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転生したらモブだった!異世界で恋愛相談カフェを始めました  作者: 一番星キラリ@受賞作発売中:商業ノベル&漫画化進行中
【第二章】

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我が生涯に一片の悔い無し

「ナタリー嬢、不快な気分になっていませんか?」


 去り行くウッドハウス侯爵令嬢の背を見送りながら、アレン様がそんなことを尋ねるので、驚いてしまう。


「不快……というか驚きました」


「優しい方ですね。わたしは正直、不快です」


 アレン様は、基本的に穏やかで優しい。不快です、なんてハッキリ表明するのは、珍しいことだった。でもそれだけバッサリ言い切ると言うことは、過去にも何かあったのかもしれない。


 それを私に話すつもりのようで、「飲みながらにしましょうか」と、そのままbarカウンターに連れて行ってくれる。


「珍しい。ミードがありますね。ナタリー嬢はご存知ですか?」


 ミード。蜂蜜のお酒だ。でもこれは前世知識で知ることであり、この世界ではポピュラーではない。ここは知らないことにした。


「世界最古のお酒……と、どこかで聞いたことがあるような……。でも詳しくは分からないです」


「世界最古のお酒、ええ、醸造酒としては、まさにそうです。かつては王侯貴族も嗜好品として飲んでいたのですが、製法が確立しておらず、また森林の伐採も進み、蜂の数が激減したこともあり……。今では幻のお酒と言われているのです。ですがわたし達騎士は、野営の訓練で森に入ることも多い。そこで偶然、ミードに出会うこともあるのです」


「ミードに出会うのですか?」


「はい」と微笑んだアレン様によると、何らかの理由で放棄された蜂蜜の巣に雨水がたまり、自然にできたミード(蜂蜜のお酒)を発見することがあるという。


「騎士にとって、現地調達できる貴重なお酒ですからね。ある意味、いまだ、騎士の間では有名かもしれません。でもきっとデグラン殿のお店には、置いてあるかもしれませんね。……試してみますか?」


「はい! いただいてみたいです!」


 冬場は、お湯で割って飲むこともあるという。だが初めて飲むなら、まずはストレートでその味を知る方がいいと、バーテンがアドバイスをしてくれた。そこでグラスに注いでくれたミードを、そのままで味わう。


「見た目は蜂蜜そのままですが、そこまで甘くはないでしょう?」


「そうですね。香りはもう、芳醇な蜂蜜です。ですがまろやかで、変な癖もなく、飲みやすいです。……これはついつい、飲み過ぎてしまいますね」


「アルコール度数は意外とありますから、飲み過ぎは禁物です。ゆっくり召し上がってください。まだ開演まで、時間はありますから」


 アレン様は優しくそう言うと、ウッドハウス侯爵令嬢のことも、話してくれた。


「つまり建国祭のパレードを観覧していたウッドハウス侯爵令嬢が、たちくらみで倒れたのを助けたのをきっかけに、何かとつきとまとわれているのですね?」


「ええ、そうなんです。最初はあの時助けてくれた御礼を渡したい……ということでしたので、屋敷への訪問を受け入れたところ……。勝手に方々で、わたしと交際しているなどと言われてしまい、大いに困りました。ですが表立って文句や否定をするのは、彼女の名誉を傷つけることになります。当時、彼女はまだ十五歳でしたからね」


 三年間もつきまとう……いや本人は片想いなのかな。でもアレン様はあきらかに迷惑だと思っている。ここは素直に諦めた方がいいのではと思う。


「わたしと交際していると言ってみたり、わたしから贈られたものだとネックレスを友人に自慢したり。一方的にギフトを贈りつけられたり、頻繁に手紙が届いたり……。それに先程のような態度。ナタリー嬢がいるのに、まるでそこにいないかのように振る舞い、招待を請い、エスコートを依頼する。わたしの大切な人に対し、そう言った振る舞いをされるのは、不快でなりません」


「なるほど。アレン様がそれで不快に感じるのは、当然ですね。とはいえ、ウッドハウス侯爵令嬢も、この春で学校を卒業し、縁談話も本格的に動くでしょう。婚約者ができれば、さすがに諦めるのではないでしょうか」


 するとアレン様はミードをゴクリと飲み、こんなことを口にする。


「そうですね。わたしが婚約者を作るのも、一つの解決法でしょうか」


 そう言うとなぜか私をじっと見る。

 それはこのプランが正解かどうか、教えて欲しいということね。


「それはどうでしょう。えてしてこのような場合、標的にされるのは、アレン様と婚約する令嬢だと思います。『私からアレン様を奪った憎い女!』と」


「……! なるほど。それは……非常に困ります。ですがそんなことをされたら、わたしは家門の力を使ってでも、全力でウッドハウス侯爵令嬢を排除します。ですから安心してください」


 「安心してください」と言ったアレン様は私の手をとり、オペラグローブ越しで、手の甲へキスをしてくれる。これはもう、腰砕け失神案件。そばの柱に手をつくので、精一杯だ。なぜ突然、そんな行動をしたのか不明だけれど、とにかく悶絶するしかない!


「ナタリー嬢、大丈夫ですか!? ミードはアルコール度数が強いお酒ですから。酔ってしまいましたか?」


「!?」


 アレン様は、無自覚過ぎます!


 推しに手の甲へ突然キスなんてされたら、柱に手もつきますよ。本来失神していいのに、意識を保つ私を褒めていただきたいです!


「いえ、ちょっとふらっとしただけで、ミードは美味しいですから、あっ」


 グラスに口をつけようとしたら、アレン様に取り上げられてしまった。


「これからせっかく観劇するのです。ミードはもういいでしょう」

「え、珍しいお酒なんですよね!? 勿体ないです」

「勿体ない!? ……仕方ないですね」


 そう言うとアレン様は、私が飲んでいたミードを飲み干した。


 う、嘘ですよね……!?

 お、推しが、私が口をつけたグラスに……!

 こ、これは、か、間接キッスぅ……!


「ナタリー嬢!?」


 ついぞ意識が一瞬飛んだ私を、アレン様は素早く抱きかかえる。抱きかかえられた事実に私は再度、意識が飛ぶ。


 観劇までの一時は、まさに「我が生涯に一片の悔い無し」状態になってしまった。

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