デート?
あんなに明るく朗らかなデグランの孤児院での子供時代。きっとバートンとロゼッタと知り合えたことは、デグランにとって大きな意味があったと思う。
「デグランってきっと、結婚したら奥さんのことを溺愛で、子どもが出来たらベタ惚れしそうだと思います。家族思いですごく大切にしてくれそう。きっと、ううん、絶対。ぜーったい幸せになれますから、ね」
いきなりロゼッタにこんな風に振られ、「そ、そうね」と私は答えるしかない。そんな私にロゼッタは謎解きのように呟く。
「あ、そうか。だからデグランは……そうよね。そうなれば障害はなくなるから。なるほど、なるほど」
「ど、どうしたの? ロゼッタ?」
「秘密です! ただデグランが出生の秘密が解明し、幸せになるための道筋ができたんだと思いました!」
「?????」
その後、それは何であるかと尋ねてもロゼッタは教えてくれない。そうしているうちにも画材屋が見える通りまで来ていた。
「ところでロゼッタは、ルグス様からお誘いを受けていたわよね? 二人きりで……デート?」
私の言葉にロゼッタの顔が、瞬時に赤くなっているのが感じられる。街灯はあるが、この世界の夜は、前世程明るくない。それでも表情からも、赤いと分かる。
「そ、それは……。デートなんて大袈裟な。……。……でも、うーん。そうですかね。デート。まだ分からないんですよ!」
ロゼッタは両頬に手を当て、ぶるぶると顔を振る。
明らかに照れている状態だ。
「ルグス様はなんというか私のことを、まるで貴族の令嬢みたいに扱ってくれるんです。私の周りにいる男性とは、全然違うんですよ。だからいつものノリで接することができているようで、できていないくて……。ものすごく今、意識しています」
「なるほど。アレン様もそうだけど、騎士の方は特にレディを敬うから」
「そう、そうなんですよ、そのレディ! 私なんかのことを“レディ”と言って敬ってくれて、もうその間、ものすごくドキドキしちゃって……」
なるほど。なんとなくロゼッタが言わんとすることが分かる。
日本人女性が欧米人の男性にレディファーストやチークキス、ハグをした時に、ドキドキしちゃうのと同じだと思う。そんなこと慣れていないから、とても意識してしまうのだ。
「でもきっとそのうち慣れるわよ、レディと呼ばれることも」
「騎士なんて、貴族の令息がなるものですよね。でも騎士の知り合いなんていないから……。画材屋に騎士が来るなんて、あったのかなぁ? 来たとしても私服だろうから、分からなかったと思うのですけど……。でもどうなんでしょう。騎士ってみんな、あんな感じなんですか? 誰に対しても」
「基本的に騎士道精神にのっとり、女性や子ども、老人を敬う心がけはしていると思うわ。ただ、観劇のお誘い。それは誰に対してもするわけはないと思うわよ。気になる女性だからこそ、声をかけるのでは?」
そこで画材屋の前に到着した。ロゼッタは「はあ」とため息をつき、夜空を見上げる。まだ家に入るつもりはなく、話したそうな様子だ。
「私、ず~っと片想いをしていたんですよ。それなのに突然現れたルグス様は、ひょいっと私の心の中に入り込んできたんです。ものすごくピュアで真っすぐだから……」
この言葉には「もしや」という思いが浮かぶ。
オータムフェスティバルでも感じていた。ロゼッタはデグランのことが好きなのではないかと。
「ねえ、ロゼッタ、どうして片想いなの? なんで告白しないのかしら?」
「うーん。それは私がこの性格だから。仲良くできても、異性として見られていないのが分かるというか。それにもし私が告白して、OKならいいですよ。でもNOだったら、そこから絶対気まずくなりますよね? 表面的にはお互い、何事もないことにしよう、となっても。ぎくしゃくしちゃいそうで……」
「つまり、今の関係性を壊したくなかったのね」
ロゼッタは「そうです」と頷く。
確かに今のロゼッタとデグランは兄妹みたいで、とてもいい関係だと思う。気兼ねなく話せて、笑い合うことができて。……幼なじみで相手のことがよく分かっていて、身分を気にする必要もないのに。それでも恋は実らないのか。
違うわね。近すぎてもダメなんだ。突然、異性として意識して、結果的に両想いならいい。異性として意識して、でも恋愛に発展することがなかった時、確かに一緒にいることは辛くなる。
「迷っていたんですよ。片想いしている相手はどうやら別に気になる女性ができたようだし。私のつけいる隙はないなーとまさに思っていたところに、ルグス様が現れたから」
デグランには別に好きな女性が……いるんだ。
そっか。そうなんだ。
……。
ううん、何を気にしているの、私。
ロゼッタが別の男性に気持ちが向かったとしても、身分的に無理なんだから。
違う、違う。私は別に彼のことを……。














