愛の伝道師!?
「断られないよう、選択肢を出すことだ。その女子が『えっ』と困惑しているようだったら、助け舟を出す。『君がいつも一緒にいる令嬢も誘って、三人で行く?』と。それだと二人きりではない!と思うかもしれない。だがこれまでろくに、会話もなかったんだろう? 大勢のクラスメイトの中でしか、接点がなかった。それが三人で会うだけでも、大きな進歩だ。だろう?」
「確かに……!」
「もし二人で出かけることに応じてくれたら、それはそれで万々歳だ。当日までに、いろんなネタを仕入れておくといい。女子が喜びそうなネタを。で、話す時は、『自分はこれについて、あまり興味はない。だけど君が好きそうだから、いろいろ調べてみたんだ』とさりげなくアピールする。二人で出かけている時点で、君への好感度は悪くないはずだ。だからわざわざ調べたと言われても、それで嫌がられることはないさ」
モブ男子学生くんは「師匠、すごいです……!」と、パンケーキにぱくつきながら、感動している。でもこれは私も心の中で、拍手だった。初めてのデート、コミュニケーションに自信があるなら、普段通りで会えばいいだろう。でもそこに自信がないなら、武装することで安心できる。女子だってメイクやファッションで、ある意味、武装をしていた。トークに自信のない男子は、ネタを仕入れておくことで、自分自身、安心できるはず。
「三人なり、君の友人の男子も誘い、四人になったとしても。まずはそこからだ。彼女を含む四人での思い出ができた。これでもう、話のネタには困らない。それに新たに別のお店へ誘うこともできる」
まさに勝利のスパイラルだ。それはモブ男子学生くんも、分かったようだ。
「ご馳走様です!」と満足気にパンケーキを食べ終え、デグランに「師匠の言う通りだと思います!」と笑顔になった。
「気持ちを高めておいた後に、水を差すようだが、これは忘れないで欲しい。今、話したこと、実際にやってみて、上手くいくかもしれない。でも上手くいかない可能性もある。いくらこっちが好意を持っても、相手も同じとは限らないからな」
デグランの言葉に、モブ男子学生くんはハッとしたが、真摯な表情で聞いている。
「結果が残念だったとしても。行動せずに終わるより、行動してダメだった方が、次に進める。それに行動することで、絶対に成長しているはずだ。俺が勝手に考えたことだけど、『失恋は男の勲章』。誰かを好きだった気持ち。それは決して悪いものではないはずだ」
なんだかデグランが、愛の伝道師のように思えてくる。
結婚相談所のコーディネーター歴十年超えの私より、恋愛相談のベテランじゃない!?
「えてして人間ってのは自己中心的になりがち。でも誰かを好きだった時。その時は自分のことより、相手のことを考えたはずだ。どうしたら笑ってくれる? どうしたら自分を好きになってくれる? そんな風にな。失恋しても、誰かを思う気持ちを学習できたと思えばいい」
モブ男子学生くんは、もはや尊敬の眼差しでデグランを見ている。
でもその気持ちはよく分かってしまう。
なんというのか、デグランの言葉は……ためになるし、優しい。
寄り添った言葉だと感じ、励まされる。
「まー、失恋した。悲しい。そん時は、ここに来て、パンケーキでも食え。俺が奢ってやるから」
「師匠……! ありがとうございます! でも僕、これでも男爵家の三男なんで。奢らなくても大丈夫です。でもその時は……僕の話、また聞いてください!」
「勿論だとも」
デグランとモブ男子学生くんがカウンター越しに手を伸ばし、堅い握手を交わした。
◇
「デグラン……いつの間にそんな恋愛経験を積んだんだ!?」
モブ男子学生くんがご機嫌で帰っていくと、間髪をいれずバートンが尋ねた。
「そんな経験、あるわけないさ。でもこの恋愛相談カフェの従業員をしていれば、自然とナタリーお嬢さんの思考法が身に着く。ナタリーお嬢さんなら、こんな風にアドバイスするかなと、考えた結果だよ」
「!? そうなのですか!? でも『失恋は男の勲章』なんて名言、私からは出ませんよ!」
「ははははは。そこはちょっと、かっこつけ過ぎたかな」
デグランは笑いながら、空になったカップやお皿を洗い場に運ぶ。
「でもさー、俺、尤もらしく言ったけど、全部、自分へのメッセージでもある」
洗い物をしながらデグランはそんな風に言うけれど……。
この発言には「そうなの!?」と思ってしまう。それは……失恋の可能性も含め、なのかしら……?
「デグランらしくないなー。いつも僕やロゼッタには強気発言だったのに。『俺は絶対、自分の力で美味い物を食ってみせる!』『俺は絶対に料理の世界で頂点を極める!』とかさ。恋愛だって『絶対に俺が勝つ!』なんじゃないのか?」
バートンのツッコミに、デグランは苦笑する。
「バートン、それは俺の若い頃の話だろう?」
「若い頃というか、子供の頃だけど」
「経験積んで分かったよ。料理だって恋愛だって、相手あってのことだ。俺がいくら『これは絶対に美味い!』と言っても、食べて『美味しい』と言ってくれる人がいなきゃ、成立しない。恋愛だって、俺がいくら『好き!』でも、相手が別の方を見ていたら、成立しない」
デグランが急に寂しそうな顔になった時、カラン、コロンと勢いよく扉が開く。
王立サンフラワー学園の、ピンクに紺色のチェック柄のワンピース、紺色のボレロという制服姿のこの令嬢三人組は、常連さんだ。タム男爵の令息と、時を同じく来店して以来、頻繁に利用してくれている。
この三人は、素敵な令息を見ると、すぐに恋に落ちる。数か月に一度のサイクルで、恋に落ちている相手が変わっている。でも告白をしないから、永年片想い。でもそれがなんだか楽しいらしい。つまり、恋に恋している状態。恋をしている私、青春していると、それで満足なようだ。
なぜ片想いを続けるのか。それはこの世界の貴族令嬢は、自由恋愛で結婚より、政略結婚が当たり前だから……。どうせ好きになって付き合っても、別れることになる。そして親の決めた相手と婚約し、やがて結婚すると、知っているのだ。
しかしこの三人に、そんな悲壮感はない。キャッキャッと明るく話し、看板メニューのパンケーキを食べ、ティーアーンの紅茶を楽しむ。
そんな令嬢三人組を見ていると……。
デグランは片想いをしているようだけど、ポートランド公爵は、デグランの自由を認めている。政略結婚なんて、絶対にさせないだろう。だから片想いしているその相手とも……。
令嬢三人組のオーダーを通すため、デグランに声をかける。
「デグラン、いつものパンケーキ、三人分。でもブラックシロップがけね」
「オッケー!」
「ねぇ、デグラン。行動しないで諦めたら、ダメですよ。当たって砕けたら、ロゼッタとバートンと三人で、ちゃんと励ましますから」
ボウルの生地をかき混ぜる手を止め、デグランがふわっと笑顔になる。
サーファーみたいなデグランの笑顔は、いつも爽やかそのもの。
「当たり前だ。俺はいつもそうやって行動し、生きて来たからな」
ぽすっと私の頭に手を乗せるデグランが、ナイス・モブなウィンクをした。














