良かったら……
「ナタリーお嬢様、大丈夫ですか?」
ロゼッタがのぞきこむようにするので「大丈夫、大丈夫」と笑い、そして伝える。これは前世経験を踏まえてのことだ。
「片想いしていた相手と上手くいかなかった時、不意に現れた男性が素敵に見えてしまったのか。それとも本当に素敵なのか。それはデートを重ねることで、分かるようになると思います。すぐに判断する必要はないので、まずは一度目のデートを楽しむといいと思いますよ」
これを聞いたロゼッタの顔がぱぁぁぁぁぁと輝く。
「ナタリーお嬢様の恋愛アドバイス、ためになるぅ~~!」
「ただ、大切なことは、人間、粗はあるもの。人として譲れないところを除き、減点方式で見るのは止めた方がいいと思うわ。それをすると、気づいたら独りぼっちだった、になってしまうから。何より、生まれも育ちも違う二人。その二人が結婚したら……習慣の違いや価値観の違いでぶつかることは、あることだから」
結婚して上手くいかなる原因。それは相手のことを、減点方式で見てしまうことに起因すると言っても、過言ではない。結婚した時がピークで、満点。以後の新婚生活で粗が目につき、引き算していく。そうなるともう……最終的には持ち点ゼロで、離婚したい!になってしまう。
「加点方式で見て行くと、気持ちが楽になると思うわ。それは恋愛だけではなく、人生全般においてもそうよね。長く良好な関係を続けたいなら、相手のいいところに目を向けて、気になるところは話し合いで解決していくのがいいと思うわ。当事者同士で解決しない時は、第三者の手も借りてね」
「ナタリーお嬢様、なんだか深いです。でも……ほら、ルグス様とはまだ何も始まっていないですし、それにそもそも結婚までは無理かなぁって。何せルグス様は、実家が男爵家だと言うし」
そうだった……!
身分の壁はここにもあったのだ。
ロゼッタとルグス。
ただ、例えば伯爵令嬢である私が、爵位のない男性と結婚するのに比べたら、まだロゼッタには可能性がある。まずルグスが嫡男でないことが大前提。次に心からロゼッタを好きであれば、家族の反対を押し切ることもできると思うのだ。
この世界では、前世のような男女平等ではないから、令嬢が押し切るのは無理でも、令息が押し切ることは、まだ可能だった。それに家族が反対しても、親族や友人、同僚騎士からの応援を得ることで、家族の説得はできなくもない。
伯爵令嬢が、爵位のない男性と結婚すれば、伯爵令嬢という地位を失う。だが男爵家の次男や三男は、どのみち嫡男のいない貴族の令嬢と、婿養子として結婚でもしない限り、爵位を維持できない。そしてそんなうまい話はそうそうあるわけではない。どの道、爵位は長男が継ぎ、次男は維持できないのだ。結婚相手の身分は貴族が好ましいだろうが、いざとなれば、貴族ではなくても……という考えもあるわけだ。
それにどうしてもとなれば、駆け落ち、とまではいかなくても、結婚して地方で暮らすことだって、できるのではないか。孫ができ、両親に会いに行ったら、意外とそこで許してくれるかもしれない。
つまり私より……ううん、私のことはいいわ。
とにかくロゼッタは可能性がゼロではないと思う――ということはちゃんと伝えた。
「ありがとうございます、ナタリーお嬢様。立ち話でこんなにアドバイスしてもらって、申し訳ないです。今さらですが、お茶でも飲みます?」
「ううん。大丈夫よ。既に馬車も待っていると思うから、もう帰るわね」
こうして私はロゼッタと別れ、屋敷へ戻ることになった。
◇
翌日。
襟や袖はココア色、身頃に同色のくるみボタン。全体はチェリーピンクのワンピースに、クリーム色のショールを羽織り、屋敷を出た。
バートンは二日酔いで、何か粗相があるといけないと、今日はカフェに手伝いにくることはない。それを教えてくれたのはデグランだ。昨晩、バートンがそんなに飲んだのなら、デグランも二日酔いではないのか。そう思ったが、デグランにその気配はない。
いつも通りのデニム風シャツに、髪色と同じアッシュブラウンのズボン、そしてエプロンをつけ、普通に元気そうだ。
ロゼッタは、兄のもしもに備えるため、今日はカフェに来ることはできないということで、デグランと二人で回すことになった。
元々、恋愛相談担当一人、パンケーキ担当一人が必要と思っていたので、二人で回すことに問題はない。ということで開店準備をデグランと二人で行っていると、デグランはこんなことを私に尋ねた。
「なあ、ナタリーお嬢さん。恋愛相談カフェ『キャンディタフト』はさ、オープンしてからずっと店休をとっていないって、自覚できているか?」
カウンターテーブルを拭いていた私は動きを止め、デグランのこの言葉にはハッとすることになる。そう言えば、無我夢中で店を回し、店休をとることを考えていなかった。
カフェを営業すると言っても、午後の限られた時間だ。
オペラや演劇だって、カフェの営業を終えてからでも観に行ける。そうなると無理に休みをとる必要もないと思っていたが……。
私はそれでもいい。
だが私に一応雇用されている身のデグランは……。
そうだ。
実の父親にも会いに行きたいはず。
宮殿に行った時のように、「明日、休んでもいいか」でも全然構わないが、店休と分かれば気持ちも楽なはずだ。
これまで自由気ままにしていただろうに、デグランはそれがなくなっている。その上で店休までもがない。随分、窮屈な思いをさせてしまったのではないだろうか。申し訳ないことをしてしまった……。
「デグラン様。店休とっていないこと、教えていただき、ありがとうございます。今後は、毎週月曜日に、お店を休もうと思います!」
「いいと思う。俺は日曜日の夜を店休にこれまでしていたわけだが……なんだかんだで開けていると、日曜日にも人が来るからな。『ザ シークレット』も月曜日を店休にする。それで今日は金曜日だろう」
そこでデグランはティーアーンをカウンターテーブルに置くと、私を見て、ニカッと笑う。
「俺、月曜日に親父に会いに行ってみるよ」
「! ぜひそうしてください」
即答し、カウンターに入ろうとする私に、デグランがさらに声をかける。
「……そのさ、もし月曜日、良かったら、俺と……食事でもしないか?」
お読みいただき、ありがとうございます!
冒頭十行程が抜け落ちていました(汗)
丸ごと一話落としたかともう焦りました(T-T*)
急ぎ追加しました。
「?」となってしまった読者様、本当にごめんなさい。














