【番外編】破談二十回令息のBefore→After
最後の一文を読み終えた際。
『愛がすべて』(スタイリスティックス)の
オープニング・メロディーをぜひ思い浮かべてください!
「坊ちゃま、旦那様がお呼びです!」
ヘッドバトラーがわざわざ部屋までボクを呼びに来た。
ということは。
これは先日の縁談話の結果が来たということだ。
でもどうせ……お断りだろう。
重い足取りで、父親の待つ執務室へ向かった。
◇
以前のボクは。
釣書の交換を行い、「顔合わせをしましょう」となり、実際に縁談話のお相手の令嬢に会うと。
胸が高鳴り、会話をしている最中から、目の前の令嬢との未来を沢山想像した。
婚約式で沢山の友人から祝福されるボクと彼女。
一年間の楽しい交際期間。
感動の結婚式。そして初めての夜。
楽しい新婚生活。
やがて誕生するボクと彼女にそっくりな赤ん坊。
幸せな未来を、彼女とボクは生きるんだ。
顔合わせが終わり、返事を待つ時間は、ドキドキし、ワクワクだった。
楽しみだった。
だが――。
「チャーリー。残念だが先方からお断りの連絡がきた」
父親からこう言われた時、「え」だった。
ボクが描いたあの未来は?
あの未来は実現しない……?
ショックはじわじわとわいて来る。
初回の縁談話を断られた時は、一週間は茫然と過ごした。
でも二度目の縁談話が舞い込み、そこでなんとか気持ちを上向かせることになる。
二回目の縁談話。
釣書は即OKで、すぐに顔合わせの場が設けられた。
そしてボクはそこで、二度目の未来を夢見る。
目の前に座る令嬢は、初回の令嬢より、綺麗だと思う。
そうだ。
彼女に会うためにボクは生まれたのだと思う。
だから一度目の縁談話が流れたことを、気にする必要はない。
うん、そうだ。
気にしないでいい。
ところが。
二回目の縁談話も……お断りだった。
だが父親はボクがショックを受けないようにと思ったのだろうか。
お断りのお知らせと同時に、次の縁談話を持ってきてくれていたのだ。
おかげであまり落ち込むことなく、次の縁談話へ進めたが……。
三回目の縁談話も断られた。
でも当時のボクはまだ王立サンフラワー学園に通う学生だった。
学生は行事もあれば、テストもあるし、宿題もあるから忙しい。
忙しいおかげで、縁談話を断られても、なんとか乗り越えられた。
学生生活を通じて、断られた縁談話は八回。
卒業後、アカデミーに進学したが、そこでも連敗記録は続く。
ヘッドバトラー、メイド長、従者にまで、ボクは尋ねた。
なぜボクは縁談話が上手くいかないのか。
釣書の返事はOKなのに。
顔を合わせの場でも、お相手の令嬢はにこやかなのだ。
会話だって普通にできている。
盛り上がっていると、ボクは思っていた。
それなのに。
なぜ断られるのか?
「坊ちゃんには何も問題ありません」
使用人は口を揃えてそう言うが、本当だろうか?
時が流れ、二十七歳になった時。
ボクの連敗記録は二十回に到達していた。
◇
そのカフェのことを知ったのは、舞踏会でのマダム達の会話からだった。
「街にできた『キャンディタフト』というカフェ、ご存知? パンケーキが絶品なんだそうよ。なんでもそこだけでしか食べられない、黄金パウダーがかかっていて、調理する男性もとてもハンサムだって」
「知っていますわ。パンケーキも美味しいそうですが、そちらのカフェ。恋愛相談に乗ってくださるって聞きましたわよ。相談に乗るのは若いお嬢さんらしいのですが、アドバイスが前向きで、役に立つとか」
恋愛相談に乗ってくれるカフェ。
『キャンディタフト』。
しかもパンケーキが美味しい……。
両親は、既にニ十回も縁談話が断られているボクに、「縁談」という言葉を聞かせないようにしていた。使用人は、ボクに問題はないとしか言わない。友人・知人は「巷の令嬢ごときでは、君の良さが分からないのさ」と言ってくれるが……。
ボクは……知りたかった。
なぜ、二十回も断られるのかを!
◇
勇気を出して、恋愛相談カフェ『キャンディタフト』に足を運んで良かったと思う。
女性の店員さんは、ズバリ指摘してくれた。
それは大きな気づきになった。
彼女のアドバイスを受け、髪型を変えるところからスタートさせる。
三人の理髪師に見てもらい、癖毛を抑えるため、長めにしていた髪は、短くすると決めた。実際にカットしてもらった結果……。
癖毛を生かした、ゆるくふわっとした髪型。自分で言うのもなんだが、似合っていると思う。
身だしなみにも気を使うようにして、肩のフケのチェックは毎朝行うようにした。
舞踏会へ行くと、令嬢がボクを見ているような気がする――。
さらに。
「チャーリー。なんだか学生に戻ったかのようだ。随分、若々しい見た目になった。……どうだろう、縁談話がいくつか来ている」
ボクの変化に気づいた父親が、久々に縁談話を持ち掛けてくれた。
釣書を確認すると、未亡人が一人、含まれている。
以前のボクは、年下か同い年を希望していた。
婚姻歴ありの女性なんて、見向きもしなかった。
でもカフェの女性店員からアドバイスを聞き、選択肢を増やそうと思っていた。
何よりも。
「食わず嫌いにならず、そういった縁談の話があれば、一度は受けてみてはいかがでしょうか。いくら私が口で説明しても、“百聞は一見に如かず”ですから」
あの女性店員さんのこのアドバイスが、ボクを後押ししてくれた。
そしてボクは出会うことになる。
年上の未亡人だが、包容力があり、優しい女性に。
婚姻歴があることを気にしている彼女だったが、ボクは関係ないと思った。
彼女のことは、ボクが幸せにする。
そう、決意した。














