二人の共同作業!?
「次まで待てないわ!」とエリンが困ったちゃんになった場合、どうするか。
「提案で解決しない場合は、折衷へ進んでください」
「折衷……?」
「双方の意見を取り入れるのです。つまり、カーテンはチョコレート色とワイン色のストライプ柄とか、一階の廊下はチョコレート色で、二階はワイン色にするとか、とにかくエリン様とお母様の意見、その両方を、落としどころにするのです」
そこで看板メニューの「マシュマロサンドパンケーキ黄金パウダーの蜂蜜かけ」が完成した。デグランが兄の前に、いい香りと湯気を立てるパンケーキを置く。
なお、黄金パウダーとは、きな粉のこと。まさに和洋折衷パンケーキだ。
「マシュマロがアツアツのうちに食べるのが、コツです。よって食べながら聞いてください」
「わ、分かった。いただきます」
兄がナイフとフォークを手にしたので、私は話を続ける。
「折衷もうまくいかなかった場合ですが、その場合は第三者の力をかりるのも、一つの手です。この場合ですと、インテリアコーディネーター。エリン様やお母様の意見は聞かせず、客観的なアドバイスをもらうのです。廊下のカーテンでおススメの色を。第三者の意見は中立です。エリン様やお母様も、ふりあげたこぶしをおろしやすくなります。『インテリアコーディネーターの方が、グリーンがいいと提案してくださるなら、そうしましょうか』と」
「よく分かったよ、ナタリー。まずは傾聴。余計なことは言わず、とにかく聞く。次に提案。それがダメなら折衷や第三者の意見を求める。ナタリーのアドバイスは、理論的で分かりやすい。タム男爵の令息が絶賛したのは、当然だな。それにこのパンケーキ……。なんて美味しいんだ! こんなパンケーキ食べたことがない。これもナタリーの発案なのか?」
「はい。レシピは私が考えましたが、作っているのはデグランです。デグランの料理の腕は、ピカイチですから」
「つまり二人の共同作業か。息の合ったコンビだな。最高のパートナーだ」
兄が意味深に微笑むから、私は慌てて付け加える。
「お、お兄様。忘れないでください。嫁姑問題というのは、昨日今日の問題ではないことを」
「? それはどういうことだ、ナタリー」
「そもそもとして嫁姑のコミュニケーションが円滑であれば、問題は起きにくいものです。カーテンの色で『赤だ』『チョコレート色だ』となっても、普段からコミュニケーションが良好であれば、その場で解決するはずなんです」
これには兄がギクリとしている。今回、カーテンについての悩みを打ち明けた。だが過去に何かもめたことがあるのだろう。
「『いつも赤ばかりだから、チョコレート色にしてもいいかも』とか『チョコレート色もいいと思いましたが、一過性の流行かもしれないので、やはり赤がいいですね』とか、そんな風に、お互いが思いやり、譲り合う。それが『赤よ!』『チョコレート色よ!』ともめるのは、普段の二人関係性が、そもそもスムーズではない可能性が高いのです」
兄は「あー」という顔をしている。スムーズではないことが、分かっているのだろう。
「三人で……いえ、お父様も含め、四人でコミュニケーションをとる機会を設けてください。これから一生のお付き合いになるのですから」
「……そうだな。面倒ごとに巻き込まれたくないと、エリンと母上が会う機会を、極力減らすことばかり考えていた。そこは……僕の至らなかったところでもある。近いうちに、父上も含め、四人で食事でもするよ」
兄は意気揚々として、ご祝儀払いの金貨を置き、帰っていく。
その姿を見送ると、ティーフリーを楽しみながら、おしゃべりをしていたはずのマダム二人が、私をジッと見ている。
どうしたのかと思ったら……。
「さすがですわ! 恋愛相談をするなら、このカフェがいいって、お茶会の席や舞踏会で、みんな言っていたのよ。でもほら、恋愛相談でしょう。わたくしたちは既婚者ですし、夫婦の悩みなんて相談しても……と思っていたのよ。でも嫁姑問題にもアドバイスできるなら、夫婦問題もいけそうですわよね? ちょっと次回は、パンケーキもそうですが、相談もさせていただくわ」
ブルネットのマダムがそう言えば、赤みがかったブラウンの髪のマダムも同意を示す。
「まだお若いのに、いろいろと経験が豊富なのかしら? でも……未婚でしょう? 不思議だわ、こんなに若いお嬢さんが、ここまでのアドバイスをできるなんて! わたくしも次回は、相談させていただくわ」
これにはもう、苦笑するしかない。
このカフェに立つのは、二十歳のナタリー。しかし中身はオーバーサティーの転生者なのだ。しかも元ベテランと言われた結婚相談所のコーディネーター。すべて実際に相談された悩みに基づくアドバイスであり、机上の空論ではない。
そこでカラン、コロンと扉の鐘が鳴る。
振り返るとそこには……。
碧みがかった銀髪に、碧眼の瞳。高めの鼻梁と血色のいい唇と頬。整った顔立ちで、顎から首にかけてのラインは実に秀麗。シュッと伸びた背筋に似合う、コバルトブルーの隊服。パールシルバーのマントは、副団長専用のものだ。
そう、彼こそが、私の推し!
アレン・ヒュー・サンフォード様。
王立騎士団の副団長様だ!














