彼の生き方
ポートランド一族に関わるとてもセンシティブな話を、部外者の私が聞いてしまって大丈夫なのか。無論、誰かにベラベラ話すつもりはないが、念のためで確認すると、こんな風にポートランド公爵から言われた。
「デグランが君を信頼し、君もデグランを信頼し、ここまでお互い来たんだ。そんなシルバーストーン伯爵令嬢が、悪人なわけがない。我々も君を信じ、打ち明けることにした」
これにはなんだかジーンとしてしまう。誰かに信頼してもらえるということは、自分の存在を認めてもらえたことでもある。とても……嬉しいことだ。
何の問題もなく、最初から最後まで和やかな雰囲気の中、昼食は終った。
◇
「デグラン、たまにでいいから、顔を出してくれ」
「母さんはデグランのお店に、足を運ばせてもらうわ」
「デグラン。今度、父さんと三人で狩りに行こう。マガンの狩猟シーズンだ」
「デグランお兄様、ボクも街を散策したいです。案内してください」
昼食を終え、帰ることになったデグランを、両親や兄弟は、エントランスで見送ることになった。皆、デグランとの別れを惜しんでいる。
デグランはポートランド家の一員として、貴族年鑑という、国が管理する貴族の系譜に加えられることになった。その手続きは、ポートランド公爵が進める。この手続きが完了したら、デグランの身分はポートランド公爵家の次男だ。紋章を利用できるし、公爵家として付与される優遇を、すべて享受できる。
でもデグランは、だからと言って、これまでの生活を変えるつもりはない。パブリック・ハウス「ザ シークレット」の経営を続け、二階の部屋で暮らし続ける。ただ、店休には家族と会い、お茶をしたり、食事をしたり、狩りへ行ったり、観劇したり。つまりは家族との時間も、過ごすようになるということ。
「「「「デグラン、シルバーストーン伯爵令嬢、気を付けて!」」」」
デグランが乗り込み、扉が閉まると、馬車はゆっくり動き出す。
ポートランド公爵夫妻と兄弟は、手を振り、声をあげ、見送ってくれる。ポートランド公爵夫人は、ハンカチで目元を拭う。末っ子のジークは、涙目で手を振っていた。
「デグラン様、良かったですね。皆さん、とても心優しく、フレンドリーで。いろいろな事情も止むに止まれぬものであったと分かったので、わだかまりもなく済んだのでは?」
対面の席に座るデグランは、太陽のような明るい笑顔で頷く。
「ナタリーお嬢さんと別行動になってから、もう借りてきた猫のようにおとなしくしていた。心臓はバクバクして、どうなるかと思ったよ。でも最終的に彼らは、俺の家族だと実感できた。何より、無理に屋敷へ住めとか、次男としての役目を果たせ、なんて言われてなくて、安堵したよ」
それは本当にそうだろう。これまでデグランは、貴族としての特権を享受することなく、自らの才能と能力のみで生きてきた。自身の手で作り上げた生活がある。そこでデグランが生きて行きたいというなら、それを尊重して欲しいと思った。そして実際にポートランド公爵は、デグランの生き方を認めてくれたのだ。
ポートランド公爵が、理解のある方でよかったと思う。
「でも前代未聞だと思いますよ。公爵家の次男が、パブリック・ハウスを経営し、昼はカフェでパンケーキを焼き、夜はお酒を提供しているなんて」
「ははは。伯爵令嬢なのに、街中で恋愛相談カフェなんてやっているナタリーお嬢さんに言われても、説得力がないな」
「それは確かに!」と笑うことになる。
そして私は尋ねた。
「本当は食事をする予定でしたよね? でも美味しい昼食をいただいてしまいました。これからどうします?」
「そうだな……。両親も兄弟も、俺には勿体ないくらい優しい人達だった。おかげでナタリーお嬢さんに、泣きつかずに済んだ。そして思いがけず、時間ができたよな。あ。ここからもう少し移動すると、アズーラ森林公園があるだろう? あそこは今くらいの時期から、スケートリンクがオープンするんだ。スケート、ナタリーお嬢さんはやったこと、ある?」
「やったことはないですが、聞いたことはあります。……私、できるかしら?」
前世で、フィギュアスケートを見るのは好きだったが、実際に滑ったことはなかった。そしてこの世界に、自然を活用したスケートリンク、つまり湖や池が凍ったものを利用し、スケートを楽しんでいることは知っていたけれど……。
挑戦したことはない。
デグランの言うアズーラ森林公園は、王都の中心部から少しはずれた場所にある。私の両親は、体を動かすのが大好き、というタイプではない。その結果、スケートは無縁で、ここまで成長してしまった。
「慣れないと、最初はグラグラするかもしれない。でも俺は割とスケート、好きだからな。大丈夫。食後のいい運動になるよ。アズーラ森林公園に行こう」
こうして思いがけず、デグランとスケートを楽しむことになった。















