じゃーん!これぞ超高級食材!
閉店ギリギリセーフに間に合った形で来店したのは……悪役令嬢ニコール!
その姿は王立サンフラワー学園の制服姿だ。学校帰りに大急ぎで駆け付けてくれたのだろう。馬車から降り、そこからダッシュで来てくれた。
扉のそばで息を切らすニコールに、グラスに入った水を差し出す。
「ありがとうございます」
律儀に答えたニコールはゴクゴクと水を飲む。
落ち着いたところで席へと案内した。
チラッとデグランを見ると、既にパンケーキを作り始めてくれている。
これなら閉店時間までにパンケーキを食べ、帰宅できるだろう。
「閉店時間が近いのに、すみません!」
「いえいえ、大丈夫ですよ。パンケーキをお出しするつもりですが、召し上がる時間は?」
「あります!」
ニコールのアメシストのような瞳がキラキラと輝く。
そして既に漂うパンケーキの甘い香りに気づき、笑顔に変わる。
再びお水を出しながら、「慌てていらしたということは、何かお話しになりたいことがあるのですか?」とニコールに尋ねる。彼女はグラスに自身の指を添え、頬を上気させて頷く。
「以前相談していた、つい私が嫌がらせをしてしまっていた令嬢から、今日のお昼に呼び出されたのです。そこで一緒にランチを食べることになったのですが……。驚きました。彼女、私の婚約者と別れると言ってくれたんです! しかも既に私の婚約者には、別れるつもりだと話したと言われて……とてもビックリしました」
これには思わず、「そうなのですね!」と頬が緩む。
セーラが善性に目覚めたような気がするし、これでニコールも救われるのでは!?
「しかも彼女、私がいろいろ努力していることを認めてくれて……。尊敬するとまで言ってくれたのです。さらに私みたいに向上心が強い女性を目指すとまで言ってくれて……驚いてしまいましたが、とても嬉しかったです。ただ私、そこまでの人間ではなく、がむしゃらにやっているだけに過ぎないのですが……」
「そんなことはありませんよ。マルティネス侯爵令嬢が今、懸命に頑張っていること。それは誰もが同じようにできるわけではないと思うのです。きっとその令嬢は、それを実感されたのだと思います。ご自分のことを卑下される必要はありませんよ」
ニコールは「ありがとうございます……!」と目を潤ませる。
泣きそうになるのを堪えたニコールは「実はこの後、婚約者とその両親と夕食をとることになっているんです」と言うので、まさに焼き立てのパンケーキを運んでくれたデグランと私は「「えええええ」」と驚くことになる。
「パンケーキはいただきます! どう考えても私、今日のその夕食会は緊張して、食事が喉を通らない気がするのです。よってリラックスしている今、パンケーキをいただいてしまいます!」
「なるほど。では夕食会の時間もあると思うので、食べることに集中してくださいね」
「はい! ありがとうございます!」
笑顔のニコールがナイフとフォークを手に取った。
その姿を見て、私は思う。
あとはジョシュ次第ね、と。
きっと夕食会では、ジョシュは両親からも説得されることになる。しかもセーラからは既に別れも宣告されているのだ。ジョシュが浮気を謝罪し、ニコールと元さやに戻ってくれればいいのに。
ニコールがペロッとパンケーキを食べ終えた後、少しだけ会話し、そして彼女は宮殿へ向かうため、店を出て行った。時計を見ると、もう間もなく閉店時間が近い。
カラン、コロンの音に驚いて扉の方を見る。お客さんかと思いきや、バートンだった。明るいグリーンの上衣とズボンに茶色のベストのバートンは、こんなことを言う。
「今日のまかないは、トリュフのせのスクランブルエッグだって聞いたから、これは来ないといけないと思った」
バートンの言葉に、ロゼッタと私が「!」となりデグランを見る。
するとデグランは「ちょっと待ってろ」と言い、二階の自身の部屋へと向かった。
「ロゼッタ、トリュフの件、聞いていないわよね?」
「聞いてないですよ~。今日、手伝いに来ていたから、食いっぱぐれないですみそうですけど……お兄ちゃんにしか話していないなんて、ずるーい!」
「まあまあ、これには理由があるんだよ」
バートンがロゼッタを宥めたところで、デグランが木箱を手に、カウンターの中へ戻ってきた。カウンター越しにデグランとロゼッタ。カウンターの中には私。そこでデグランは木箱に取り付けられた金具を開ける。箱の蓋に描かれた紋章って……。
王家の紋章!
「じゃーん、これが白トリュフと言われるものだ。お高くて庶民には手が届かない。しかも採取した瞬間から鮮度が落ちるからな。この超高級な白トリュフを、このまかないで食べきるぞ!」
これにはデグラン以外の三人で驚き、そして「「「わーい」」」だった。
「わーい」とバートンやロゼッタと共に言っているが、私の心中は穏やかではない。なぜなら間違いなく、宮殿へ出向き、そしてお土産なのか、前職場の同僚からプレゼントされたのか。とにかく王家の紋章が刻印された箱に入った白トリュフなんて、一般人が手に入れることができるものではない。それを持っているのだから……。
やはりデグランは、宮廷料理人に戻るつもりなのか。
「わあ~。卵とバターが焼ける香りもいいけど、白トリュフの香りもたまらない~。食欲をそそるー!」
ロゼッタの声に我に返る。一方のデグランはいつもの調子で応じている。そしてバートンと私に声をかける。














