【番外編】かまってちゃん令嬢のBefore→After
私の名前はベル・マリー・ローランド。
兄は二人いるが、ローランド男爵家の一人娘だ。
二人の兄は、私と歳が離れている。
だからだろうか。
幼い頃から二人の兄は、私にとっても優しかった。
どんな我が儘を言っても、優しく聞いてくれる。
私より先に大人になった兄二人は、一緒に街へ出掛ければ。
「ベル、このリボン、似合うんじゃないか。プレゼントしてあげよう」
「このアイスクリーム。ピスタチオ味だって。大人の味だぞ。ベル、食べてみるか?」
大人になり、収入を得た兄二人は、私にいろいろな物を買ってくれる。
「お兄様、眠れないの。本を読んでくださらない?」
「いいよ。ベル」
お父様の商会を手伝い、夜遅くまで執務机に向かっている一番目の兄は、その手を止めて、私に本を読んでくれる。
「お兄様、怖い夢を見たの! 一緒に寝てくださる?」
「勿論だよ、おいで、ベル」
騎士に叙任されたばかりの二番目の兄は、勤務と訓練でへとへとでも、私の願いをかなえてくれる。
兄だけではない。
お父様もお母様も。
唯一の女の子である私のことをとっても可愛がってくれる。
だから私は自分が大切にされること、何よりも優先されることが……当たり前になっていたのかもしれない。
◇
『ベル。ごめん。日曜日に約束していたオペラ。僕は行けそうにないんだ。休日出勤になってしまって。良かったらお兄さんやご両親と行って欲しい』
婚約者からこんな手紙が届くようになり、学生時代は毎日のように学校帰りにデートしていたのに、今は一週間に一回しか会えない。
結婚式の準備があるけれど、それは使用人も手伝ってくれる。既にウェディングドレスの発注は済んでいるし、ウェディングディナーのメニューも、できれば婚約者と決めたかったのに!
一週間ぶりに会うことができて、我が家の庭園にティータイムに来ても、婚約者はあくびを繰り返している。二日に一回届く手紙。一週間に一度届く花束。それだけじゃ足りない! 私はもっと婚約者と一緒にいたいのに!
そんな時。恋愛相談カフェ『キャンディタフト』について知った。でもそれは偶然だった。ブティックでのマダムの会話を、たまたま聞いたからだ。
「ほら、うちの主人、歯軋りがひどくてね。それで恋愛相談カフェ『キャンディタフト』というところへ行ってみたの。そうしたら、すごく親切に相談に乗ってくれて。相談を聞いてくれたのは、若いお嬢さんなのよ。でもアドバイスが的確なの! あなたも今度行ってみるといいわ。看板メニューのパンケーキも、も~絶品! 作っている男性もハンサムなのよ」
「まあ、そうなのね。パンケーキ。いいわね。でもあなた、歯軋りの相談って! 恋愛の相談じゃないわよ!」
恋愛相談。
恋愛相談にのってくれるカフェがあるの!?
しかも相談に乗ってくれるのは若いお嬢さん……。
それならなんだか話しやすい気がする。
行ってみよう!
◇
「学校を卒業し、働き始めてすぐは一番忙しい時でしょうから、今は応援してあげた方がいいと思います。もし何か趣味をお持ちでしたら、そちらに没頭するのがおススメです。婚約者のことばかり考えてしまう。それはご自身に余裕がある可能性が高いですから。他に忙しいことがあれば、婚約者が忙しくしていても、目をつむることができるはずです」
驚いた。
恋愛相談カフェ『キャンディタフト』の女性の店員さんのアドバイスは、まさに納得できるものだった。趣味と言えるほどではないが、刺繍が得意であり、好きなのだと打ち明けると……。
「そうですか。それでしたら婚約者の方のシャツの襟や袖に、刺繍を縫い付けてもいいと思います。イニシャルや紋章を刺繍でつければ、オシャレですし、喜ばれると思いますよ」
これには「なるほど!」と立ち上がって喜びたくなっていた。彼のシャツのポケットに刺繍をつけようと、すぐに決意した。
『キャンディタフト』はパンケーキも美味しいし、確かに調理している男性店員さんは背も高く、ハンサムだった。でもこの店員さんの笑顔の先にいるのは、恋愛相談に乗ってくれた女性の店員さん。
多分、この二人、お付き合いしているのかしら? でも女性の店員さんより、男性店員さんが彼女を見る回数が多いような……?
ともかく有益なアドバイスをもらえたこのカフェのことは、お茶会でいつも会う令嬢達にも話しておいた。だってみんな、恋に悩む年頃だから!
こうして私は婚約者にプレゼントするためのシャツを購入し、ポケットに彼のイニシャルと紋章を刺繍した。そして次に会ったティータイムの席でそれをプレゼントすると……。
「……! ありがとう、嬉しいよ。ベルは刺繍がとても上手なんだね。ジャケットやハンカチにも刺繍してほしくなるよ」
「任せて! 結婚式の準備は順調で、私は仕事もしていないでしょう。だから時間があるの。刺繍、しておくわ」
「ベル……。そうだね。君は仕事をしていないから、時間がある。……もしかして僕が仕事で忙しくてデートが出来ない時、寂しかった?」
婚約者がこんな風に聞いてくれるなんて! 驚きだった。でも実際、寂しかったので、それを打ち明けると……。
「そうか。ごめん。自分のことでいっぱいになって、ベルの気持ちを考えることができなかった。これからはもう少し、会う時間を増やすから」
「本当に! 嬉しいわ。……でも、一年目って大変なのでしょう? 無理はしないで。私には刺繍もあるし、お友達とお茶会もできるから」
「ベル……! 君はなんて理解がある女性なんだろう。そんな君を放っておくことはできないよ。大丈夫。無理のない範囲で、ベルに会う時間を作るから!」
恋愛をしている時。悩みというのは尽きないと思う。そして恋愛で頭がいっぱいな時。気づけないことが沢山あると思う。
恋愛相談カフェ『キャンディタフト』の女性の店員さんは、そこを私に気づかせてくれた。そして結果的に私と婚約者は会う時間も増え……。
会えない時間、お互いに頑張ろと励まし合えるようになりました!
お読みいただき、ありがとうございます!
完結のお知らせです。
日間ヒューマンドラマ文芸ランキング2位☆感涙(7/20)
『皇妃の夜伽の身代わりに
~亡国の王女は仇である皇帝の秘密を知る~』
異世界恋愛の話ですが、心の葛藤をしっかり描いたので
ヒューマンドラマです。
・中盤は怒涛の展開、終盤で全伏線の回収。
・きっちり断罪もあり、ハッピーエンド!
16話の公爵令嬢あたりから真骨頂になっていきます。
ぜひぜひ読んでみてください。
ページ下部にリンクバナー(4個目)ございますので
何卒よろしくお願いいたします!














