安心してください!
「安心してください。誰かに言うつもりはありませんから」
そう言った後に、アレン様はこんなことを話しだした。
「デグラン殿の料理は、もうそれは完璧なものです。洗練され、多くの人が唸るものだと思います。文句などつけようがありません。素材の旨味を余すことなく引き出せる卓越した技、寸分の狂いのない味付け、そして見た目・食べ心地・香り・味わい・咀嚼した時の音まで意識していると思います。まさにカリスマが生み出す、珠玉の料理だと思います」
そこでアレン様がその碧眼の瞳を私に向けた。
「ナタリー嬢のパンケーキは、見習い騎士の時にお世話になった食堂の味を思い出します。食堂のおばちゃん達は、みんな料理のプロというわけではないんです。騎士団から雇用されている街の住人。誰かの母親であり、誰かの奥さんです。自身の家族を喜ばせるために、毎日料理を作っている方々」
アレン様が何を言おうとしているのかが伝わってきて、なんだか涙がでそうになる。
「彼女達が食堂で出してくれる料理は、お腹を空かせている騎士見習いの子ども達が満足するような、ボリュームもあり、味付けもシンプルで、まさに素朴な味なんです。素朴だから食べ飽きないし、毎日食べたいと思う。何よりも……温かい」
温かい……それは今のアレン様の笑顔だと思います!
そんな太陽みたいな笑顔を向けられたら……。
「食べる人が笑顔になれるように、と無意識で愛情をたっぷり注いだ料理だと思います。ナタリー嬢のパンケーキを食べた時、そんな優しい気持ちを思い出しました」
嬉しい言葉に思わず涙がこぼれると、アレン様はすぐに自身のハンカチを取り出し、渡してくれた。
前世で推しだったアレン様は、やはりこの世界でも間違いなく、私の推しだ!
「素敵な言葉をありがとうございます、アレン様」
見つめ合い、まさに微笑み合った時。
カランコロンと扉が開き、ルグスにエスコートされたロゼッタが戻って来た。
ロゼッタの顔を見ると満面の笑顔で「ただいま戻りましたー!」と元気な声を出している。きっとルグスが護衛について、お姫様になったかのような、楽しい時間を過ごせたのだろう。
すると。
「よー、みんな、俺がいなくて寂しかったか?」
デグランが店に入って来た。
国王陛下に謁見していたからだろう。デグランはベージュのスーツ姿だった。スーツは三割増しというけれど、それは本当。今日のデグランはいつも以上にナイス・ガイだった。
デグランが来たということは……壁時計を見て、「あ、もうこんな時間!」と驚くことになる。カフェはクローズの時間が迫っていた。
私と同じくアレン様も時計を見たようだ。
「もうそんな時間でしたか。この後、パブリック・ハウスの営業時間に入るのですよね?」
「はい。アレン様とルグス様はこれから夜間任務ですか?」
「いえ。今日は早朝任務でしたので、後は屋敷へ帰るだけです」
するとロゼッタがこんな提案をする。
「それならばルグスとアレン様、カフェのクローズ作業とパブリック・ハウスのオープン作業を手伝ってください! そうしたらこのデグランのまかないを楽しめます!」
「おいおい、ロゼッタ! 何を勝手なことを。お客様に片付けと準備を手伝わせるなんて」
デグランがロゼッタの頭にぽすっと手を乗せると、アレン様は「デグラン殿のまかない! それは気になりますね。ルグス、たまにはわたしと酒を飲むのはどうだ?」とロゼッタを援護! そしてルグスも「サンフォード副団長とお酒を酌み交わすことができるなんて。光栄です。ぜひお願いします!」と快諾した。
こうしてアレン様とルグスも手伝い、カフェのクローズ作業と、パブリック・ハウスのオープン作業を行うことになった。その作業をしながらロゼッタは、お詫びのパウンドケーキやクッキーを配った成果を報告してくれた。
だがこの報告をするには、お忍びで王妃殿下が来ていたことを話す必要がある。でも王妃はあえてデグランが留守のタイミングを見計らい、店へ来ていた。そうなると王妃が来店していたことは伏せた方がいいだろう。
ロゼッタは、「王妃のこと、話していい?」と目で合図を送るが、私は「ダメ!」とこちらもアイコンタクトで返す。
するとロゼッタは、いずれかの国の高貴な身分の方が、お忍びでカフェに来たということで話し出した。それを発端に、店の周りを多くの人に囲まれ、ちょっとした騒動になってしまったこと。さらには王都警備隊までやってきて、「何事!?」となってしまったこと。でもそれをうまく収めてくれたのはアレン様だったと話した。
その上で、お詫び行脚をした結果をロゼッタは報告してくれる。
「みんな、心配はしていたけど、怒ってはいなかったかな。ただ本当に、あんなに大勢が集まるなんて、驚いたって感じ。しかも解散を命じられた人たちは、手持ち無沙汰だったみたいで、そのまま近隣のパブリック・ハウスで飲み始めた人も多くいたみたいよ。だから『お客さんを連れてきてくれて、ありがとう』って逆に言ってくれたところもあったかな。ランチを食べに来てくれたら、ご馳走すると言ってくれたお店もありました~」
ロゼッタのこの言葉には、胸をなでおろすことになる。営業妨害になるような事態になっていたらと心配したが、そんなことはなかった。むしろ渡したパウンドケーキやクッキーも喜んでもらえたと言うし、本当によかったと思う。
それにランチを食べにおいでと言ってもらえたのも、嬉しい!
こうして片づけは終わり、いよいよデグランのまかないタイムだ。






















































