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転生したらモブだった!異世界で恋愛相談カフェを始めました  作者: 一番星キラリ@受賞作発売中:商業ノベル&漫画化進行中
 

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【番外編】趣味に没頭したい令息のBefore→After

物語の終盤はこの曲を!

『愛がすべて』(スタイリスティックス)の

オープニング・メロディーをぜひ思い浮かべてください!

 懐中時計。


 あれは時をただ刻むだけのものではない。

 人間の英知が詰まっていると思う。


 最初にぼくが懐中時計に目覚めることになったきっかけ。

 それは父親の懐中時計を壊してしまった時のことだ。


 父親の書斎に勝手に入ってはいけない。

 それは物心ついた時から、両親はもちろん、ヘッドバトラーやメイド長からも言われていることだった。


 理解はしている。


 でも子供だ。

 兄弟とかくれんぼうで遊んでいる時。

 どうしても鬼に見つかりたくない。

 兄弟をぎゃふんと言わせたい。

 そんな思いで隠れ場を探した時。

 書斎は格好の隠れ場だった。

 何せ近づくことを許されていない。

 よってそこに隠れているなんて……。

 兄弟の誰一人として想像がつかないだろう。

 きっと見つけることができず、ぼくの勝利だ。


 こうして幼いぼくは、父親の書斎に隠れることにした。


 父親は書斎で普段、仕事をしているわけではない。

 使われるのは週末。文官としての仕事が休みの時だ。

 主に読書のために使っているのだと思う。


 部屋に入ると、深緑色の毛足の長い絨毯がしかれ、マホガニー材の重厚な机と椅子が見える。その左右には蔵書が詰まった本棚。レースのカーテンが引かれ、午後の陽射しが緩く机と椅子を照らしている。


 この部屋で隠れることができるのは、椅子をずらした机の下だ。


 小走りで机へ向かう。


 何度か父親と一緒に入ったことがあった。

 本棚にある本。

 そこには父親が少年時代に読んでいた本も含まれている。

 その何冊かを借りるため、書斎に入れてもらったことがあったのだ。

 チラッと本棚を見ると、その時借りた本がちゃんとおさまっている。

 父親は古い物をとても大切にする人だった。


 椅子をどかし、机の下に潜り込もうとした時。


 机の上に置かれているチェーンのついた丸い金属を発見した。

 アンティークゴールドの蓋の部分には繊細な模様が浮き彫りにされている。

 宝石も埋め込まれ、高級な宝飾品のように思えた。


 机とぼくの身長は同じくらい。

 手を伸ばし、ギリギリの位置にそれはあった。


「うんっ」


 なんとか指が届き、中指を前後に必死に動かす。

 人差し指と薬指も金属に触れた。

 そこで三本の指をさらに慌ただしく動かし、その宝飾品を手繰り寄せる。


「取れた!」


 手に入れたそれが何なのか分からず、でも突起を押すと、パカッと蓋が開く。


「わあ」


 時計は、床に置かれた大きくのっぽなものしか知らなかった。

 つまり置時計。

 その時のぼくはまだ、懐中時計の存在を知らない。

 手の平に収まる時計を初めて見て、感動していた。


「おい、待てよ! 追いかけっこじゃないんだ。もうお前は見つけたんだよ!」


 兄の声と、廊下を走る大きなバタバタという音にぼくは飛び上がり、懐中時計を落としてしまう。

 だが毛足の長い絨毯が敷かれている。

 懐中時計は落ちても壊れることがなかった。

 だが。

 慌てて拾おうとして、懐中時計を蹴っ飛ばしてしまった。

 それは本棚に激突し、分解されてしまう。


 大変なことをしてしまった。


 父親にバレないよう、直さないといけない。


 そう、これがきっかけで、ぼくは懐中時計の組み立てに興味を持つようになる。

 ただ、この時のぼくは子供で、懐中時計のことがよく分かっていない。

 ゆえに組み立てなおすことができず、結局父親から怒られた。

 でも「自分で直そうと思った!」と言うと父親は驚き、「懐中時計は最低でも100個、多い物だと千個近い部品からできている。そんなものを組み立て直すことができると思うのか?」とぼくに聞いた。


 ぼくは「できると思う!」と言い、そこからだ。

 懐中時計を分解し、メモを取り、組み立て直すことを始めたのは。

 時間がかかるし、集中力もいる。

 だが楽しい。

 完成し、時を刻み始めた時の感動は、ひとしおだ。

 この楽しい時間を邪魔されたくない。


 だがぼくも大人になり、貴族の令息として婚約者ができた。

 その婚約者に時間を使う必要がでてきたのだ。

 婚約者と一緒に庭園を散歩したり、舞踏会へ行ったり、オペラを観劇したり……。

 そういうことに時間を取られるのが、すごく嫌だと思ってしまう。

 婚約者自体は嫌いではない。

 おしとやかで落ち着いた性格で、なかなかの美人だ。

 ただ、食事をするなら、それが終わったら解散したい。

 食後に散歩をする時間があるなら、懐中時計をいじりたい。

 そんな気持ちが高まる。

 そこで偶然見かけたのがショップカードというものだ。

 この時、それがショップカードと分からず、メッセージカードかと思った。

 ともかくそれは、パブリック・ハウスで飲んで帰って来た兄の上着に入っていた。

 メイドが気づき、兄の部屋に届けようとしているのに遭遇したぼくは、それを預かることになる。


 そして「恋愛相談カフェ『キャンディタフト』」という文字が目に飛び込んでくる。

 恋愛相談カフェ……?


 それがきっかけだ。


 カフェに足を運び、ぼくは女性店員に今の悩みを打ち明けた。

 婚約者ができ、懐中時計の組み立てに時間をとれないことを嘆いたのだ。


 その結果、その店員は実に有意義なアドバイスをくれた。

 そしてぼくはそのアドバイスを基づき、婚約者と話をすることになった。

 最初は、懐中時計の組み立てという趣味を彼女が理解してくれるのかと思ったが……。


「そういった細かい作業ができるのは、才能だと思います。時間と集中力が必要なことも理解いたしました。私はオペラを観るのが趣味なんです。こちらは時間とお金がかかります。興味のないことに時間とお金を使うのは、苦痛ですよね。私はオペラを観に行きますが、無理にお付き合いいただく必要はありません。これまでオペラの観劇の同伴で使っていた時間。それは懐中時計の作業時間に充ててください」


 婚約者はとても理解のある女性だった。


「ただ、私達は婚約しています。一切会わないのも……。それは義務としてもそうですが、私は……」


 そこで彼女は頬を赤らめこう言ったのだ。


「私はあなたのことをお慕いしています。ですから週に一度でもいいのでお会いしたいです」


 この時、ぼくの恋愛感情の時計が、初めて動き出した。


「勿論です。週に一度とは言わず、夕食は毎日一緒にとりたいぐらいです。その後、三十分くらいは散歩でもしましょう。それなら懐中時計の作業にも時間をとれます。むしろ毎日食事をするなら……もう早く結婚し、一緒に暮らしたいですね」


 不思議な変化だった。

 理解ある婚約者に、ぼくも何かしたいと思ったのだ。


 ◇


 懐中時計を組み立てる。


 これまではそれが目的だった。


 でも今は違う。

 組み立てた懐中時計。

 これは婚約者にプレゼントしよう。

 次に組み立てたら、それは彼女の父親にプレゼントしよう。

 それが完成したら――。


 ぼくの中で動き出した恋愛感情の時計。

 それは新たな目的を秘めた時間を、刻み続けている。

お読みいただき、ありがとうございます!


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