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転生したらモブだった!異世界で恋愛相談カフェを始めました  作者: 一番星キラリ@受賞作発売中:商業ノベル&漫画化進行中
 

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当たり前への憧れ

 バートンとロゼッタを見るが、二人ともすっかりその件を忘れている気がする。でもさっき「俺には『ザ シークレット』もある」と言っていたのだ。宮廷料理人に戻るつもりはないと思う。


 ないと思うが、国王陛下との謁見は、本当に出生の件だけだったのだろうか? 少なくとも国王陛下はせっかくデグランと対面で会ったのだ。シェフとして戻って来る気持ちがないか、尋ねたのでは……?


 考えながら、ワインを一気に半分以上飲んでしまった。お酒で酔いも回り、勢いが……ついた気がする。


「デグラン様!」


「うん、ナタリーお嬢さん、なんか頬が少し赤いような?」


「そんなことはない……ことはないかもしれません。でも今、それはいいです」


 デグランはグラスに水を入れながら「それで、どうした?」と尋ねる。私はデグランから水の入ったグラスを受け取りながら、問われたことの答えを返す。


「宮廷料理人に戻る気持ちはあるのですか? 国王陛下に会ったら、戻って来いって、言われたんじゃないのですか?」


 これにはロゼッタが「あっ」と私を見て、バートンも「!」という顔をしている。


「まあ、それは挨拶みたいな感じで言われたよ。でも戻るつもりはない。俺はもう、自分の居場所を見つけた。それは『ザ シークレット』(ここ)だ」


「本当に? ずっとここに一緒にいてくれます?」


 デグランの顔が、分かりやすく赤くなった。


 どうして? なぜ今、赤くなる必要が?

 少し上目遣いだったのが、怖かったのかしら?


「……いるよ。俺はいつでもここにいるから。余計な心配はするな」


 そこで私がホッとした表情になると、デグランは「でも」と不穏な言葉を挟む。ドキッとして「何ですか!?」と問うと……。


「宮殿に戻るつもりはないけど、たまにでいいから料理を作ってくれ、と頼まれたから……。ずっとお断りしていたが、今回、俺と親父をつなぐ仲介者になってくれたんだ、国王陛下は。恩には報いないといけない。何回かは出張で、料理を作りに行くことはあるかもしれない」


 それぐらいならいいのではないか。王妃殿下なんて、こんな切なくなることを言っていたのだから。

 ――「でもフルーツたっぷりのサングリアがあって、あれをフルーツ入りで頂いた時……。彼が作ってくれたフルーツポンチというデザートを思い出し、陛下と涙したわ」


 うん。一国の王妃に、こんなことを言わせてはダメよ、デグラン!


「たまに料理を出張で作りに行くのは、いいと思います」


 私がそう答えると、ロゼッタも同意を示し、こんなことを言いだす。


「……もしかしたら今回みたいな高級食材だって、もらえるかもしれないよね!」


「ははは。でもそうだな。今度はキャビアでもせしめてくるか」


「キャビア? 何、それ? 美味しいの?」


 キャビア! これまた高級食材で、貴族であっても、そう簡単に食べられるものではない。でも宮殿なら、キャビアだって砂糖だってなんだってあるだろう!


「さて、そろそろ時間だ。今日はここまで!」


 デグランの声で、皆、帰る準備を始める。


 バートンはこのまま飲んでいくと言うので、私はロゼッタを画材屋まで送ることにした。


 いつものパブリック・ハウスが並ぶ通りを歩いていると、デグランのお店へと向かう常連さんとすれ違う。カフェにも足を運んでくれているお客さんなので、ロゼッタと二人、挨拶をする。


 彼らとの距離ができると、ロゼッタが両腕を気持ちよさそうに伸ばしながら呟く。


「あー、デグラン、宮廷料理人に戻るんじゃなくてよかったです~」


「本当にね。でもまさか出生の謎が解けると思わなかったわ」


「そうですね。……今日改めて、デグラン、家族が欲しいと思っていたんだって、実感することになりました」


 これにはどういうことなのかと尋ねると、ロゼッタは夜空を見上げながら、話し出す。


「デグランと知り合ったのは、孤児院で行われたバザーだったんです。最初はいろいろありましたが、意気投合した後は、デグランはよくうちに来るようになって」


 知り合いがいたのだろう。ロゼッタが手を振ると、パブリック・ハウスのテラス席で飲んでいる男性が手を振った。


「デグランはうちに遊びに来ては、おやつをよく食べていたんですけど……。母親が『ほら、こぼれるわよ』とか『落ち着いて食べなさいよ』とか私に言うのを、当時はうざったく思っていたんです。その時、デグランが何とも言えない表情で、私と母親のことを見ていて……」


 その表情を見て、ロゼッタはふと「デグランもしかして、お母さんが恋しいの?」と聞いたのだと言う。


 母親が恋しいのかと尋ねられたデグランは、「そんなことないよ。そもそも母親の顔なんて覚えていないし」と答えた。それを聞いたロゼッタはハッとする。「そっか」となり、以降、両親の話をデグランにふることはない。デグランもあの時のような表情を、ロゼッタの前ですることはなくなった。


「デグランは孤児院に預けられた時、まだ赤ん坊だった。だから物心がついても、母親がどんな存在か。父親がどんなものなのか。兄弟姉妹がいるってどんな感じなのか。全く分からなかったと思うんですよね。それでもきっと、当たり前に家族がいる人を見て、いろいろ感じていたのでしょう。でもあの通りの性格なので、『寂しい』とか『悲しい』とか絶対に口にしないから……」


 ロゼッタのこの言葉に、再び胸がキュッと苦しくなる。

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