なんだか心強いわ!
「お恥ずかしい話ですが、年齢的に縁談話が出ています。ですがその縁談のお相手は、すべて家同士の利益につながるか、政治的にうまみがあるか、そのような基準で選ばれた方ばかりで……」
「それは貴族の結婚ではよくあるお話よね。巷で流行しているロマンス小説のように、愛する人と結ばれるのは難しいこと。ですからシルバーストーン伯爵令嬢が、縁談話の相手が、意に沿う方ではないと思うのは、仕方ないことだと思いますわよ」
優しい表情で王妃から言われると、胸にグッとくる。
王妃と国王陛下はおしどり夫婦として知られていた。政略結婚でもうまくいく場合もあるのだ。ご自身は幸せだろうが、世の中の傾向はちゃんと知っている。だからこそこうやって、理解を示してくれるのね……。
そんな王妃だからこそ、国王陛下とうまくいくのだと思えた。
それに比べると、私は我が儘なのかしら……と思いつつ、話を続ける。
「持ち込まれた縁談話を断り続けていれば、いずれ私は両親から勘当されるかもしれないと考えました。そうなった時、一人でも生きて行けるようにと考え、このカフェを始めました」
「それはなんて素晴らしい志かしら。縁談話の相手が気に入らないと思っても、多くの方が我慢して婚約して、嫁いでいくことが多いと思うのよ。それなのにいざとなったら自活するためにカフェを始めたなんて。……そんな強い女性がこの国にいるなんて、なんだか心強いわ!」
王妃はとても喜び、私の手を取った。
そしてぎゅっと私の手を握り締めると、こんな風に言ってくれる。
「そうやって頑張っている人のところには、幸運が舞い込むはずよ。大丈夫。きっといいことがあるわ」
「王妃殿下……」
これには心からジーンと感動してしまう。
私と王妃の様子を見て、ロゼッタの目も潤んでいた。
「なんだか帰り際に打ち明け話を突然させることになってしまい、ごめんなさいね」
「そ、そんな、王妃殿下、謝罪なんて、なさらないでください。こちらこそ、プライベートな話を唐突にしてしまい、申し訳ありませんでした」
「そんなことないですわ。打ち明けていただけて嬉しかったですよ」
王妃の優しさに再びジーンと感動し、そしていよいよ彼女が帰ることになった。
帰り際に王妃が近衛騎士に声をかけ巾着袋一つをカウンターに置くのでビックリしてしまう。その重量感から中身は金貨であり、とんでもない金額だと分かる。
「貸し切りにしてしまいましたからね。あとはお祝い金だと思ってください」
開店祝いということだと思うけど、それにしてもこんなに受け取ることはできない……!
「王妃殿下、そろそろお戻りいただく時間です。この後、内務大臣との打ち合わせがございますよね?」
近衛騎士に声をかけられ、王妃は慌てて店を出ることとなり、結局とんでもない大金を受け取ることになった。
王妃を見送った後は、大変!
すぐにお店を開けたいが、こんな大金が店にあるのは落ち着かない。
周辺のお店の人達は既に顔見知りだが、余所者がウロついている可能性もあった。よってこんなに金貨があると分かれば、強盗が入る可能性もある。
「すぐに銀行に行った方がいいですよ!」とロゼッタに言われたが、その通りだと思う。だが一人でこの大金を持ち歩くこと自体が不安だった。
するとそこにバートンが来てくれたのだ!
「ナタリーお嬢さんのお店がとんでもないことになっているって、歯軋りマダムがわざわざ教えに来てくれました。彼女、せっかくカフェに来たのに、貸し切りかと驚いたそうです。しかも店の入口には、身長が三メートル近くある大男が二人もいるのを見たそうで。何か事件に巻き込まれているのでは? これは大変!と、僕に知らせてくれました」
歯軋りマダム……オープン初日に来店し、恋愛相談を初めてしてくれたお客さんだ。なんだかんだでオータムフェスティバルでパウンドケーキとクッキーも買ってくれて、今日もわざわざ足を運んでくれている。しかもバートンに事態を知らせてくれるなんて! ありがたいことだ。
しかし“身長が三メートル近くある大男が二人”!
これはあきらかに盛り過ぎだと思う。ただ、パッと見た時、それぐらいのインパクトがあったのだと思えた。
それにしても貸し切りで入れなかったのは、本当に申し訳ない!
「マダムは『用事があるから、また来る』と言って帰っていきましたよ。……しかし、まさか王族が貸し切りにしていたなんて、驚きです」
みんなあの屈強な近衛騎士を見て、“なんだか悪党のボスがカフェを貸し切りにして、パンケーキを食べている?”とでも思っていそうだ。
それはさておき、バートンが来てくれたのは渡りに船だった。
銀行に行きたいのだが、大金を一人で持ち歩くのは心配だ。バートンに一緒に来て欲しいと頼むと……。
「お安い御用です。一緒に行きましょう。ロゼッタは留守番だね」
「うん。銀行から戻ったら、すぐにお店を開けられるよう、準備しておく! 気を付けていってらっしゃい、ナタリーお嬢様、お兄ちゃん!」
バートンによると、画材屋は少し遅いお昼休憩ということで、お知らせプレートを出していた。店員が一人しかいないお店では、昼休憩で店を閉めることはよくあること。よってそこは問題ないが、帰りはカフェまで送れないとのこと。それは無問題だ!
こうしてバートンと二人、銀行へ向かった。














