国境を超えた恋
非日常から日常に戻る時。
待ったなしで日常生活に突入した方が適応が早い……と思うタイプだった、私は。
よって『キャンディタフト』を開店し、常連客に加え、恋愛相談客が当たり前のようにいてくれて良かったと思う。
しかも相談された内容が、なんだかタイムリーなものだった。
「このホリデーシーズンに入り、開かれている舞踏会で出会った方なんです。彼はこの国の方ではなく、親戚がコンランド王国に移住したので、会いに来たというまさに異邦人。こういう場合、つまりは外国人の方と恋愛する際、どんなことを気を付けるといいのでしょうか」
国際恋愛。
これは前世の会員様からも、ちらほら話題に出ていた。
外国人がメインで会員登録している結婚相談所もあるようだが、私が勤めていた会社は違う。それでもハーフの会員様や日本で永住権を取得している会員様もいれば、「もしも外国人とご縁があるなら、外国人と結婚してもいい」という会員様もいたのだ。
そんな会員様から相談を受けることは相応にあった。
「外国人との恋愛といっても、通常の恋愛と同じ部分も大きいですよ。相手を思いやる気持ちが、特に重要になると思います」
ミニパンケーキの二種盛りを食べ始めた、オレンジブラウンに琥珀色の瞳の令嬢に、私は早速アドバイスを始める。
「母国での生活がメインで、他国の文化や慣習に馴染みがないと、全ての基準が自身の生まれ育った国になります。その国ならではの慣習や考え方もあるので、まずはそこを受け入れるところが大切になるのではないでしょうか」
たとえば好きになった相手が、ハーレムが当たり前の砂漠の民だった場合。いきなり「私を好きなら、ハーレムのことは忘れてください。妻は私一人にして欲しいの!」と言っても無理な話。「君のことが好き過ぎて、ハーレムには興味がなくなった。君だけを正妻として迎え、永遠に君だけを愛すると誓う」と相手が言い出して成立することなのだ。
あの人が好き。でもハーレムは嫌。私を好きと思うなら、妻は私一人にして!と最初から要求ばかりではダメということ。
「相手が私のために変わってくれる」という期待でスタートする恋愛は、上手く行かない。期待だけが高まり、暴走しがちになる。期待通りにならないことへのストレスも増えてしまう。期待を裏切られた時、反動で怒りへ変わる。……負の要素しかない!
「彼は仕事が忙しいけれど、私と会うためにきっと時間を作ってくれるわ」「きっといちいちと言わなくても、分かってくるはずよ」「これだけ会いたいと思っているのは、私だけではないはず。手紙の返事、すぐにくれるわよね」――こういった期待を勝手にして、相手の反応の悪さに不安になる。その不安はいつの間にか怒りに変わり……という話は、よく相談されることだった。
「そして彼はホリデーシーズンが終わったら、母国へ戻ってしまう。それまでに告白してもらえるよう、さりげなく気持ちを示していくのがいいのか。それとも友人として遠距離で連絡を取り合うことにして、徐々に気持ちを手紙の中で打ち明けていく。そして告白してくれることを待つ。このどちらがいいのかというと……ケース・バイ・ケースになります。ただ、それぞれのメリット・デメリットは紹介できます」
パンケーキを食べ終えた令嬢は、紅茶のお代わりを飲みながら、真剣に話を聞いている。
「まず帰国前の彼に、ご自身の気持ちをアピールした場合。もしかすると彼もあなたへの気持ちを打ち明けてくれるかもしれません。相思相愛であると分かったら、彼が帰国し、遠距離になっても、不安は軽減されますよね」
彼女の瞳がキラキラ輝く。
きっとこの形が彼女が一番望むことなのだろう。だが、メリットばかりではない。
「いくらアピールしても、彼の気持ちが固まっていないと、希望通りの返事はもらえないでしょう。それでもあなたが相手を意識していることは伝わります。帰国後、気持ちを落ち着かせ、あなたのことをじっくり考えてくれる……かもしれません。ただ……」
ごくりと令嬢は紅茶を飲み干す。
手の空いているロゼッタが、ティーアーンの紅茶をお代わりで出してくれた。
「気持ちをアピールされたこと。帰国目前に答えを急かされたこと。この二つに対し、相手がプレッシャーを感じるかもしれません。あなたのことを好きかどうか、答えが出ていないのに、アピールをされ、急かされると……一気に『重い。お断りしよう』に傾くリスクもあります。帰国後、手紙をいくら書いても返事が来ない……なんてことにもなりかねないでしょう」
ズーンと令嬢は沈むが、メリットだけ話すわけにはいかない。ただ、確認はする。
「帰国する相手にアクションをしない場合のメリットとデメリットも話しますか?」
「はい。ぜひお願いします。今の話もとても参考になっているので、知りたいです!」
「分かりました。帰国前に多少の気持ちをアピールしても、決してやり過ぎず、答えを求めないことで、二人の関係性はあいまいな状態で終わります。それは好機とも言えます」






















































