マダムのお悩み
ついにやってきた水曜日。
この日は朝から、私のテンションは高めだ。
いつもより30分早起きし、夜のオペラに着て行くドレスを用意した。アレン様からもらったオペラグローブ、宝飾品などもクローゼットの一角にまとめている。本当は、メイドにやってもらえばいいことだった。しかしなんとなく、自分でちゃんと用意しておきたいと思い、整えてしまったのだ。
そんな行動をしてしまうくらい、今日のアレン様……推しとのオペラ観劇が、楽しみでならない!
アレン様がカフェに来てくれるだけでも、奇跡だった。店内で寛ぐ様子のアレン様を愛でる。それだけで十分、満足していた。それなのに。アレン様がオペラの観劇に招待してくれた。しかもあのジョアキーノの新作に! 行かないという選択肢などない。こんなチャンス、一度逃したら、二度目はないはず。
それにしても本当に。まさに夢のようだわ。
ということでご機嫌で身支度を整え、まずは厨房でカフェで販売するパウンドケーキとクッキー作り。それがひと段落したら部屋に戻り、ローズピンクのワンピースに着替えて朝食だ。母屋で両親や兄弟と一緒に朝食をとっていると、もう彼らも「ジョアキーノの新作を観劇できるなんて!」「しかもあの騎士団の副団長様と!」と大騒ぎしている。
「あー、ナタリーお嬢様、今日はお化粧、ばっちりですね!」
いつもより早めにカフェにつき、開店準備を始めていると、ロゼッタが手伝いできてくれた。いつもはデグランが先に二階から降りてくるのに。私は早めに出勤したが、ロゼッタもいつもより早く、店に来ている。しかも着ているワンピースは、ドレスに近い。明るいレモンシャーベット色で、スカートにチュールが重ねられ、フワリと広がっている。
ロゼッタも今日は、カフェの営業の後、ルグスとレストランで食事の約束をしていた。私と同じで、気持ちが盛り上がっているのだろう。だからこそ、こんなに早く出勤している。
というわけで、私のお化粧より、ロゼッタのお洒落についてツッコミを入れていると……。
「なんだ、二人とも。いつもよりだいぶ早いじゃないか?」
デグランが二階から降りてきた。
そして私とロゼッタを交互に見ると、ツッコミをいれる。
「いつもに比べ、ナタリーお嬢さんは、少し化粧が強くないか? もうすこし頬の色をおさえ、ルージュは抑えめに。ロゼッタはそんなよそ行きのワンピースで、汚れるぞ?」
アッシュブランのズボン、デニムを思わせる風合いのシャツに黒いエプロン。普段通りのデグランからそう指摘されると、反論しにくい。
「もー、デグラン、うるさーい! エプロンつけるから、大丈夫だもん!」
ロゼッタはめげずに言い返している。私はチークとルージュを紙ナプキンで押さえるようにした。
「ロゼッタ、ごちゃごちゃ言わず、開店準備だ!」
こうしてカフェオープンの準備をすすめる。床を掃き、窓ガラスを磨く。店の前にゴミが落ちていないか確認をする。ティーアーンに紅茶を入れ、スツールを並べ、ティーカップを用意した。
着々と準備はすすめ、オープン時間になった。
今日の最初のお客様は、以前、「今度、夫婦の悩み相談をするわ」と言っていたマダム二人組だ。何を相談されるかと思ったら……。「最近ね、夫が夜、元気がないのよ」とか「うちはないのよ、まったく。浮気、かしら?」など、昼間からディープな悩み相談をされた。もはや恋愛相談ではない……!と思うものの。悩みであることに変わりはない。なんとか対応する。
成婚退会した会員様の中には、暑中見舞いや年賀状を送ってくださり、退会後もやりとりが続く場合もあった。そして稀にサプライズで、店頭まで挨拶に来てくれることもある。そういった方々がお茶を飲みながら、世間話的にディープな話をすることも、無きにしも非ず。
さらに身近で結婚した女友達が、赤裸々に悩みを私に打ち明けることもあった。おかげで私は恋愛相談のみならず、夫婦問題についても、詳しくなっていた。そして悩みを知れば、解決策を模索したくなるのが、私の性分。その手の本を読み漁り、さらに実体験をヒアリングし、学びを重ねることになった。
ということで前者については、前世知識を思い出し、いくつかの身体的な衰えなどを説明。最終的に、医者へ相談が落としどころだ。後者については、浮気の兆候がないことから、単純にもう旦那様がお疲れなのではないか。つまり仕事が忙しく、心身共に疲れ、それどころではないという理由。
そして子供がいるご夫婦で多いのが、妻を女ではなく、子供の母親=家族にしか見えなくなっている場合だ。愛情は消えたわけではないが、そういう対象とは見えないということ。そこに付随しているのが、妻の体型の変化から、その気になれないというものあり……。
さらに意外と多いのが、過去に妻側が拒否したことが、トラウマになっている可能性。男性のメンタルは、思いのほか繊細。また誘って以前みたいに断られたら……と考えていることも無きにしも非ず。
それだけではない。もう一人のマダムが先に相談した、EDであることも考えられた。














