あったかい。
「ナタリーお嬢さん、一度落ち着こう」
「そ、そうですね」
落ち着く? 落ち着くなんて無理なのでは?
だって今、デグランに抱きしめられているのに。
いい香りがして、温かくて、頼りがいのある腕の中だと思った。私の体が、丁度よくおさまっている。背中をその両腕に包まれていると、守られているように感じた。
なんて特等席なのかしら。
胸がトクン、トクンと高鳴った。
「落ち着いた?」
「そ、そうですね」
「本当? 俺は全然落ち着かない」
「!?」
「なーんてな。蜂蜜入りホットミルク、飲むだろう、ナタリーお嬢さん?」
「は、はい。飲みたいです」
返事をするとデグランが、毛糸の帽子をかぶった私の頭にぽすっと手をのせた。
「じゃ、がんばって立ち上がろうか。俺から先に立つから、いい?」
「はい」
デグランの手が、それぞれ私の肩を掴み、自身の腕の中から離すようにする。一瞬、離れがたい気持ちになり、デグランを見上げると……。
突然、ぎゅっと抱きしめられ、ビックリしてしまう。
「ナタリーお嬢さん、その顔、反則だから。そんな顔をされたら、ほうっておけなくなるだろう。でもこのままだと俺のお尻はびしょびしょになる。それにナタリーお嬢さんの服も大変なことになる。だから……な?」
「そ、そうですよね。失礼しました」
もう心臓が止まるかと思った。
こんな風にぎゅっとされるの、心臓に悪い……ううん、本当は嬉しい。
その後、なんとかデグランが先に立ち上がった。
立ち上がったデグランが、私が立つのを手伝ってくれる。
そしてゆっくり池の外へ移動し、蜂蜜入りホットミルクを手に入れた。
ベンチに並んで座り、ゆっくり口に運ぶ蜂蜜入りホットミルクは、甘くてぽかぽかする。
「冷えてない? 大丈夫、ナタリーお嬢さん?」
そう言って手袋をはずしたデグランの手が、これまた手袋を外し、ミルクの入ったマグカップを持つ私の手を包み込む。
「温かい……」
「俺、体温高い男だから。いい湯たんぽになるよ」
「夏は大変そう」
「あ、それな」
デグランは手が温かいが、その腕の中もとても温かった。
スケートって、こんなに一緒に滑る人と、スキンシップができるものなのかな。それは嬉しい反面、それ以上を求められない私には少し切ない。でも今はそんなことは考えずに……。
このデグランの優しい温かさに包まれていたい。
◇
「出来立てだから、アツアツですね~」
「シンプルにただ焼いただけだから、栗本来の味を楽しめる。この甘さは火を通すことで、栗の中の糖分が引き出されているんだ」
「つまり、自然の甘みなんですね。外はカリッと香ばしく、中は柔らかく、より甘味を感じます。気に入りました!」
蜂蜜入りのホットミルクで体を温めた後。
グローブ(手袋)をつけたデグランと手をつなぎ、スケートを楽しんだ。前半と違い、後半はもう、滑ることに慣れていた。
一緒に並んで、ただ氷の上に滑っているだけなのに。なんてスケートは楽しいのだろう。
不思議と寒さは忘れ、風を清々しく感じ、後半の滑りを終えた。
スケート靴を脱ぎながら、蜂蜜入りのホットミルクを飲み、帰ることになった。帰り道が寂しい気持ちにならないのは、屋台のおかげ。デグランがかつて食べたという焼き栗に、まずは挑戦していた。クレープを包むような三角形の紙袋に入った焼き栗を、デグランと一緒にパクパクと食べる。
焼き栗の後は、クレープではなく、フライボールに挑戦。それは甘くていい香りのする、丸いドーナツのようなものだ。プレーン、レーズン入り、粉糖かけプレーン、蜂蜜かけプレーンと、バリエーションがいくつかある。私はレーズン入り、デグランはプレーンだ。
「まずはシンプルに、プレーンで味の見極めだ」とデグランは、ゴルフボールくらいのサイズのドーナツを頬張る。「美味しい!」とデグランの顔がほころぶ。私もレーズン入りのフライボールを頬張り、「美味しいです!」と笑顔になる。
フライボール、これはまさにドーナツ! 外側がカリッとして、中は意外にも、もっちりしている。
何より出来立てだから、美味しさが倍増!
屋台の料理やお菓子が美味しく感じてしまうのは、きっと出来立てであるというのも、その理由かもしれない。そして一緒に食べる相手が、気の置けない相手であるなら、より美味しく感じるのではないかしら?
「昼食をあんなにしっかりいただいたのに、焼き栗とフライボールのおかげで、食欲が刺激されてしまった気がするな」
「そうですね。これから街の中心部に戻ると、夕食には丁度いい時間かもしれません」
「なら当初予定通り、食事をして帰らないか、ナタリーお嬢さん?」
これには「はい、そうしましょう!」と応じている。
「では馬車へ戻ろう!」
そう言ってデグランが差し出してくれた手に、自分の手を重ねる。
やはりデグランの手は温かい。
胸をぽかぽかとさせながら、馬車へ戻った。














