父親の言葉
そんな風に考えているうちに応接室に着き、両親と向き合うことになる。
父親は黒グレーのスーツ姿。母親はオールドローズ色のドレス姿。
この様子から二人とも、今日は舞踏会や晩餐会に足を運んだわけではないようだ。
メイドが紅茶とクッキーを置き、応接室から出て行ったのだけど。
クッキーはなんと今朝私が焼いたものだった。
使用人のみんなで食べてと、毎日まとまった量を渡していたのだ。
食べ飽きないように、クッキーの味は毎日変えている。
今日はバターたっぷりのサブレで、出してくれたメイドも大好きだと言っていたはず。
もしや口先だけだった……なんてことはない。
この離れについてきてくれたのは、両親に睨まれても、私の世話をしたいと考えてくれた使用人だ。申し訳ない気持ちもあり、両親とは別に、私からも毎月少しだけ給金も渡している。
そうなるとこのクッキーを出したのは……。
せっかくだから両親に、手作りクッキーを食べさせてみては、ということなのかもしれない。
考え込む私に父親が声をかけた。
「ナタリー、すまなかった」
いろいろと考え込んでいる私に、父親が最初に言った言葉。
それが謝罪だったので、固まってしまう。
「あなたの気持ちに寄り添えなくて、悪かったわ」
母親も父親に追随するような言葉を口にするので、驚愕してしまう。
一体全体急に、どうしたのか!?
「今日、急に王妃殿下に呼び出された。驚いたよ。国王陛下ではなく王妃殿下だ。そうしたら王妃殿下は、ナタリーがやっているカフェに行ってきたと話してくださった。しかもそこでナタリーが作ったパンケーキが、心がこもった温かい味わいだったと言われ、『当然、召し上がったことがあるのですよね?』と問われ……」
そこで父親が頭を下げた。
「厨房にこれまで立ったことがなかった娘が、ゼロから菓子作りを覚え、店を始めた。そのことに薄々気づいていたが、何も言わなかった。……縁談話の件で、ナタリーとは気まずくなってしまい、それを修復しようとするどころか……悪化させるようなことばかりしてしまった。本当にすまない」
「『頑張って、ナタリー』の一言も伝えることができないなんて。親失格よね。本当にごめんなさい。ただ王妃殿下を喜ばせる程のパンケーキを出せるなんて。それはすごいことよ。よくやったわ、ナタリー」
なるほど。
王妃が口添えしてくれたのね。
つまらない親子喧嘩はやめて、仲直りしなさいと。
「お父様、お母様、勝手を言い出したのは私です。シルバーストーン一族の一人に生まれたのですから、果たすべく責務があるのに、それを放棄しようしたのは私ですから……ごめんなさい」
ここは私も素直に謝ろうという気持ちになっていた。
せっかく王妃が取り持ってくれたのだから。
「顔をあげるんだ、ナタリー。もうお互いに謝罪をした。これまでの件は水に流そう」
「そうよ、ナタリー。もうね、お父さんも縁談話をあなたにしないと決めたのよ。ナタリーから『結婚相手を探して欲しい』と言われるまで、何もしないわ」
「本当ですか!?」
これには驚き、下げていた頭をすぐあげてしまった。
でもまさか縁談話をもうしないなんて!
「ああ、母さんが言うことは本当だ。どうも父さんは目先の利益ばかりになってしまい、いい縁談を見つけられない。もし頼まれても、仲介人を立て、見つけてもらうことにするよ」
「それにナタリーはこんなに頑張っているのだから。カフェには貴族のお客さんもいるのでしょう? そこに素敵な方がいるかもしれないじゃない」
恋愛相談カフェであることまでは、両親は把握していないようだ。
カフェのお客さんは恋愛で悩んでいる人たち。それすなわち、気になる相手がいたり、婚約者がいたりするわけで……。
そうではなくても、公私混同はできない。
お客さんとどうこうなることはない。
だが今、それを指摘する必要はないと思った。
「私の我が儘を聞いてくださり、ありがとうございます。将来的に結婚できるかどうか、それは分かりません。ですがお父様やお母様、お兄様やお姉様に迷惑をかけないで済むようにしますから」
そこでクッキーが乗ったお皿を手に持つ。
「これは私が今朝焼いたクッキーです。よかったら召し上がってみてください」
「なんと、ナタリーが」「まあ、美味しそうだわ」
両親は次々にクッキーをとり、口へ運ぶ。
サクッ、サクッとサブレらしい歯応えをかんじさせる音がした。
「美味しいよ、ナタリー」
「ええ、上手にできていますよ」
そう言うと両親はポロポロと涙をこぼす。
これには驚き、胸に迫るものがある。
「娘がこんなに頑張っていたのに、ずっと放置していて……本当にすまなかった」
「我が家のパティシエと同じくらい美味しいわ。頑張ったわね。もっと早くに声をかけて、味見させてもらえばよかったわ」
わぁ……。私まで泣きそうになる。
天井を見て、涙を堪え、手で顔をパタパタ仰ぐ。
そしてなんとか声を絞り出す。














