードを渡し、そしてお会計となった。
◇
帰りの馬車の中では、アレン様がこれまで食べて美味しかったものについて、いろいろと話してくれた。その話を聞くにつけ、よく分かったことがある。アレン様は食べることを、とても大切にしているのだと。
デグランは料理人として、食べる人を喜ばせ、感動させる道を極めていると思う。
対してアレン様は、食べる側の人間として、食の探求をしていると思った。
共に食に関し、強い関心を持っている。
もしかするとお店に来ると、アレン様がデグランと何かしら話しているのは、食に関することなのかもしれない。
それにしてもアレン様は、食べたものが自身の血肉になると、理解しているのだろうと思えた。
とても頭のいい人だと思ったが、やはり私の推しなだけある!と嬉しくなる。
「ナタリー嬢」
「はい」
「今日は、観劇にお付き合いいただき、さらにショウジンリョウリにも同行いただき、本当にありがとうございます。思い切ってお誘いし、良かったです」
改めて御礼の言葉を伝えられたが、それは私のセリフ。観劇に誘われたこと、精進料理を食べられるお店に連れて行ってもらえたこと。そのことへの御礼の気持ちを伝えると……。
「ナタリー嬢は……初めてお会いした時から、その考え方、生き様が、実にユニークだと思いました。さらに他者の悩みに、前向きなアドバイスをすることができますよね。しかもそのアドバイスに対し、対価を得ることをしていません」
アレン様が実に真摯な表情で、そんなこと話し出した。
「政治の場では、顧問と称し、ちょっと意見を言うぐらいで、多額の金を要求する者も多い。有効な提言なら、お金を払う価値はあるでしょう。でも毒にも薬にもならないことの方が多い。そう考えると、飲食代のみで、その人の未来が明るくなるようなアドバイスをできるナタリー嬢は、本当に素敵だと思います」
全力で褒められ、これにはあっという間に全身の血流がよくなる。今が冬であることを、忘れそうだった。
「それに、ナタリー嬢が手作りしたマシュマロサンドパンケーキ黄金パウダーの蜂蜜かけ。あれは本当に、心が温まる味わいでした。そして今日は、平民向けのレストランであったにも関わらず、心から食事を楽しんでくださいましたよね」
こんなに突然、褒められるなんて! 耐性がないので、嬉しいやら恥ずかしいやら! 心臓が大騒ぎしている!
「わたしはナタリー嬢と過ごす時間が愛しくてなりません。……これからもまた、共に過ごす時間を与えてくださりますか?」
推しの惜しみない言葉に、涙が出そうになる。私なんかでよければ、いくらでもお供すると伝えると……。
「『私などでよければ』なんて、言わないでください。ナタリー嬢がいいのです、わたしは」
大丈夫かしら、推しが迷走している気もします!
もしくは変なフラグ、立ちませんよね!?
とにかく精進料理を受容できる貴族令嬢なんて、この世界では私ぐらいだろう。アレン様からすると、良き飯友ができた――だと思う!
ならば。
「アレン様。書物で見た情報ですが、東方では、お寿司という食べ物があるんですよ。それは――」
彼が興味を持つであろう東方――日本の未知の食べ物について、話して聞かせることにした。














