月曜日の狩り
店休日の月曜日。
今日は、デグラン、ロゼッタ、そしてデグランの父親とお兄さんと共に、郊外の森で狩りだった。
王都と言えど、中心部は街だが、そこを離れた郊外は、森が広がり、山もある。王都の貴族はそこで狩りを楽しんでいた。
ということで我が家の馬車で森へ向かうため、待ち合わせ場所へ向かう。
早朝、画材屋の前に、デグランとロゼッタが待っていた。見送りのバートンの姿も見える。
「おはよう、ナタリーお嬢さん。馬車、出してもらえて助かるよ」
私が馬車から降りると、開口一番、デグランが御礼の言葉を伝えてくれる。
今日のデグランは、いつもとは全然違う装い。
白シャツに、スモークブルーの上衣とズボン、ウールの厚手のマントを羽織っている。フードもついたそのマントは、明るいキャメル色。彼の髪色ともあうし、その姿は狩人っぽい!
「おはようございます~、ナタリーお嬢様! 今日はよろしくお願いします!」
ロゼッタがいつもの大きな声で挨拶をすると、バートンが「しーっ」と慌てて彼女の口を押える。まだ早朝五時だから。
朝から元気なロゼッタは、パンプキン色の生地に、オレンジとレッドのオーバーチェック柄のワンピースを着ている。合わせているリーフ色のウールのコートも、よく似合っていた。
「では出発です。二人とも、馬車に乗ってください」
こうして私の隣にロゼッタ、対面の席にデグランが着席し、出発となる。
ちなみに今日の私の装いは、ローズピンクのワンピースにチョコレート色のコートだ。
「みんな、気を付けて。いってらっしゃい!」
いつものモスグリーンの上衣を着たバートンが、小声で告げたのを合図に、馬車が走りだした。
◇
貴族にとって、狩りは社交の場。
女性は狩りをしないが、その様子を安全な場所から見守ることになる。
ロゼッタの父親は画材屋を営み、母親は教師をしていた。いわば文系で、この世界でスポーツに分類される狩りをした経験はない。当然だがロゼッタもバートンも、狩りに行ったことがなければ、見たこともない。
狩りをする男性は馬で森の中へ入り、実際に獲物を狩る時は、馬を降り、対象の方へと近づく。
観覧する女性陣も馬に乗り、森の中へ入る。そして距離をとり、その様子を見守るわけだが。
ロゼッタは子供の頃に、乗馬体験をしたことがあるぐらいだった。そこでポニーに乗り、馬丁が付き添い、森の中を進んだ。そして狩りをする男性陣の様子を見て、目を輝かせている。
「ナタリーお嬢さん、デグランのお兄様、めっちゃかっこいい! シアン色の上衣もお洒落だし、明るいグレーのマントも王子様みたい! その姿で槍や剣をこう使っていると、本当に素敵ですね!」
ロゼッタは絶賛しているが、その気持ちはよく分かる。
デグランの兄レナードは、二卵性双生児。容姿はデグランというより、ルグスに似ている。つまり体格がいい。よって槍や剣で獲物にとどめを刺す時にこそ、大活躍する。
レナードが槍や剣を振るう姿は、迫力があった。何より「仕留めた!」と拍手も起こるから、ヒーロー感が半端ない。
だがしかし。
私は静の美学を好む。
デグランは料理人として、最高の食材を求め、時に狩りや漁もするという。とはいえ、平民として育った。剣術など習ったことがない。槍も一応できるらしいが、得意なのは弓矢。
よって離れた場所の獲物に向け、集中力と瞬時の判断力で狙うのだけど……。
その真剣な眼差し。
グッと歯を食いしばり、弓を引いている時の緊張感。
矢が放たれ、フッと全身から力が抜けた時の、柔和な表情。
矢が命中した時の笑顔。
一連の動作を静かに成し遂げた時のデグランは……これはこれで素晴らしいと思う!
さらにデグランの活躍は、これでは終わらない。
仕留めた獲物を公爵家の料理人と共に素早く捌き、昼食に備える。
狩りを終え、森から狩猟館へ戻ると、デグランの父親と兄が身を清めている間。デグランは調理作業を進める。狩猟館とは、森の近くに建てられた、狩りをした貴族達の休憩所。寝泊まりもできた。入浴設備も整っており、調理スタッフもいる。でもそこはさすがポートランド公爵家。使用人を何人も連れてきており、慣れた彼らがテキパキと動き、昼食に備えている。
一方のデグランは、狩猟館の庭で、獲物の下処理を終えると、厨房へ向かう。
庭園にいる私とロゼッタは、厨房の窓から中の様子を伺った。
すると。
公爵家の料理人には当然、シェフがいる。それと分かる目立つ帽子もつけていた。だがマントをとり、借りた白いエプロンをつけ、どう見ても若造にしか見えないデグランの指示通りに動いている。
大人数の料理を短時間で用意するには、その場を仕切り、的確な指示を出せる人間が必要だった。そこは公爵家のシェフがしていいのだろうが、デグランは先手、先手で動き、指示を出す。よってシェフは後手に回り、気づけばデグランの指示に従い、動いている状態だった。
ではその状態にその場にいる料理人たちが「なんなんだ、この若造は!」となっているのかというと。そんな様子はない。皆、笑顔なのだ。
声は聞こえない。
でも多分、デグランは手を動かし、体を動かしながら、時にジョークも交えているようだ。そして手が停滞している料理人がいれば声をかけ、アドバイスをする。そのことで料理完成に向け、皆が一丸で動く状態を作り出していたのだ。
デグランはまるでオーケストラの指揮者ね。
こうしてお昼には、庭園に設置されたテーブルに、王宮に並ぶような見事なジビエが料理が用意された。






















































