アツアツのポテトグラタン
公園を出ると、マーケットへ向かう。
朝市とは違い、これから向かうマーケットは十時頃から二十時頃まで毎日開いており、前世で言うならスーパーマーケットのような存在だった。食材から日用品まで、なんでも揃うので、いつ行っても沢山のお客さんでにぎわっている。
「さて。今晩は何を食べようか」
「そうですね……。お昼がシンプルにおにぎりだったので、夜はガッツリお肉料理でもいいかもしれません。今の時間から準備するなら手の込んだ料理もいけそうですから」
「よし。では肉売り場へ行こう!」
デグランと手をつなぎ、歩き出すと、なんと現役の宮廷料理人にも遭遇する。
王族と食べる料理の食材は、独自ルートで仕入れていた。宮殿の食堂で提供される料理の食材は、こういったマーケットで仕入れることもあるという。つまり宮廷料理人は、王族以外、宮殿で働く使用人のための料理も担当しているというわけだ。
そんな彼らにばったり会うと、もう大変!
みんな目が「あの伝説のスー・シェフのデグラン様だ!」とキラキラし始める。そしてここぞとばかりに料理や食材について質問をするのだ。その中には「メイドのジェリーとバトラーのコール。この二人が婚約することになったんです。サプライズでスペシャル料理を出すなら、今の季節、何がいいですかね?」なんてことを尋ねたりする。
そんな質問にデグランは「それだったら……」とシンプルな家庭料理を提案。だがそれはちょっとした工夫があった。宮殿だからこそ手に入るワンランク上の食材を使うことを進言している。
「チーズ一つとっても、宮殿では最低レベル。でも宮殿の外では十分なランクだ。そして冬が近づく今、低温保存されたポテトは、でんぷんが糖へ変わり、甘みが増す。ワンランク上のチーズとポテト、そこにたっぷりのクリームを加え、焼き上げる。ほくほくで温かく、シンプルだけど、絶品な料理ができるはずだ」
「「「なるほど」」」
宮廷料理人は大喜びで「その案を採用させていただきます!」と頭を下げ、去って行く。
一方の私は。
デグランの言葉に、アツアツのポテトグラタンが頭に浮かび、食べたい気持ちが……非常に高まっていた。
「どうした、ナタリーお嬢さん?」
「私も今の料理、食べたくなってしまいました……!」
「ははは! そうだな。そこに安いけど質のいいチーズを売るお店があるから、そこでチーズとクリームを買って、今晩はポテトグラタンを作ろう。美味しい白ワインもあるからな。あ、シャンパンでもいいか。そうなるとメインは……」
そこでデグランがパチンと指を鳴らす。
「魚でいいと。魚……あっ、見て、ナタリーお嬢さん。あのエビ、新鮮そうだ。ガーリックシュリンプにするのはどうかな? ポテトグラタンとも合うだろう。あとは温野菜。アジャリ様の、冬でも野菜を温かく食べる方法は妙案だと思うからな。デザートはチョコレートのファッジを作ろう。こってり肉料理の代わりの、甘い、甘いデザートだ」
もう脳内にポテトグラタン、ガーリックシュリンプ、温野菜、コーヒー&チョコレートファッジが並ぶ様子が浮かび、お腹が鳴りそうになる。
「ぜひそうしましょう!」と応じ、それぞれのお店へ向かう。
「おう、デグラン! エビもいいが、タラも新鮮だぞ。どうだ、タラも買わないか?」
「デグラン、クリームチーズにラムレーズンを加えた新商品があるんだよ。試食してみないかい?」
「ガーリックシュリンプを食うなら、パセリだろう。パセリはサービスでつけてといてやるよ!」
デグランはマーケットにも知り合いが多い。
いろいろなものがお得に次々と手に入る。
パセリは確かにガーリックの匂いを消すために活用されているので、サービスでもらえるなんてラッキーだ。それに……。
「ナタリーお嬢さん、ラムレーズン入りのクリームチーズ、気に入ったんじゃないか?」
試食したチーズはまさにデザートチーズで、とっても美味しかったのだ。
「! はい。とても好みの味でした……!」
「じゃあ、デザートはこれにするか? 甘口のシャンパンかスパークリングワインに合わせると、食後のデザートにぴったりだ」
食後でデザートと一緒にお酒を楽しむ。
なんだか大人な感じでいいと思う。
「ぜひ、そうしましょう!」
食材の詰まった麻袋を、デグランが両手で抱えている。
私は野菜が入った籠を手に持っていた。
二人で並んで歩きながら、マーケットを出る。
まさに休日。
買い物を終えた新婚夫婦みたいで、私は嬉しくてならない。
「ナタリーお嬢さん、なんだか嬉しそうだな」
「嬉しいです。デグラン様とこうやって夕食の食材の買い出しをして、一緒に帰れることが」
「買い出しが楽しいのか、ナタリーお嬢さん!?」
「デグラン様と一緒の買い出しだから、楽しいんです!」
これを聞いたデグランは「……!」とこぼれそうな笑顔になる。
「ちょっと立ち止まって、こっちを見て、ナタリーお嬢さん」
「あ、はい」
どうしたのかとデグランを見上げると、甘々に輝く瞳と目が合う。
その次の瞬間には。
ふわりと優しくキスをされている。
「俺もナタリーお嬢さんと買い出しが出来て、すごく幸せ」
そう言うと実にスマートにウィンクをした。






















































