忘れられない
「そのパンケーキは、どこのお店で食べることができるのか?」と。
恋愛相談カフェ「キャンディタフト」。
初めて聞く店名だった。まずは下男を使い、下調べさせた。そしてあっさり場所を突き止め、かつデグランがパンケーキを作っていることを知ることになったのだ。
ポートランド公爵は、自身の息子であり、双子の弟デグランのことを、王族の慣習に従い、孤児院へ預けたと話していた。そして自分が病であり、余命いくばくもないことから、最期にデグランに会いたいと思った――そう語ったとなっていたが、これはすべて嘘。
なぜこんな嘘をつくことになったのかというと、本当のことを話すと、かなり不名誉だからだ。よって国王陛下とも話し、病気ということで会う機会を設けたという。
一体これはどういうことなのか。
ポートランド公爵は若い頃、まだ王宮で暮らしていた時。美少年として知られていた。そしてその美しさゆえに、なんと少年の頃、とあるマダムに襲われそうになったことがあったのだ。両親に報告するか悩んだが、そんな目に遭いかけたことへの羞恥が勝り、打ち明けることができなかった。
代わりにポートランド公爵は、そのマダムに二度と襲われないようにするため、ガードを固くした。マダムはしばらくポートランド公爵の周囲をうかがっていたが、新たなターゲットを見つけたのか、その姿を見かけることはなくなった。
こうして時が流れ、ポートランド公爵は婚約し、結婚。王宮を離れたのだが……。
新婚生活を始めると、ポートランド公爵の屋敷の周辺で、不審な出来事が起き始める。血の付いた女性もののハンカチが発見されたり、恋文のような手紙が発見されたり。でも結婚したばかりのポートランド公爵は、それを気にも留めていなかった。
ところが……。
双子の赤ん坊が生まれた時、屋敷に不審者が侵入し、デグランを攫ったのだ。その不審者こそ、メイドに変装した、あのポートランド公爵を襲ったマダムだった。
マダムはどうやらポートランド公爵に強く執着していたようで、どうしても彼を諦めきれなかったのだ。あの時、あともう少しだったこともあり、マダムの中でポートランド公爵は、鮮烈に印象づけられていた。人は未完の出来事に対して、強い執着を持ちやすい。それは実らない初恋が、いつまでも忘れられないように。
ついぞ結婚し、子どもまでもうけたポートランド公爵に対し、マダムの彼への気持ちは愛憎へと変わる。そして凶行へと走ってしまう。つまりデグランを連れ去ったのだ。その上でマダムは、ポートランド公爵に、こんな恐ろしい手紙を送りつけたのだ。
――「赤ん坊は孤児院に預けた。取り戻したり、犯人が私であると告げたりすれば、あの時の出来事をニュースペーパーに暴露する。そうなれば新妻も国王陛下も国民も、お前の恥を全て知ることになるだろう。それでもよければ、赤ん坊を取り戻すがいい」
ポートランド公爵は、自身が恥をさらすことは厭わなかった。だが妻やその実家、兄である国王陛下の顔に泥を塗るようなことはしたくなかった。そこで妻には、王族に伝わる双子に対する慣習に従い、デグランを孤児院に預けることにした。もし連れ戻せば隣国の孤児院に入れる。それでも取り戻すことを考えるなら、手に掛けるしかないと告げることになった。
公爵となったものの、ポートランド公爵は、元は王族。ここで刃向かうことで、ポートランド公爵夫人の親族がどんな目にあうかは、分からない。それにこの件が公になれば、大問題になる。様々な人への影響を考え、泣く泣くポートランド公爵夫人は、デグランを諦めることになった。
この国、というかこの世界では、離婚は推奨されていない。しかも元王族との離婚はいろいろな意味で難しかった。しかも双子の兄レナードは、攫われずに済んでいる。レナードの子育てに心血を注ぐことで、ポートランド公爵夫人は、自身の傷ついた心をなんとかなぐさめた。ポートランド公爵も、デグランの件以外では、一切問題のない夫であり、父親だった。
こうして時は流れる。
夫婦仲は円満とは言い難いが、破綻はしていない。親族の助言もあり、レナードの弟となるジークも誕生している。二人の兄弟の親として、また家族の絆は失いたくないと、ポートランド公爵夫妻は、お互いに言葉に出さずとも頑張り続けていた。
転機はここ最近、訪れた。














