一番重要なこと。それは……
次から次へともたらされる情報が、いちいち衝撃的で、私は軽くパニックになる。
そこで一度落ち着くことにした。
偽物のイルーゼは、デグランをいかに好きかを熱く語っているので、クールダウンには丁度良かった。
一番重要なこと。それは、デグランは生きている。
次にデグランだと思った遺体は、別人だった。
デグランを好きな偽イルーゼ……シンシアが、彼を手に入れるために画策したんだ。
それにしても一国の皇女が実は偽物だなんて。
衝撃的だった。
しかも幼い子供の頃に、殺人事件も起こしている。
そんなサイコパスな皇女に、デグランは捕まってしまったの!?
「デグラン、今の私の告白、聞いたでしょう。これを聞いたあなたを、もう逃がすことはできないわ。逃げたら最後、本当に手に掛けることになっちゃう。どうして私を拒むの? 私は第一皇女よ。そして兄はいない。私と結婚したら、デグランは皇帝になれるのよ」
「俺は別に皇帝になんて興味はない」
「じゃあ、あの婚約者? でも覚えていないのでしょう? それに見たでしょう。この国で今一番令嬢から人気がある、アレン・ヒュー・サンフォード王立騎士団副団長。熱い抱擁をしていたじゃない。あなたが行方不明と分かったら、他の男に簡単に鞍替えするような女よ」
これには心臓が止まりそうになる。
生霊だから心臓はないけれど、ドキンと反応していた。
だって、アレン様の胸を借り、泣いたことは事実だった。
でもあれは断じて抱擁などではない。
というか、見ていたの……!?
あの近くにシンシアとデグランは来ていたの……?
「だからその女は関係ない。俺自身、覚えていないんだから。従わないならあの女をどうにかしてやると脅されても、『だから?』としか思えない」
その女……私のことだ。
デグランは生きている。
走馬灯を見ていない。
だからやっぱり私のことは……思い出していないんだ。
「でも勝手にここを抜け出して、会いに行ったのでしょう?」
!? え、私に会いに来たの、デグラン……!?
「違う。あの女に会うためではない。あくまで自分の店がどうなっているのか、確認するためだ」
するとシンシアは大きくため息をつく。
でもため息は……私も同じだ。
「一度目は確認。それで確認できたのに、なんで翌日も向かったのよ?」
「それは……君が俺に変なハーブを飲ませるからだ」
ハーブ……?
「仕方ないじゃない。デグランが新しい身分を受け入れてくれないから。あなたはアーサー・マックス。マックス侯爵の私生児。今回父親から認知されたけど、貴族としては受け入れてもらえない。だから私と一緒に、帝国へ移住することを決めた。帝国に着いたら、私の婚約者になる。爵位だっていくらでもあげるわ。マックス侯爵の私生児なんて、納得できる身分ではないかもしれない。でも今だけ、受け入れて欲しいのよ」
「断る。侯爵の私生児という身分が、気に食わないからではない。俺は誰かに束縛されたくないんだ。それに君のことも好きではない。だからもう解放してくれ。俺にはハーブが効かないと、分かっただろう?」
するとシンシアは、なんと自身の胸の谷間から、小瓶を取り出した。
中には何かの液体が入っている。
「もう一度だけ、試そうかしら? だってあなたを店の近くで捕えた時、顔色がよくなくて、汗もかいていたのでしょう。少しは効果、あったのじゃないかしら?」
「やめろ。そんなハーブを飲ませても、俺はアーサー・マックスという身分を受け入れるつもりも、君と婚約するつもりもない。出国審査でも、自分の名前はデグランだと主張する!」
「この前は紅茶に混ぜたけど、今回はワインにでも入れましょうか。……このハーブ、孤児院のスタッフに飲ませたら大変だったのよ。男女入り乱れての乱痴気騒ぎ。もう彼らはどっぷりハーブ漬けで、そしてハーブの製造を行う部屋も仕立て上げた。後はこの情報をリークすれば、この孤児院はおしまい。私を脅した罰が当たるのよ」
この話に私は何かがひらめきかけたが、今はそうではない。
デグランが変なハーブを飲まされてしまう。
そしてそれを飲みたくないと、デグランは言っている。
助けなきゃ!
でも私に体はない。
何か方法は……。
声は聞こえないが、接近すれば、気配を感じられる。
ならば……。
偽の皇女を演じるシンシアに近づき、その耳元で「シンシア」と何度も囁く。
すると……。
シンシアは蚊をはらうように手を動かす。
何か気配を感じている!
執拗に繰り返すと、シンシアの顔色が変わった。
宙を睨み、不快そうな顔をして部屋を出て行く。
少しは時間を稼げた!?
でもこれ以上は無理。
デグラン、必ず、助けに行くから。
それまでは何とかハーブを飲まされないようにして!
そこから私は、まさに光の速度で自分の体へ戻った。
そして目覚めると、見たことを早口で一気に語る。
「とにかくデグラン殿が、怪しいハーブを飲まされそうなんですね」
さすがアレン様。私が一番言いたいことを、ズバリ口にしてくれた。
「はい! 何度か飲まされ、でもハーブの効果はでなかったようです。ですがデグラン様は、嫌がっていました。それに明確な効果は出なくても、辛い様子だったので、あの偽皇女を止めて欲しいんです!」
「分かりました。今すぐ、動きましょう」
アレン様が立ち上がった。
お読みいただき、ありがとうございます。
【お知らせ】連載再開
『婚約破棄を言い放つ令息の母親に転生!
でも安心してください。
軌道修正してハピエンにいたします!』
https://ncode.syosetu.com/n0824jc/
本作の連載が再開しています。
併読している読者様、大変お待たせいたしました。
ページ下部のリンクバナーよりよろしくお願いいたします。






















































