仰せのままに
店休日の翌日。
前日にほろ酔いだったがデグランが水を飲ませ、さらに帰りの馬車の中でも飲むようにと水袋まで持たせてくれたから……。
二日酔いではない。
だがしかーし!
また酔った私は大変な失態をおかした気がする。
涙脆くなった時点で「酔っていますよ、私」と自覚し、いろいろセーブすべきだった。
それなのに……。
シェーカーを振るデグランを見たいのだの、シェーカーを振る時のデグランは、あーだ、こーだと熱弁。挙句、抱きつき、シェーカーを振るわせた。
しかもシェーカーで大人しくすればいいものを、帰りたくないと表情に出し……。
あ~~~、またも黒歴史を刻んでしまった気がする。
どんな顔でデグランと顔を合わせればいいの!?と思っていたら!
なんと。
なんと!
デグランが朝から我が家にやって来たのだ……!
しかもきちんとインディゴ色のスーツを着て、朝から大変爽やかな笑顔で両親や姉に挨拶。
一緒に朝食の席に座った。
するとその朝食の席でデグランは、流暢に話し出す。
オータムフェスティバルで、両親や姉がスイートパンプキンを購入してくれたことへの御礼から始まり、スイートパンプキン作りの苦労話から、レシピを紹介。厨房から駆け付けたシェフは、真剣な表情でメモをとる。
実にデグランは社交的で、両親を喜ばせ、そして姉でさえ――。
「朝から楽しかったわ。それに本家のスイートポテトも食べたくなった。きっとデグラン様なら作れるわよね? サツマイモさえ、手に入れば。作ったらぜひ食べさせて頂戴ね」
姉はご機嫌で屋敷を出て行く。
こうして離れの厨房で、ようやくデグランと二人きりになると、突然の訪問理由を尋ねた。
「それはそうだろう。昨晩のナタリーお嬢さんは、俺にとってかなり刺激的だった。副団長のように完璧な紳士を演じられたのは、ナタリーお嬢さんが馬車に乗るのを見送ったところまでだ。その後はもうナタリーお嬢さんを思い出し、悶々とすることになった。つまりは会いたくてたまらなくなっていたんだ」
そう言うとデグランは、ふわっと私を抱き寄せる。
「本当に。俺自身驚きだよ。一人なんてへっちゃらだ、独り寝でも寂しくない……なんて豪語していたのに。数時間後にまた会えるのに、我慢できなくなるなんて」
そこでぎゅっと私を抱きしめた後、デグランはこちらを覗き込むようにして尋ねる。
「ナタリーお嬢さんも、同じ気持ちだった?」
「そ、それが……」
たっぷりのお水を飲み、入浴を終えた私は、シェーカーを振るデグランを見ることが出来て、さらに大人のキスも素敵で、最後の首筋へのキスにも満足で……。つまりは完全に満たされ、爆睡していた。ただ記憶は残っており、恥ずかしくなっていただけだった。
「ナタリーお嬢さん、とんでもない小悪魔だな。俺の心をあれだけ翻弄して自分は爆睡とは……。でもまあ、眠れないと可哀想だ。立ち仕事は睡眠不足の影響がダイレクトに出るからな。ちゃんと眠れて良かったよ」
そう言うとデグランは、寝不足とは思えない爽やかな笑顔になると、いつものバードキスをした。
「ではパウンドケーキとクッキーを作るか」
「は、はい。でもそれは私でも一人で作れるので、よかったら客間のソファで横になってください」
「!? 大丈夫だよ。俺、一応、まだ若いから!」
私は首をふるふる振ると「立ち仕事は睡眠不足の影響がダイレクトに出るんですよね」と指摘する。これにはデグランが「ま、そうだな」と口ごもり、そこを突破口に私は離れの客間に、デグランを案内する。そして毛布を渡し、仮眠をとってもらうことにした。
こうしていつも通りで私はパウンドケーキとクッキーを焼き、冷ましている間に客間へ向かうと……。
デグランはすやすやと眠っていた。
さすが旅暮らしが長かっただけある。
決してソファでの寝心地はいいわけではないだろうに、とても気持ちよさそうに眠っていた。
「デグラン。ごめんなさいね。酔って甘え過ぎて。でも……本当は私、甘えるのも甘えられるのも大好きみたいです。こんな風に会いに来てくれたこと、嬉しかった……」
寝ているデグランにだからこそ言える言葉を伝え、それからゆっくり唇へキスをすると……。
「!」
「ありがとう、ナタリーお嬢さん。おかげでかなり深く眠れたよ。でもお姫様のキスには目が覚めた!」
ソファで眠っていたはずのデグランに、抱きしめられていた。
「パウンドケーキとクッキーは焼き終えた?」
「はい。今、冷ましています」
「そっか。じゃあしばらくは溺愛してもいい?」
ドキッともしたが、甘えたい気持ちは私も同じ。
「はい。甘えて欲しいです」
「仰せのままに。ナタリーお嬢さん」
そう言うとデグランはゆっくりと唇を重ね――。
◇
モブである私が、あり得ない幸せを迎えるために。
乗り越えた三つの試練。
最後の試練は実にハードモードなものだった。
今回、いよいよ溺愛モードに入ったと思ったら……。
私は照れ屋で、デグランは真面目で。
よく見る乙女ゲームの糖分高めの溺愛にはなっていない。
でもこれは私にとって、丁度いいぐらいだった。
これまでよりスキンシップは多め。
時々大人のキス。
でも普段は健康的にお互いの気持ちを伝えあって……。
ただ、どうなのかしら?
デグランは結婚式を挙げたら……なんてミステリアスなことを言っていた。
何はともあれ。
私の恋はとっても順調で平和です!






















































