【番外編】小さな初恋の物語~レネ様の恋~
この国の筆頭公爵家の一員に相応しい人間になるように、お兄様も私も育てられてきました。
お兄様は妹である私から見ても、完璧です。
アレン・ヒュー・サンフォード。
サンフォード公爵家の嫡男であり、騎士団の副団長。
性格は穏やかで優しく、騎士らしく高潔。
文武両道で、多くの令嬢やマダムがため息をつく容姿。
そんなお兄様と並んでも、恥ずかしくない妹になるため、私も礼儀作法、ダンス、教養を身に着けました。
そんな私に父親が持ち込んだ婚約者候補は……。
身分に申し分はありません。
年齢は十九歳。
学校を卒業後一年間、遊学しており、成績も優秀で、容姿も優れていました。
ここまでは、お兄様と共通することです。
ですが……。
見た目の良さは諸刃の剣。
言い寄る令嬢やマダムは数知れず。
お兄様はそれらを華麗にスルーします。
ところが私の婚約者候補は……。
浮名を流した女性は数知れずというプレイボーイでした。
しかも舞踏会で、私の知り合いや友達も、彼に口説かれたことがあったのです。
貴族の結婚は、家同士がするもの。
両家に利益を生むなら、当人の意向など関係ありません。いわゆる政略結婚が当たり前です。
よって私がこのプレイボーイと婚約する流れは……至極当然なもの。
頭では理解できているのです。そうすることが正しいことだと教わり、生きてきました。
それでもこのプレイボーイと婚約したくない理由が私にはあるのです。
私には……好きな男性がいます。
フィル・サザン。
フィルは幼なじみであり、私の初恋の相手です。
浮気など絶対にしないと思います。
性格はお兄様に似ているところがあるというか、真面目で優しく、真っ直ぐな方です。
父親だってフィルのことを知っています。その性格の良さも分かっているでしょう。でもフィルを婚約者の候補にさえ、いれてくれないのは……。爵位です。筆頭公爵家の長女である私には、不釣り合いな身分と思われてしまっているのです。
私は……フィルのことを初恋の思い出にして、プレイボーイと婚約するしかないのでしょうか。
筆頭公爵家の長女である私が、婚約について疑問を持つ。
それ自体が正しいことではないと分かっています。
それでも……。
この悩みを相談できる相手なんていません。
大好きで信頼しているお兄様にさえ、打ち明けることは無理です。
お友達に話したら、驚かれると思います。
筆頭公爵家の令嬢なのに、なんでそんなに爵位の低いお相手を?と、呆れられるかもしれません。
悩める私に希望の光が灯ったのは、招待された晩餐会での席のこと。
マダム達が、パンケーキが美味しいというお店のことを話題にしていたのです。でも少し離れた席での会話。『キャンディタフト』が店名というところまでしか、聞き取れません。
キャンディタフト。
これはお花の名前。しかも花言葉は「初恋の思い出」。
それだけで私は、このカフェに親しみを覚えてしまいます。
今まさに、初恋を思い出にするかどうか、悩んでいるのですから……。
晩餐会の翌日。
侍女に頼み、『キャンディタフト』というお店がどこにあるのか調べていただきました。そして私は知ることになります。そのカフェでは、恋愛相談を受け付けていることを。
もう運命だと思いました。
導かれるようにして、恋愛相談カフェ『キャンディタフト』へ向かうことにしたのです。
◇
結論として。
私はこのカフェに行って本当によかったと思いました。
評判通りでパンケーキは美味しく、恋愛相談に乗ってくれた女性店員は……驚きです。伯爵家のご令嬢だったのです。シルバーストーン伯爵令嬢は、私と似たような悩みをお持ちでした。家門優先の政略結婚に悩んでいたのです。ですが彼女がこの悩みを克服した方法は、私には真似できないでしょう。なぜなら結婚をせず、一人で生きて行くために、恋愛相談カフェ『キャンディタフト』をオープンさせることにしたのですから。
シルバーストーン伯爵令嬢の生き方は、賞賛に値すると思いました。この世界に、女性の新しい生き方を示しているように感じます。
さらに彼女が魅力的だからでしょうか。常連客のスタンリー・ジョン・イエール氏……王立コンランドアカデミーの先生も、素晴らしいアドバイスを私にしてくれました。さらにシルバーストーン伯爵令嬢が本音で話す機会を作った、パンケーキの調理を担当する青年。彼の料理の腕も、気遣いも素敵です。
おかげで私は決意できました。
これまで、両親の教えに反論することなく、生きてきた私です。
ですがイエール先生も、哲学者のこの言葉を私に教えてくれました。
『人は抵抗することで、主体性を取り戻すことができる。その自我の意識が、幸福につながる』
自らの意志で道を切り拓いたシルバーストーン伯爵令嬢は、まさに政略結婚に抵抗し、自分らしさを生かせるカフェをオープンされました。自らの意識で動くことが、きっと幸福につながっているのでしょう。
ですから私も動くことにしました。
私の大切な初恋を、思い出として終わらせないようにするために――。
お読みいただき、ありがとうございます!
下記、完結しました!
『悪妻化計画を実行中。
旦那様、離婚してください!
溺愛されてもダメなんです!』
https://ncode.syosetu.com/n6966jh
政略結婚も悪くない!と思っていたら
離婚しないと、とんでもないことが起きる!
離婚したい妻
VS
離婚したくない夫
奔走する妻と迷走する夫のドタバタ劇。
笑い話のような展開からのハッピーエンド。
ぜひご賞味くださいませ~☆彡
ページ下部にあらすじ付きリンクバナーがございます!














