何が起きているのか、全く不明
銀行の窓口の女性。
ネームプレートでは「キンバリー・ハーエット」という名前が表示されている。彼女とはカフェ「キャンディタフト」をオープンさせてから、毎日のように顔を合わせていた。お店で使っているお金は、この銀行の金庫に預けている。ATMはこの世界にはないので、何をするにも窓口頼み。
商店街絡みのお金の出し入れは、毎日のことであり、利用者も多い。よって専用の窓口が用意されていた。時間帯により窓口の人数が変わるが、私はいつもキンバリーに担当してもらっている。そして先ほど、王妃から受け取った金貨。それを金庫に入れに行ったのだが……。
「ど、ど、どーしたんですか、カフェに王族でも来店したのですか!?」
キンバリーとしてはジョークで言ったつもりだが、その通りだったので、私は「そうなんです! ここだけの話、実は王妃殿下が来店され、看板メニューのパンケーキを食べて帰られました」と答え、「えええええ」とキンバリーを叫ばせてしまった。
驚いたものの、銀行で働くキンバリーは口が堅い。「今度、週末の仕事が休みの日にカフェにお邪魔します」と最後は微笑み、しっかり金庫に金貨の入った巾着袋をしまってくれた。その時、キンバリーに指摘され、今さら気が付いたことがある。
金貨の入った巾着袋には、なんと王家の紋章が刺繍されていた……!
ともかく手元にあると、何か起きそうで怖かった金貨は、無事金庫に入れることができたので、急いでカフェに戻ることにした。
すると不思議な人の流れができている。
まるでその流れに乗るようにして歩いて行くと、その先にあったのは……私のカフェであり、デグランのパブリック・ハウスである建物だった。
どうしたのかと思ったら!
歯軋りマダムと同じくらい、この界隈には親切な人が多かった。
店の入口に屈強な大男がいる、しかも裏口にも!
「これは怪しい」と思い、王都警備隊という前世で言う警察組織に通報してくれていたのだ。しかも何人も!
その結果、私が銀行に行っている間に王都警備隊が駆け付け、心配しているみんなが集まり、カフェに人だかりができた。それを見た人達が「なんだ」とさらに集まり、この様子を見たニュースペーパーの記者が「事件か!?」とやって来て、記者を見た通りすがりの人が「何が起きているの!?」となり、やがて野次馬も集まり……。
既に王都警備隊は去っている。事件ではなく、王妃のお忍び来店であったことをロゼッタが伝えると、彼らは納得し、口外しないといい、屯所へ戻っていた。心配した周辺のみんなも、それぞれのお店もあるのだから、長居はできない。
よってカフェを取り囲むのは、もはや野次馬だけだった。
という状況を知るのは後の時で、この時の私は何が起きているのか、全く不明。
カフェに残してしまったロゼッタの様子も気になる。
意を決し、声をあげることにした。
「通してください。私はカフェの関係者で……」
「カフェの店員さん!? なんでこんなに人がいるんですか? 何かあるんですか?」
今度は私に野次馬が群がり始める。しかも手をのばし、なぜか私に触れようとするので、もう怖くなってしまう。「や、やめてください、放してください……!」と震える声を出した時――。