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転生したらモブだった!異世界で恋愛相談カフェを始めました  作者: 一番星キラリ@受賞作発売中:商業ノベル&漫画化進行中
【第二章】

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思い出そう

 屋敷に到着すると、ドレスへ着替えだ。


 黒のマーメイドラインのドレスは、体にフィットしており、女性らしさが際立つ。その一方で、ふわりと広がる裾は、まさに人魚の尾びれのよう。私の着ているこのドレスの裾には、星のようにビジューが散りばめられている。


 大きく開いた胸元を飾るように、三連のパールのネックレスをつけ、耳には大粒のパールのイヤリング。いわゆる夜会巻きにした髪には、パールの髪飾り。


 最後にアレン様がプレゼントしてくれたオペラグローブを身に着け、完成だった。

 着替えを手伝ってくれた二人のメイドも、絶賛してくれる。

 そうなると気持ちも盛り上がってきた。

 黒革のクラッチ・バッグに、オペラグラスなどを仕舞い、防寒対策で毛皮を羽織る。

 真っ白な毛皮に、黒のドレスは鉄板の組み合わせ。

 なんだか普段と違い、自分でもゴージャスだと感じながら、エントランスへ向かう。


「お嬢様、大変エレガントで素敵ですな」


 馬車に乗るのを手伝う御者も褒めてくれる。

 そう言えば、社交界にも顔を出していないので、外出用のイブニングドレスを着ること自体が、久しぶりだった。ちゃんとドレスを身に着けると、自然と姿勢もよくなる。気分もちゃんと貴族の令嬢になるから、不思議だった。


 ゆったりと馬車が動き出し、エントランスで侍女とメイドが見送ってくれる。


 そこでふと思い出す。


 ニコールとジョシュの婚約周年祝いパーティー。どんなドレスを着ようかしら?


 ロゼッタやバートン、そしてデグランだって参加するのだ。三人はどんな衣装だろう?

 男性陣はフロックコートだから、あとは色と宝飾品で勝負だ。

 ロゼッタは何しろあの『ロイヤル・エレガンス』のドレスを着ることになる。特上のシルクに、模造宝石ではない本物の宝石が使われた、大変素晴らしいドレスのはず。


 馬車の中で、クローゼットの中のドレスを思い浮かべ、シミュレーションをする。そうしているうちに、劇場に到着した。御者に手伝ってもらい、馬車から降りる。エントランスの階段には、レッドカーペットが敷かれていた。


 そこはさすがジョアキーノの公演だと思う。観覧するのは、貴族の中でも最上流階級にいる人々。ドレスが汚れないようにと、外のエントランス階段にまで絨毯を敷いているのだから。


 談笑する貴族のカップルや親子らと共に、エントランスホールの中に入ると……。


 これはもう「おおおおお」という声が、周囲から自然に漏れている。


 普段、この劇場のエントランスホールには、何も置かれていない。金糸による刺繍があしらわれた真紅の絨毯が敷かれ、会場へと続く階段や廊下が伸びていた。


 ところが今は、新作のタイトルにもなっている『霧の城』が出現している。


 吹き抜けの天井にまで届きそうな高さのお城。外壁は霧を思わせる、ホワイトグレーの色合いをしていた。しかもスモークが焚かれており、まさに霧の中に現れた城に見える。外階段の絨毯を見ただけで、さすがジョアキーノと思ってしまった。だがこれは甘かったと思う。ジョアキーノは……ここまでするぐらいの人気を誇っていた。


「ナタリー嬢」


 澄んだ声に名前を呼ばれ、飛び上がりそうな程、嬉しくなってしまう。

 声の方を見ると、黒のテールコート姿の推しがいる……!


 アレン様といえば。

 乙女ゲーム内において、トレードマークとなる、騎士団のコバルトブルーの隊服姿での登場が多かった。副団長専用のパールシルバーのマントもよく似合っており、そのお姿に、文句はない。


 その一方で、隊服姿以外での登場が、圧倒的に少ない!

 舞踏会では、儀礼用の軍服で、それも拝みたくなる素晴らしさなのだけど。


 黒のテールコート姿なんて、初めて見た!

 これきっと、ゲームでのイベント時に解放されるような、とっておきの一着なのではないかしら!?


 お店では、デグラン、バートンもしくはロゼッタがいたので、自制がきいた。

 でも今、デグランが「なーにボーッとしているんだよ、ナタリーお嬢さん!」とツッコむこともない。ロゼッタが「ナタリーお嬢様、口から涎が!」と指摘することもない。


 もう両手を祈るように握りしめ、アレン様を見上げていると。


「ナタリー嬢。わたしの顔に、何かついていますか?」


 少し照れたような、はにかみ笑いをされ……。


 四つん這いになり、陥落したい気持ちになっていたが、グッと奥歯を噛みしめる。

 これではただの変態になってしまう。


 思い出して!


 私は恋愛相談カフェ「キャンディタフト」の恋愛相談要員であり、アレン様は推しだが、手の届かない雲の上の方。


 深呼吸を一つして、落ち着いて微笑む。


「アレン様。今日もいつも通り、素敵なお顔です。何もついていないので、ご安心ください。……改めまして、本日はご招待いただき、ありがとうございます」


 きちんとお辞儀をして御礼の言葉を伝えると、アレン様は秀麗な笑みを浮かべ、私の手を取る。


「こちらこそ、ナタリー嬢と観劇ができ、光栄です。まだ少し早いので、クロークに荷物を預け、シャンパンでも一杯、いただきましょうか」


「はい!」


 アレン様のエスコートで、クロークへ向かった。

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