転機
転機はここ最近、訪れた。
ポートランド公爵を脅していたマダムが亡くなったのだ。これでデグランを探し出させると思っていた矢先に、恋愛相談カフェ「キャンディタフト」の存在を知った。そこで思いがけず、デグランを見つけ出すことができたのだ。
デグランが宮廷料理人となった時、既にポートランド公爵は王宮を出ていた。しかも宮廷料理人として忙しい時間を送っていたデグランは、厨房に籠る時間が長い。たまにできた時間も、料理の研究のため、レストランに足を運ぶことが多かった。そのせいでポートランド公爵やその家族と偶然再会することもなく、時は流れていた。
今回、「キャンディタフト」を調べることで、下男はパンケーキを作るデグランを見ていた。そして「旦那様そっくりの容姿の男性が、パンケーキを作っていました」と報告したのだ。そこから「もしや……」となり、ポートランド公爵も離れた場所からデグランを眺め、自分の息子だと確認した。
すぐにデグランの経歴を調べさせ、兄である国王陛下とデグランに接点があることを知った。直接自分が動いてデグランに会いに行くことについて、ポートランド公爵は悩むことになる。デグランは「自分は捨てられた」と思っているはずだ。突然現れ、父親面をしたところで、警戒され、「帰ってくれ!」となる可能性はゼロではない。
そこで兄である国王陛下の協力を仰ぐため、過去の出来事を含め、ポートランド公爵は全てを打ち明けた。その上で、デグランと話す機会を作って欲しい、仲介をお願いしたいと、頼み込んだ。それを受け、国王陛下は「病気なので最期に会いたいと言えば、会ってもらえるのでは?」と提案し、そして現在に至っていた。
なお、デグランを迎えるにあたり、ポートランド公爵は妻にようやくすべてを打ち明けることになった。話を聞いたポートランド公爵夫人は、息子たちにもちゃんと話そうと、ポートランド公爵を説得する。
二人の息子は、そもそもデグランの存在を知らなかった。デグランについて話すことで、どんな反応を示すのか。それは容易には想像できない。それでもポートランド公爵夫人は、夫を説得した。
「あなたがそんな過去で苦しんでいたと知らず、妻として十分なサポートができなかったこと、申し訳なく思います。ただ、レナードとジークも心優しい子に育ってくれました。レナードは実は双子であり、弟がいたと知ったところで、『認めない!』なんてことは言いださないと思います。年齢的にも話を理解できると思いますから、二人に打ち明けましょう」
夫人の言葉にポートランド公爵は意を決し、二人の息子を呼び出し、全てを話したのだ。
これを聞いたレナードは、こんなことをポートランド公爵に話している。
「実は子どもの頃から、時々声が聞こえる気がしていたのです。『寂しい。会いたい』『俺のことを見つけて』って。双子なんて、僕にとっての半身のようなものです。ぜひ会いましょう。そして家族の一員として、迎えてあげようではないですか」
ジークはまだ十五歳になったばかりで、子どもっぽさが抜け切れていないが、やはり寄り添うような言葉を口にした。
「ボクはお兄さんが増えるのは嬉しいな。レナードお兄様のように優しい方だといいなぁ。勿論、仲良くするよ」
ポートランド公爵は、当初、自身と夫人とで、デグランに会うことを考えていた。しかしこれを聞いたことで、考えが変わる。つまり家族四人で、デグランを迎えることにしたのだ。そして実際に会った五人は……。
言うまでもない。
過去の遺恨などなかった。恐ろしい出来事により、デグランは家族と離れ離れになったに過ぎなかったのだ。父親であるポートランド公爵は、悪い方ではなかったし、兄弟もデグランに寄り添ってくれた。母親であるポートランド公爵夫人は、デグランを抱きしめ、号泣だった。
こうして邂逅の時が過ぎ、昼食となった時、デグランは少し困った表情になる。さらにメイド長がやってきて、ポートランド公爵夫人に耳打ちした。
そこで私の存在をポートランド公爵夫妻とその兄弟は、知ることになったのだ。
「なんと! 心配して付き添った、しかも伯爵家の令嬢を御者の待機部屋で待たせている!? それはダメだ。そんな失礼はあってはならないぞ」
「今からでも遅くないですから、一緒に昼食をとるよう、声をかけましょう。御者の方には別途昼食を出しますから」
ポートランド公爵夫妻がそう言えば、二人の兄弟も。
「デグラン、ダメだよ。令嬢の扱いについては、僕が教えてないといけないね。ちゃんと彼女をエスコートし、昼食に招かないと!」
「デグランお兄様のために付き添ってくださり、待ち続けてくださるなんて。そのご令嬢はとてもお優しい方ですね。ぜひお会いしたいです」
こうしている間にも、メイド長はすぐに指示を出し、私を呼びにメイドを走らせた。同時に厨房にも連絡し、昼食は六名でとることになったと伝えてくれたのだ。
おかげで私はダイニングルーム到着と同時に、ちゃんと用意された食事をいただくことができた。
バターたっぷりのサーモンのムニエルの後、バニラのアイスを添えたアップルタルトと紅茶が登場。それをいただく頃には、すべての話を聞き終えたのだけど……。
お読みいただき、ありがとうございます!
●お知らせ●
以下、作品、完結しました~
一気読み派の読者様、どうぞご覧くださいませ。
【表紙&挿絵は 蕗野冬 先生描き下ろし】
『運命の相手は私ではありません!~だから断る~』
https://ncode.syosetu.com/n5618iq/
気づけば読んでいた小説の世界に転生していた。
しかも名前すら作中に登場しない、呪いを解くことを生業とする、解呪師シャーリーなる人物に。さらにヒロインが解くはずの皇太子の呪いを、ひょんなことから解いてしまい、彼から熱烈プロポーズを受ける事態に!
この世界は、ヒロインと皇太子のハッピーエンドが正解。モブの私と皇太子が結ばれるなんて、小説の世界を正しく導こうとする見えざる抑止力、ストーリーの強制力で、私は消されてしまう!
そこで前世知識を総動員し、皇太子を全力で回避しようとするが……。
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